2018.9.14 UP

産地問屋の新しいカタチ。体験型ショップ「村の鍛冶屋」 山谷産業

一面がガラス張りの店舗フロアは、雪国の冬らしいやわらかい光で満ちている。
店内に足を踏み入れると、初めに目を引くのは空間の中心に大きくしつらえられた開放感あふれるキッチンだ。キッチンカウンターを利用してつくられた陳列棚には、包丁やアウトドアグッズ、燕三条地域の特産品がすぐ手に取りやすい配置でディスプレイされている。

ここは「村の鍛冶屋」。

2017年10月に卸売業を営む株式会社山谷産業がオープンさせた地場のものづくりのセレクトショップだ。

 

この店舗のコンセプトは、「体験型販売」。

ただ「商品」を購入するだけではなく、実際に商品を試し使いするために、万人へ開かれた場所でもある。

早速、燕三条産の包丁でトマトを切らせてもらうと、切れ味が鋭く、どんなに薄く切っても断面がつぶれないことに驚いた。なにをもってよい包丁と呼ぶべきなのか今までわからなかったが、余計な説明は必要なかった。ただ、一度実際に使うだけで、他の包丁との違いをまざまざと感じることができる。

 

 

全くトマトが潰れることがないほど、切れ味の良い包丁
店舗を経営する山谷産業は、同名のネットショップ「村の鍛冶屋」も店舗同様、包丁やアウトドア商品を扱い、その売上は今期7億に達する。国内外に広く顧客をもち、2017年には大手ECサイト、楽天市場から贈られる「ショップ・オブ・ザ・イヤー」のジャンル賞を受賞した。これは楽天市場に出展する4万店以上の中から、ジャンルごとに選ばれた100社に贈られる栄誉ある賞だ。

山谷産業の変遷について聞くと、ビジネス形態を幾度となく大きく変えてきたと言う。

最初は、全国を渡り歩きながら、漁具の仕入れ販売。その後、EC事業を立ち上げ、包丁をはじめとしたの金物も売るようになり、さらにその後は自社で開発したキャンプ用のペグなどのアウトドア用品までもが主力製品となり、気づけば実店舗までオープンさせていた──。

経営業態の転換は、必ずしも成功するとは限らないのに、なぜ、上手くいったのか?なぜ、卸し売り業から始めて実店舗を開くに至ったのか?
そもそも、なぜ扱う商材をこれほど変えてきたのか?頭のなかを「?」でいっぱいにしながら、社長の山谷武範さん(以下、山谷さん)に話を聞いた。

 
 

漁具の実地販売からスタートし、ECへ移行。実店舗まで持つことになった経緯。

山谷産業は、山谷さんの父が設立。六畳一間から始まった、家族経営の会社だ。

 

社長の山谷武範さんは家業の大転換を図った
「うちの事業が始まったのは今から38年前。父と母、そして叔父の3人で、漁具、つまり漁師が使う道具の販売から始めました。そのころは鉄の漁具が主流でしたが、父がいち早くステンレスに目をつけ、近隣の協力工場とステンレス漁具を開発し、全国に販売していました。このやり方で、20年ほどやっていました。」

現在のようなEC販売に鞍替えしたのは、家族経営ならではの理由があった。

「二人三脚で父と会社を支えてきた母に疾患が見つかり、今まで通り全国各地を回りながらの実地販売ができなくなったんです。そこで、場所を選ばないEC販売に踏み切りました。船頭役は、私の弟。2000年頭のことで、まだ、楽天などのECモールが立ち上がり始めたばかりの時期です。」

漁具だけでは客層がどうしても限られてしまう。そこで、眼を付けたのが地元・燕三条の包丁。燕三条の鍛治技術は国内でも名高く、十分な商品価値が見込まれた。

 

燕三条の刃物
「最初は、近隣で包丁をつくっている職人さんのところに行って『インターネットで売らせてください』とお願いしてもあまり良い反応ではなかったです。『絶対売れないだろう』と言って、試しに数本渡してくれるだけ。しかし、吉金刃物さんのこのあたりでは一目置かれている親方が認めてくれるようになってから、みるみるうちに協力してくれる人が増えていきました。それからは、サイトに掲載する包丁の宣材写真を撮っては更新、撮っては更新、の繰り返しで。2008年ごろには、ECサイトの販売収益で会社が成り立つようになりました。」

 
 

好きこそものの上手なれ。
アウトドア好きが高じて、ペグを自社製造して大成功

山谷産業の大転換は留まることを知らない。次に着手したのはアウトドア商品、しかも自社製品の開発だった。

「専務であるうちの弟がアウトドア好きなんです。キャンプでテントを張るときに使うペグの話を仲間としているうちに、出回っているものは使い勝手が悪い上に種類が限られているから、少し手を加えれば絶対に売れるとなったようで。話が盛り上がっていたまさにそのころ、自分が社長の座につき、商品開発のジャッジを下すことになりました。まだあまり数字のこともわからなくて、それならば試しにつくってみよう、と勢いでゴーサインを出しました。

