2019.2.14 UP

技術と若さで溢れるプレス屋でいたい。中間加工業としての未来を見据えた若き社長の経営観 渋木プレス

一般的にはイメージのしにくい「プレス屋」と呼ばれる中間加工業。
その裏には、実は驚くほど高度な技術がつまっています。

今回の舞台となる渋木プレスは、金属加工の街・燕三条でも「難しいプレスならあそこに」と信頼を寄せられるプレス屋です。

50年間プレス業に携わってきたこの工場を率いるのは、30代にして社長となった若き3代目、澁木昌平さんです。

工場では若手も多く働き、普段日の目を見ない中間加工の工場のイメージとは異なって感じます。新しい技術にチャレンジする姿勢や、若手を迎えて従業員を大事にする心。
背伸びせずに等身大でものづくりに向き合う若手社長の経営観にも注目しました。

 
 

渋木プレスのここがすごい!新旧の高度な技術が交錯する工場に潜入

 

 

渋木プレスが「難しいプレスならあそこに頼もう」と同業者からも言われるゆえんをご紹介する前に、まずは「プレス屋」さんのものづくりについて簡単にご説明します。

 

一枚の堅い金属板から、こんな形に!
プレス加工とは、対になった金型の間に材料をはさみ、強い力で押す(プレスする)ことによって形をつくる加工技術のこと。

自動車部品から食器などの日用品まで、私たちの生活を支えてくれる多くの製品にこのプレス加工が取り入れられています。

 

また、プレス加工には板材を直線に切断する「せん断加工」や、「曲げ加工」、「穴あけ加工」など、そこからさらに枝分かれしたたくさんの種類があります。

その中でも渋木プレスが得意としているひとつが「絞り加工」。

「絞り」とひとことで言われても、なかなかイメージしにくいですよね。
ここからは具体的に、渋木プレスの工場内に潜入してみましょう!

 

工場内にずらりと並ぶのは、十数台のプレス機たちです。
最新のものから、澁木さんが子どものころから使われている年季の入ったものまで、色々な特徴のマシンが揃います。

 

手前にある2台は、燕三条地域の他の工場でもよく見かける年季の入ったプレス機
絞り加工の特徴は、成形したものにつなぎ目がないこと。

一枚の金属板をプレス機に設置し、強い力で金型を押し付けることで、おわん状の容器を成形するために利用される技術です。

 

上の薄い金属版をプレス機にセットして金型を押し当てると…

 

 

こんな風に、ポコンと立体的な容器の形に早変わり!

しかしこの加工、簡単そうに見えて、実は機械を扱う職人による絶妙なさじ加減がものをいうのです。

 

この深さまで一度に「深絞り」をするのは、同業者でもそう簡単ではありません
「機械にセットすれば、誰でもきれいにプレスができるわけじゃないんです。素材によって加工しにくいものあるので、それを見極めて機械の油量や力のかけ方を微調整するのが職人の腕の見せどころです」澁木さんは語ります。

スピードも仕上がりも、同じ機械を持つ同業者に持っていけば同じ物ができるとは限りません。
仮に精度の高い機械や良い金型(かながた)があっても、知見のある職人がいなければ、無用の長物となってしまいます。

そのことを誰よりも肌身で感じて理解しているからこそ、もともと技術力のある基盤を活かし、澁木さんは設備投資にも力を入れています。

渋木プレスの特筆すべき設備となっているのは、「300tサーボ油圧プレス」と「200tサーボプレス」の2台。この規模のプレス機を導入している会社は珍しく、澁木さんの「攻め」の姿勢の表れでもあります。

 

 

日本国内で所有している工場は少なく、新潟県外からの発注依頼も来るそうです。

 

こういったプレス機の操作は、プログラミングによる電子制御がメイン。
加工速度が一定である従来型のプレス機に対し、電子制御で段階ごとにプレスの速度を変えることができます。

これによって、より精密に、しかも少ない工数で絞り加工ができるので、コストの削減にもつながります。

 

