2018.11.15 UP

心は燕三条株式会社。求められることを真摯に且つ淡々と。金属加工のシマト工業株式会社

日本の製造業に元気がないと言われて久しい。
だが、そんな向かい風をものともしない企業が燕三条にはある。
対企業取引のみに特化して金属加工製造を行なう、シマト工業株式会社だ。

 

 

会社の大きな特徴は、全国でも数少ないと言われる一貫した製造システムにある。金型からプレス加工、溶接、表面処理、そして組立までの一連の設備が自社工場に揃っている。

直近の年間売上は60億円、北海道から四国まで全国に顧客がいる。それでも、売り込み営業は一切していない。協力工場は燕三条の地場を中心に100社以上あり、年間15〜20億円のお金の流れがあるという。

いったい、営業もせずにどうやって仕事を請けているのか。会社としての強みの一貫した製造システムとはどのようなものなのか。総務部部長の虎谷栄一郎さん(以下、虎谷さん)に話を伺った。

一貫生産、短納期小ロット、自社製品持たず、を徹底

「突き抜けた技術は、うちの工場にはありません。」

そう語る虎谷さん。だからこそ、徹底してそれ以外での差別化を図っています、と続けた。

 

 

一貫した製造システムは設備投資にお金がかかり機械の数だけ場所も必要だ。ところが、そのマイナス要因を差し引いても、この一貫システムがシマト工業においては会社の強みとなっている。                                                     

「お客様からすると、一貫した生産は多くの業者とやり取りする手間が省けるし、納期の目処がつきやすいんです。もちろんその分、私たちはたくさんの協力工場を抱えてやりとりをすることになりますが、生産の拠点はある程度集約されていますし、生産スケジュール等の管理も自社で行うのでスムーズなんです。」

 

 

他にもシマト工業では、短納期・小ロットの徹底が差別化につながっている。

「1回の発注は数千個のものが多いです。1万個以上になる場合は、試作はしても、製造は他でお願いしてもらいます。」

対企業向けの事業に特化し、自社製品を持たないこともこの工場のこだわりのひとつだ。    

「BtoB*の製造業であっても自社ブランドをもつべき、とこのあたり(燕三条)では言われますが、うちではあえて志向していません。大手など上手くいっているところは別ですが、普通は自社ブランドを一度始めたら次から次へとオリジナル商品を開発しないといけない。売るための販路や、広報、営業機能も必要です。であれば、思い切って自社製品を持たないやり方を極めていこう。そんな方針で、おかげさまでお客様に恵まれ、やってきています。」

* BtoB …Business to Businessの略。消費者向けではなく、企業向けに取引を行うビジネス形態を指す。

来るもの拒まず、去る者追わず

自社製品を持たない。短納期小ロットで受注する。一貫生産を行う。
だからだろうか、シマト工業は来てくれる顧客の要望には、とことん応えようとする姿勢だ。

 

 

「私たちは『来る者拒まず、去る者追わず』でやっています。特に新規開拓の営業をすることもありません。ありがたいことに、お客様が次のお客様を連れてきてくれるのです。納期をきっちり守るという供給責任と、納品後のきめ細かな対応を評価して頂いているからだと思います。

例えば、納品後にお客様のところで部品が1~2個足りなくなったと連絡がくれば、そのためだけに機械を動かし、社員を動員します。たまに、紛失されたり、不測の事態で壊したりということも、人がやっている以上は起きてしまうんです。こうしたフォローは急に必要なので、対応すれば当日の生産計画に遅れが出ますし、現場の人間にとってはそこそこ負担です。それでも、そういった不測の事態にしっかり対応できることが私たちの強みであり、お客様に評価されていると思っています。その姿勢が会社全体で共有されていていて、だからこそ現場の社員も真摯に対応してくれています。」

結局は人と人との付き合い。シマト工業の理念は“人間愛”

アフターフォローなど、きめ細やかな対応の裏には会社の基本理念である「人間愛」があるという。

「『人間愛』という言葉はもともと、会長が掲げていました。うちはBtoBの取引が多いですが、企業との付き合いといっても、結局人との付き合いです。担当者と親しくなり、相手の言うことによく耳を傾け、且つこちらの要望も聞いてもらいながら歩み寄らないと、良い関係はできません。

