2019.4.22 UP

当たり前の工場の世界に新しい風を。工場での新しい働き方と驚くほど整理整頓された工場の景色

いつからか、日本では「職人の世界は激務」のイメージが、ついて離れなくなっていた。一人前になるまでは、先輩の背中を追いかけ昼夜問わずに修行を繰り返しているような。

“ものづくり”はいつだって、そんな努力の世界で、「働き方改革」や「プレミアムフライデー」といった言葉が浸透しつつある日本社会とは無縁なのだろうと。

ところが、そんな予想は新潟県・燕三条の金属加工、株式会社ハセテック(以下、ハセテック)を訪れて一気に覆された。

 

 

代表取締役を務める女性社長、原田雪枝さん(以下、原田さん)は、社長自らが「ワーク・ライフ・バランス」の向上を掲げ会社を経営する。

企業全体を通して働き方を見直したのには、時代の流れでは決してない、原田さんなりの考えがあるのだそうだ。

原田さんが目指した企業の在り方は、いったいどのようなものだったのだろうか。燕三条で奮闘する、敏腕社長の経営手腕を追いかける。

 
 

「よし、切削やるぞ!」の一言で、事業が変わる

ハセテックは、あらゆる金属素材の切削(せっさく)、パイプの曲げ加工、金属の溶接、そして生産に必要な金型や治具の製作を一貫して自社内で担うことができる、加工をメインとする工場だ。

さらにその中でも技術力に優れていて、多様な加工技術を持っている。

現在では、多岐に渡る工程を担うハセテックだが、もともとは溶接作業のみを行う企業だった。いったい現在のような形にいたるまでに、どのような決断・判断があったのだろうか。

原田さんはこう語る。

 

社長の原田雪枝さん
「もともとハセテックは溶接から始まりました。けれど、25年前くらいに先代が『これからは溶接だけでは食べていけないだろう』と言い始めて。それから、『よし、溶接と合わせて切削もやるぞ!』という宣言とともに、事業を展開しました」

先代からの提案により、事業の方向性を見直し続けたというハセテック。事業の決断は「本当にこのままで食べていけるか?」の目線だった。

「金属加工は事業形態としては小さなものです。だから、これからの時代はそのままでは先細ることがわかっていた。先代はそうして事業が縮小して社員が食べていけなくなる未来を防ぐために、こういった提案をしてくれていたのだと思います」

 

 

溶接、切削と広げた事業。
その次にハセテックが挑戦したのは、パイプ加工だった。

「切削を取り入れた1年後、またもや先代が言ったんです。『次は、パイプ加工をやるぞ!』と。そうして、比較的早いうちから切削・加工・溶接の3つの柱で事業を成り立たせています」

一つの企業を大きく育てるためには、大きな決断を必要とする。先代からの提案で広がった事業のおかげで、今も企業の規模拡大に成功しているのだそうだ。

「先代は、工場を大きくしたい、もっと上を目指したい、と考えて会社を経営していました。溶接のみを続けていては、きっといずれ仕事がなくなって事業規模を縮小せざるを得ない未来が見えてくる。だから、事業を広げることで明るい未来が訪れるであろうと信じていました。そんな想いで、挑戦する姿勢がハセテックにはあります」

 

 
 

大手企業が唸る、ハセテックの技術力

ハセテックが持っている技術は、この地にある数多くの他の加工工場と比べても非常に高い。さらに、溶接をメインに、切削、パイプ曲げ加工まで、多岐にわたる。品質の検品、管理も徹底されていて、信頼性が売りでもある。

現在、ハセテックでは「1つだけ」という多品種小ロットの依頼から、メーカーの大量発注まで、さまざまなニーズに合わせた生産に対応しているという。

 


 

切削。
小さな部品の注文も多いハセテック。細かな作業を必要とする。真鍮やステンレスなどをはじめ、少ロットでも対応する切削技術。通常は加工油を使用し切削加工をするが、ハセテックは加工油を使用せず切削する技術を持っているため加工後の製品を洗浄する工程を省けるのだという。

 

 

溶接。
機械での溶接もあるが、ロウ付けと呼ばれるハセテックの売りのひとつである手作業の溶接も行う。異なる金属同士の溶接は技術力が必要で、まさに職人の技術がキラリと光る。

 

パイプ加工。
細い管の加工は、とくに高い技術力を求められる。うねりをつくるヘアピン曲げやコイル状の加工の様子は、芸術品にも近しい。

 
 

美しすぎる工場の姿。世代を超えてフラットな組織

そんなハセテックの工場に足を踏み入れると、工場とは思えないほどの美しさにまず驚く。少しくらい雑然としていてこそ「工場」らしいのではと反対に感じさせるほど、整頓された風景が広がる。

 

 