上は絞り加工の中でも、材料を温めてから加工する「温間プレス」*に使われる機械。こうした様々な機械を使いこなすのに、職人さんの技術や知識が必要になってきます。

*温間プレス…絞り加工をする際に金型を加熱し、素材の金属板の温度を上げることで、成形をしやすくする技術。温めて成形した直後にマイナス20度まで冷却することで、熱によって素材がもろくなるのを防ぐこともできる。

 

そして、これらの最新機械と職人の技術を応用して行われているのが、他のプレス屋ではなかなかできない絞り加工技術のうちのひとつ、「バルジ成形」です。

 

バルジ成形前(右)と、成形後(左)まんなかのゴムを使って
写真の真ん中にあるのは、ゴム製の「あんこ」。
これを右の筒の中に入れ、プレス機で圧力をかけることで中のゴムが潰されて変形し、結果的に左の筒のような、底がゆるやかに膨らんだ形状が生まれます。

バルジ成形を使った完成品としては、大手コーヒーメーカーのポットが世に出回っているそうです。

いくら技術力に定評のある渋木プレスでもこのバルジの加工にはかなり苦戦したといいます。

「完成品をつくるために、一体何個の失敗作を作ったか…。試作に使った材料費などを考えたら、まだ利益になってないかもしれないです(笑)」

半年ほどかかりやっと加工が形になる様なこともしばしば。たった一度の加工に成功するまでに、それほどまでに失敗を重ねているのです。

それでも、澁木さんが難しい加工に挑戦し、機械に投資する理由とは?
ここからは、若き社長の経営観を紐解いていきます。

 
 

金属加工で50年。生き残りをかけた半世紀の軌跡

 

 

渋木プレスは、昭和43年に澁木さんの祖父が創業した会社。
当初は金属の研磨業をメインとしていましたが、2代目にあたる澁木さんのお父さんの代で、より需要のあったプレス加工一本に路線変更をしました。

3代目に生まれた澁木さんは、幼いころから自分が次の社長になることを決意していました。

「昔は工場と家が隣接していたので、学校から帰ると工場に遊びに行って、親父や職人さんたちが働く姿をよく見ていたんです。いつか自分もやってみたいなと思って、小学校1〜2年生の時の将来の夢はすでに、家業を継いで社長になることでした」

その想いは一度もブレることなく、工業系の高校から専門学校へと進み、地域の大手金属加工企業で5年間の下積みをしたのち、結婚を機に家業に戻ってきました。

ある程度の予想はしていたものの、プレス業界の現状は決して安泰なものではありませんでした。

 

 

実は同業者同士でも内情がわからないのがプレス業界。他の業種の様に組合なども存在しません。

他社に加工技術が盗まれないように、といった懸念もあり、それぞれがどんなものを作っているのかはあまり明るみになっていないといいます。

ところが渋木プレスには、同業者からこんな依頼が来ることが増えてきました。

「自分は会社をたたむから、代わりに仕事を受けてくれないか?」

どのプレス屋も悩んでいるのは、従業員の高齢化でした。
工場でのものづくりに関心を抱く若い世代は年々減るばかりで、澁木さんのように若い社長はもちろんいません。

「このあたりにプレス専門の会社は結構あるけど、どんどん減っていっていますね。この辺りのプレス屋に今いる職人さんの中には、70代以上の方も結構いるので、あと5年もすると業界的にもかなり減ってしまうと思います」と現状を憂います。

 

 

澁木さんが渋木プレスの社長になったのは、2014年。
澁木さんが3代目として取り組んだのは、冒頭でご紹介した設備投資の他に、若手従業員の採用と育成でした。

 
 

ハローワークじゃ見つからない。従業員の若返りにかけた想い

 

 

渋木プレスのホームページには、「若い力も育っています!」といった力強いキャッチコピーが。

確かに工場内では、数人の若い職人さんがプレス機の前で作業をしていました。
しかも、未経験でも積極的に採用しているとのこと。

 

 

渋木プレスの現在の従業員数は12人。
従業員数が100名規模の企業ならまだしも、この規模で未経験の若手スタッフを雇うことは、なかなか難しいはず。

これは、ひとえに澁木さんの「若手を工場内に増やしたい」といった想いの現れでした。
自身が業界として若い世代だからこそ、一緒に歩んでくれる仲間選びにはこだわりがあるようです。

 

 