材料コストを考えると、最低でも1万本はつくらないといけない。こんなにつくって何年で売れるのだろうか、と不安もありましたが、いざ売り始めると、3ヶ月で完売したんです。これはやばいぞ、と慌てて生産量を増やしたところ、1年でトータル5万本の売り上げになりました。

 

キャンプシーンに華を添える色とりどりのペグハンマー
当時、年間30万本ほど売れると言われていたペグ市場なので、急に結構なシェアを占めることに成功したんです。その後も、大きさを変えたり、色のバリエーションを増やしたりして、直近では年間40万本を売り上げるまでになりました。今ではすっかりうちの主力商品です。」

さらに最近では、アウトドアで塊肉を回しながら焼けるローストスタンドなど、新たなBBQ商品も開発している。

「アートディレクターの石川竜太さんと参加した勉強会がきっかけで、BBQブランド<TSBBQ>を一緒に始めました。キャンプで使うローストスタンド、コーヒーセット、ホットサンドメーカーをつくっています。デザイナーの名前を出してつくる商品は初めてで、自分たちの様なもともとは自社商品を作っていなかった様な会社でも、デザイナーさんを入れてしっかり商品がつくれるんだ、という発見がありました。」

 

山谷産業の自社製品TSBBQの商品

 
 

社長自らがユーザーと繋がる、営業上がりのネットショップ活用術

包丁も、ペグの販売も、ネットショップだからこそ上手くいった、と山谷さんは言い切る。今でこそECはやっていて当たり前、むしろ小規模メーカーが商品を販売するための必須販路でもある。だが、始めやすくても、必ずしも誰もがECの販売がうまくいくとは限らない。
山谷産業は、ここでもひと味違う戦略を図っていた。

「オンラインでもユーザーとの密なコミュニケーションを心がけました。かつて東京のメーカーで営業していたので、エンドユーザーさんから直接お話を伺う機会が多く、同様のやりとりがオンラインでも当たり前にできると思ったんです。たとえば、商品の感想が書かれた記事を探しては、自らコメントしていました。商品販売者、しかも一社長が直々にコメントをすることは、あまり聞きませんし、驚かれた方もいると思います。あとは、レビュー数をなるべく増やせる様にも心がけています。」

こうした地道な積み重ねを経て、徐々にネットショップ「村の鍛冶屋」や、自社のアウトドア商品はファンを増やしていった。近年では、ツイッターやフェイスブックなどのSNSも活用し、積極的に情報を発信する。投稿には必ずリアクションやコメントがつく。

「フェイスブックのファン数は3000人ほど。こんな商売をしている割には多いんです。特別なことはしていませんが、事務所スタッフ全員で運用しているので、誰が投稿したかわかるようにしたり、事務的な内容以外も投稿するようにしています。先日、自分が店の外で仕事中にそり滑りしている動画を載せてみたりもしました(笑)。投稿本数は、だいたい1日に一本。それ以外の運用方法は決めていません。決めてしまうとつまらなくなってしまいますしね。」

 

 

過去には、SNSでユーザーとのやりとりから商品が生まれたこともあった。

「先ほど話したTSBBQのローストスタンドは、ツイッターで依頼がきたんです。連絡がきてから約1年後、製品が完成したことをその人に連絡したら、さすがに驚いていました(笑)。まじでつくったんか!と。」

 

つくり手と対等な関係を築き、顔の見える商品づくりをしていきたい

山谷さんいわく、良い商品づくりは、職人との密な連携が不可欠だという。

「例えば、カービングアックスの開発は、職人さんの手元に残っていたオノの頭200~300個を何かに有効活用できないか、という話から始まりました。うちの会社で売れていたペグハンマーの柄と組み合わせてつくったところ、予想外に商品が大ヒットしたんです。

 

ペグハンマーとカービングアックス
刃当ても、良くある素材を使うのではなく、高級感のある革にしました。結果的にはケースを革に変えた分の原価300円ほどの値上げをしたにもかかわらず、ユーザーからは安いと言われたんです。」

商品の開発・改良は、職人とのやりとりから生まれてきたものだ。どれも、物理的に職人さんが近くにいたからこそ、できたことだと山谷さんは言う。

「歩いて10分のところに職人さんがいますからね。インターネットで集めたレビューをもっていって、こういう声があるからこう改良してほしい、と直接顔を見て話ができる。物理的に近いとすぐに商品のフィードバックできるから、とてもやりやすい。良い商品をつくれた理由は、それしかないと断言できます。」

 

山谷さんと商品を作る職人との関係はあくまでも対等であり、できあがった商品は、職人や工場などの、つくった人の顔が見えるようにしている。

「これまでの職人さんは一般的には頼まれたものを作り、納品して終わりが多かった。職人さんからすると、どんな人が自分が作った商品を使ってくれているのかは、実際にはわからなかった。