よく、良いお客さんと巡り合ったと言いますが、それは、企業の担当者と良い関係を築き、変わらぬお付き合いをしてきたからです。

自社製品もなく、突き抜けた技術も持たない私たちがここまでやってこられたのは、お客様に恵まれて仕事のご依頼があったからです。人を一番大事にする。その理念を『人間愛』という言葉で表現しています。」

 

 

確かに、虎谷さんが話してくれた数々のエピソードには顧客との縁を感じるものが多い。シマト工業という社名も、創業当時のお客さんがつけたという。

「私どもの会社は、昭和25年に設立し、昭和30年に斎藤叮次工作所として法人化しました。そのころは郵便ポストを製作していたのですが、その製品の名前を、創業者と親交の深いお客様に付けていただいたんです。

名付けて頂いた『シマト』という言葉自体には、意味がありません。創業者の3人の娘さんの頭文字を取ったものでして、その後、社名にも採用されました。」

「人間愛」は何も、顧客との関係だけではない。協力工場や社員の力あってこそのシマト工業だと言う。

「納期をきっちり守り、供給責任を果たすためには、協力工場なしではやっていけません。頑張ってうちにずっとついてきてくれている工場は、うちの業績が悪くなったからといって見過ごすわけにはいかない。潰れそうになった会社に経済的に支援して、立て直しに協力させていただいたこともあります。」

そして、シマト工業には会社から社員への「人間愛」もある。
ねぎらいの気持ちを形にする、というのがシマト流だ。

 

 

「うちの社員に40年以上働いている人がいますが、その方が入社したときからあった風習が、社員の誕生日にはケーキをプレゼントすることです。昔は、創業者自ら誕生日当日に社員の自宅を訪ね、ホールケーキを贈っていたそうです。

かつて、工場の作業員というのは決して待遇が良かったわけではありません。だからこそ、家で家族揃ってケーキが食べられるというのは、貴重なことでした。普段頑張ってくれている社員を、そしてその家族を大事にする気持ちが端的に表れていたのだと思います。

さすがに今は社員も200名以上いますので、会長や社長が一人一人の家を訪ねることはできませんが(笑)、毎月給料日には、その月が誕生日の社員にケーキをプレゼントするのは変わりません。」

シマト工業で働くことが、社員の誇り

虎谷さん自身、シマト工業に入社したのは6年前。それまでは、長らく生命保険会社に勤め、全国を転々としていた。業種も規模も地域性も異なる会社を数多く相手にしてきた虎谷さんの目にシマト工業は、どのように映っているのだろうか。

 

 

「ここ三条市ではシマト工業のことはよく知られています。ここで働くことを誇りにする社員も多いのではないでしょうか。実際に、私たちは景気が悪くても毎年必ず新卒を採っています。うち半数以上は、地元高校の卒業生。3分の1の高卒生が、1年以内に会社を辞めると言われていますが、ここ数年で3年以内に辞めた人はほとんどいません。人の定着率がいいんです。

その理由のひとつに、採用者の適性をしっかり見極めるための社内制度が挙げられます。高校を卒業したばかりの学生にとって、自分にはどんな適性があるかなんてわからない。ですので、2ヶ月くらい、各部署を1週間ずつ回ってもらい、自分に合う業務を探すところから始めてもらっています。

見るべきポイントは、仕事内容と自分の居場所を探してくること。たとえば、ここの部署だと休憩の時にしゃべれる人がいるな、とかそういうことです。この期間に、違う部署の先輩と仲良くなれれば、その後も同じ部署では話し辛いことも相談できますよね。仕事を辞める人は、結局、人間関係が原因ということも多いので、少しでも自分の味方になってくれる人を見つけやすい職場づくりを心掛けています。ちなみに、シマト工業はいわゆる出戻りも大歓迎です。1回辞めて、他社を経て、やっぱりシマトがいいと戻ってくるならば、会社のいいところが一層強く見えるので、愛社精神がその分強くなっていると思うんです。だからこそ大事にする、というのが会社の考えです。」

 

 

 

協力工場との関係や、いわゆる人間関係でも、直接顔を付き合わせてコミュニケーションがとれる距離感を大事にしている。

「私たちから発注先の協力工場への支払いは基本、手形か小切手です。月に一度くらいは顔を見て話そう、ということです。事務所に来て、社長や社員と雑談するうちに、次の仕事に繋がるなにかが生まれるかもしれませんからね。」