「ウチの若いスタッフは、ハローワークで募集をかけたんじゃないんです。前職の仲間や、学生時代の後輩などに『一緒に働かない?』と直接スカウトしてきました」

長年の付き合いから、澁木さんが信頼できると思った後輩に直接声をかけていくことで、信頼関係が基盤にある若手の採用が出来ているのです。

澁木さんが若手をスカウトするときの基準は、誠実さと一生懸命さ。
それさえあれば、未経験でも職人として成長する自由な場を与えるのが、若き澁木社長の育成スタイルです。

合言葉は、「失敗してもいいっけ、やってみて」。

どんなに未経験でも、できる作業はあります。
それらから少しずつ任せていき、あえて口を出さずに、その代わり失敗も咎めないのが、若手が実力を発揮する秘訣です。

「僕自信が、そうやってウチのベテラン職人さんたちに育ててもらったので。それに、最新機器の電子制御などは、高齢のベテラン職人よりも未経験の若手の方が抵抗なく対応できることもありますしね。若手の従業員が増えて、工場内にも活気が出てきました」

さまざまな年齢層や経験値を適材適所に活かして相乗効果を出していくのが、社長である澁木さんの役目。
どうしても、旧知の後輩である若手従業員は澁木さんに「これってどうやるんですか?」と尋ねがちですが、そんなときこそ「これはあの人に聞いてみて」と、ベテラン職人とコミュニケーションをとるきっかけを与えます。

技術を継承しながらも、若手を育成することで会社を伸ばしていく。
澁木さんがそういった考えに至ったきっかけには、とある出来事がありました。

 
 

「これ、普通じゃないの?」県外に出てみて知った燕三条の実力

 

 

「3年前に燕商工会議所の青年部で東京の展示会に出たとき、思ったよりも会場での反応が良くて。逆に自分がビックリしてしまったんです。え、この技術って普通じゃないの?って(笑)」

澁木さんがそう話すのも無理はありません。

金属加工の企業が古くからこんなに多く根付いてきた地域は、日本全国を見てもこの燕三条エリアだけ。ここでは、地元では「当たり前」だと思われている、信じられないような高度な技術がたくさんあるのです。

――プレス屋がどんどん衰退していく中で、技術力をきちんと伸ばし、発信していくのが工場の生き残りの道なのではないか。

生まれ育った地を出てみて初めて、澁木さんはそう確信しました。
それからは、今まで無かったホームページを作り、県外にも積極的に自社の強みを伝えていく努力をしています。

 

 

「仕事がないって、業界ではみんな嘆いているけれど、昔のまま、何も行動を起こさなかったら当然ですよね。現状に満足して挑戦を怠っていると、どんどん衰退していってしまいます。技術投資や若手の採用にはコストがかかるかもしれないけれど、長期的に見たら絶対に意味があるんです」

そんな澁木さんの会社としての理想形は、一体どんなものなのでしょう?

 
 

根底にあるのは、幸せに働くため。その先に面白いことがあればいい

 

 

「うーん、目標とか将来の展望っていうと難しいですね。こうしていろいろやってみているのも、社員と自分が明るく働いていくためだと思っているので。自分と歳の近い若手が多い方が、僕自身も楽しいし、技術力を伸ばして受注が増えれば、会社もしっかり回るし。そのためには、50年間会社として積み上げてきた熟練の知識も大事にしないと。それに、ウチの会社が携わった製品が店頭に並んでいるのを見ると、なにより嬉しいです」

幸せのために、地に足を付けながらも挑戦しながらものづくりに励むことが、プレス屋として突き抜けるために澁木さんが出した答えでした。

まだまだ留まることのない、技術力への向上心。
澁木さんは、もっともっと新たな絞り加工に挑戦して、ゆくゆくは自社商品を作ることも夢見ているようです。

「周りには製造業に携わる同年代の仲間もいるので、協力してもっといいものを作っていきたいですね。結局はものづくりに携わる会社として、『これ、どうやったの?』と驚かれるようなことに、これからもプライドを持っていたいんです」

柔らかく微笑む澁木さんの瞳に、静かに燃えるクラフトマンシップがキラリと見えた瞬間でした。

 
 

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株式会社渋木プレス

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