それに、この地域の下請けの立場の職人さんたちは疲れているんです。現場でなんらかの理由でコストがアップしたので『値段を上げてくれ』と言っても、ふつう、企業は取り合ってくれない場合が多いのです。発注先との関係が対等ではないんですね。

こうした業界の現状を変えたいと、うちのネットショップでは誰がつくったのかがわかるよう、商品とともに作り手の名前と顔写真を掲載しています。誰がつくったのかが見えると、その人への技術料だとお客さんも分かり、決して安くない販売価格にも納得がいく。結果的に、商品がよく売れる。職人さん良し、お客さん良し、私たちよしの、三方良しになっていると思います。」

 

 
 

5年後の夢が1年後の現実に。「村の鍛冶屋」リアルショップがオープン

つくり手の顔が見えるように、商品を販売する──。

その考えは、実店舗「村の鍛冶屋」の運営にも生かされている。

 

「ネットショップだけでなく実店舗を持つことは、漠然とした夢でした。なんとなく5年後くらいにできたらいいなと思って、銀行の支店長さんに話したところ、なんと1年後にはもう店舗ができていました(笑)。その方がすぐに今の土地を見つけてくれて、売買可能な状態にしてくれたんです。

それで、土地を買っちゃったからにはお店を建て動き始めないといけないので、もう勢いです、それからは。オープンの1ヶ月前になってもまだ施工業者が決まっていないというような感じで、それはもう大変でした(笑)。なんせ5年計画だった夢が、突然、1年後に実現することになったんですから。

具体的な構想はさすがに詰めきれていませんでしたが、お客さんが商品を試し使いできる場にしたいという構想は最初からありました。」

 

取材中もハンドドリップで珈琲を淹れてくれた山谷社長
その着想を得たのは、工場の祭典*がきっかけ。吉金刃物さんと共同出展するにあたり、ただ工場を見せるだけでは物足りないだろうと、実際に包丁を使ってもらうことにしたのだ。

*工場の祭典…燕三条と周辺地域で開催されている、ものづくりが体感できるイベント。普段は閉じられている工場や農耕場を訪れ、職人との交流やワークショップを通して地場の高い技術力に触れることができる。平成25年度から毎年初秋に実施。

 

「みなさんと一緒に豚汁をつくったんです。大根やら、にんじんやら実際に切ってもらいました。すると、やっぱり普段台所で使っている包丁と違う、と気づかれるんです。みなさん見事に包丁を買っていかれました。その時、この「体験型販売」は、自分の商売にも生かせると思いました。」

「体験型販売」は、地元の人にこそ広めたいと山谷さんは言う。

「地元の人こそ、地元のものを使わない。お店に来てくれる人も、たいがいは遠方の人や県外の人たちで、地元の人は大型ホームセンターに行き、安くて薄い海外製の鍋を買うのが現状です。

せっかく近くで作られているんだから、地元の人たちにこそ商品の素晴らしさを実感してもらって、普段づかいしてほしい。このお店がそのきっかけになれば本望です。構えず、子供と遊びにきたり、犬の散歩の途中にふらりと立ち寄ったりするくらいの気持ちで良いんです。コーヒーもありますしね。」

 

ショップではドリップポットの使用体験もできる

 

「村の鍛冶屋」の次なる夢は、この街を産業観光都市にすること

今後の展開としては、町全体に宿泊所を増やして、長期滞在してもらえるような町づくりをしたいと山谷さんは言う。

「仕事でパリに行ったときに、地元の人に『日本はホテル代が高い、だから長くいられない』と言われました。確かにそうだなと思って。

この辺りには空き家も多いですし、そういった空き家を滞在場所に改築して、お店や工場をまわる拠点にしてってもいいなと。そんな産業観光都市に発展していったら面白いですよね。今の会社でやるのは難しいので、新しく会社をつくるか、まわりの人と協力してやっていきたいです。」

 

漁具の販売から金物の販売へ。卸売から、EC、そして実店舗へ。
山谷さんの、そして山谷産業の変化は、小規模の会社のそれとしては大きいものだろう。「どれもが勢いです」と山谷さんが語るように、ときには状況に迫られ、ときにはまわりの人にチャンスをもらったり背中を押してもらったりして、とにかく前に進まざるを得なかったこともある。

だが同時に、漁具やペグといったニッチな分野の商品に、いち早くECや体験型の店舗といった手段で攻めたことが、功を奏したのではないだろうか。そこに勢いと、職人や顧客との地道なやりとりと積み重ねが加わることで、山谷産業の今の姿ができていった。

そんな山谷さんと山谷産業の頼もしい姿は、これから家族の事業を継ごうと思う人、自分で事業を始めようと思う人の支えやヒントにもなり得るし、これからの時代の産地問屋のあるべき姿なのかもしれない。

 
 

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株式会社山谷産業

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