さらに、シマト工業が人間関係を大事にする会社だとわかるエピソードがもうひとつある。
それは、虎谷さん自身の入社にまつわることだ。

 

 

「そもそも私がこの会社に転職したのも、社長との縁があったからです。社長とは大学のサークルの同窓生。卒業してからも数年に1回は会う仲でした。

若いころは、私が50歳になったら総務部長で雇ってもらおうかなと言っていたのですが、あくまでも冗談だったのです。それが、私が家庭の事情で転職しないといけなくなったとき、うちのおふくろが『そういえば友達のところで働くとか言ってなかった?』と話してきたんです。リーマンショック後で転職市場は鳴かず飛ばず、だいぶ頭を悩ませていたタイミングでした。

『いやあれは冗談だったから、向こうも本気にされたら困るだろう』と思っていたのですが、2週間くらい悩んだあと、思い切って社長に電話をかけたところ、2日後には採用の連絡がきました。

今私が就いているポストは、経理と労務の散らばっていた業務を一つにまとめたところで、10年ほど空席だったそうです。

そんな話はしませんが、ふと、社長が自分のことを待っていてくれていたのかなと思ったことがあります。そう思わせてくれるのも、 “人間愛”のひとつかもしれませんね。」

心は燕三条株式会社。地域と社会で存在感を発揮していきたい

地場を中心に、100社以上の協力工場をもっているシマト工業の目は、常に燕三条という地域全体に注がれている。

「社長の言葉に、『社名はシマト工業株式会社だが、心は燕三条株式会社だ』というのがあります。地域のなかで、うちが窓口となって仕事を獲得し、地域の人たちと一緒にものをつくっていこう、ということです。今後は、さらに新たな協力工場を毎年数社ずつ増やす想定です。」

 

 

シマトでは顧客との付き合いにおいても、目指していることがある。

「製造業と一口に言っても、食品から化学工業までいろんな業種がある。社長の夢は、全ての業者とお付き合いすること。幅広く、いろんなお客様の役に立つことは、すなわち日本全体に対しても貢献できるという考えなんです。

また、うちは自社での製品計画がないので1ヶ月後に納品してほしい、といった急な発注が入るなど、仕事量の増減が激しい。そういった意味でも、いろんなお客様と付き合うことで、仕事の波を一定に保てるかもしれません。

たとえ、ある特定の業種が落ち込んで取引量が減っても、他の業種とも取引があれば仕事の急減は避けられます。多方面のお客様と付き合うことは、経済に貢献できると同時に、会社にとってもリスクヘッジになるのです。」

幅広い顧客と付き合っていきたいという想いは、会社同士の関わりを越えて一般の消費者へも向かっている。

「対企業向けの商材なのでエンドユーザーと付き合う機会はあまりないのですが、以前、燕三条 工場の祭典*に参加したときに、一般の方々も工場見学に来てくださった。それで、社員が喜びましてね。自分たちのやっていることが、工場の外にいる普通の方たちの興味対象になるとは思っていませんでしたから。

*燕三条 工場の祭典・・・新潟県の燕三条エリアにあるものづくり関係の工場が、4日間に渡って一般向けに開放するオープンファクトリーイベント

 

工場の説明をする時も、質問が出ると説明役の社員たちが俄然張り切った結果、見学の時間はどんどん長くなっていきました(笑)。今後は、こういった一般のお客様を巻き込むものにも意欲的に参加して、地域を盛り上げていきたいですね。」

 

 

他社が真似できない独自の技術、誰もが知っているようなブランドメーカー。
「他社との差別化」と聞いて、真っ先に思い浮かべるのは、こういったキャッチーなものではないだろうか。

ところが、シマト工業は、金属加工というものづくりの裏側で、あえてこうした手法をとることなく、ひたすらに続けてきた。

納期をきちんと守る、欠品に対応する。
こういった仕事は一見、地味に写るが、この地道で誠実な姿勢が顧客の信頼を得ている。

会社で、起業で、独立で、「差別化」「オリジナリティ」を打ち出す前に、本当に大事にするべきものがあるのではないか。結局は人であり、そしてその人からの信頼。

これこそが、シマト工業が最も大切にしていて、結果として、他に代えがたい他社と差別化された要素なのだと思う。

 

シマト工業株式会社

〒955-0002 新潟県三条市柳川新田978
TEL:0256-38-7511
FAX:0256-38-4764
http://www.shimato.co.jp/