金属加工を生業としているにも関わらず、油汚れや工場独特の油の香りなどはほぼ無い。美しく整理された部品が並び、機械も整頓され、通常冬の間は底冷えする工場内をうまく仕切り、暖房効果を高めるような細かい工夫まで見られる。

コンプレッサーの排熱を利用して、乾燥室を作っていたり、工場内には仕掛けが沢山ある。

この整理整頓の徹底と、働く工場の環境改善の取り組みによって、工場の生産性は確実にあがっていると、製造部長の伊藤さんも話す。

 

 

「まだまだ整理整頓や工夫はうちの工場でも足りないですよ。もっと上の工場があるので。これからも、より働きやすく、工夫された工場にするために努力していきます」

そして、そんなハセテックの工場全体を見渡してみると、年齢も性別も多岐に渡る人々がいきいきと働いていた。これもまた、「世間の工場らしさ」からは離れているようにも感じられる要素のひとつだ。

 

 

「今現在、下は24歳、上は84歳まで、さまざまな年齢層のスタッフがハセテックでは働いています。前職はネイリストやパティシエだったというスタッフなんかもいるんです。ここでの細かい作業は意外とこういった仕事が活きてくるんでしょうね」と、原田さん。

現在38名いるスタッフのうち、16名は女性社員。男性も女性も関係なく、フラットに働ける職場の環境は魅力的だ。

「小さな部品であれば、大型な機械をそこまで使用することもないので女性でも扱いやすいんです。もちろん希望さえあればどんどん技術を教えて成長してもらえるような環境づくりをしています」

 

 

工場で働いている若手は、教えてもらうのではなく、能動的に学びにいく姿勢で働いている。これからの時代を担うであろう若者たちが、やりがいを持って働ける職場環境である証なのだろう。

「現在、働いているスタッフの多くは20〜30代です。ハセテックの未来を託す存在なので、私はまさに家族のような気持ちで接しています」

年齢や社歴が、働く上での足かせにはならない。ハセテックが考える“人の育て方”は、とことんフラットで風通しの良い職場だからこそ生まれている。

 

 
 

工場へ新しい風を吹かす経営方針。代が変われば働き方は変わる

原田さんが代表取締役に就任したことで、ハセテックの風土は大きく変わっている。そこには、10年前に原田さんが入社した際に感じた“違和感”が関係していた。

「10年前、主婦をやめてハセテックに入社して感じたのは『この会社、なんか変だな』という違和感でした。休みをしっかりと取る文化が浸透していないと思ったんです」

 

 

長時間労働や休日出勤、決して当たり前ではない働き方が、従来ハセテックにとっての“当たり前”だった。有給休暇も取りにくければ、休日に思う存分休むことすらままならない。そういった働き方では、働きやすい職場の実現も生産性の向上も望めないと考えたのが原田さんだった。

「もともと、ハセテックには休みを取りにくい文化が根付いていたんです。昔は年間の休日数がだいたい105日でした。でも、しっかりと休みを取ってほしい、取れるような会社であってほしい、そう考え5年前には120日へ、現在では125日(完全週休2日制)を導入しています」

下請け仕事を続けていると、自身の都合では休みたくても休めない雰囲気が漂いやすい。自分が休めば、その分、他の社員や顧客に迷惑がかかるからだ。

 

 

「完全週休2日制の導入は、さすがにドキドキしました。受注がこなせなくなるのではないかとか、生産性の向上にはつながるのだろうか、とか。けれど、実際に完全週休2日制を導入してみたら、結果的に残業時間が増える訳でもなく、特に大きな問題もなく過ごせています。逆に『休みが多い分働こう!』と、お互いに協力して仕事を分担する風土ができあがって、生産性の向上にもつながりました」

 

 

休日を増やせば、リフレッシュした分集中して仕事をこなせるようになる。そうすることで、以前に比べて残業時間も減少した。これまでは21時〜22時まで働くことも珍しくなかった労働時間も、ほとんど定刻で切り上げられるようになっている。

「現在は、自動の機械が多いベンダー課では早番と遅番の2タイプの出勤制をとって稼働率を上げています。子育てをしている方でもしっかりと働けるように、個人の都合に合わせて短時間の勤務スタイルも取り入れています。今後は、休憩時間の取り方や勤務時間のあり方についても、フレキシブルな対応を模索中です」

 

 

しっかりとした休日を取得する文化は、有給休暇取得数にも反映されている。

「これまでは取得しにくかった有給休暇も、みんなが気軽に取得できるような体制を考えました。そのおかげで今では、有休で毎日違う誰かが休むのが当たり前になっていて、業務を会社全体で助け合う習慣になっています。大変な事も無いとは言えませんが、何とかこなしています」

 

 

「もうひとつは、休暇を申請する理由を聞かないこと。理由なんて言わずに『休みます』と言える文化をつくるようにしています」

用事がある、旅行に行きたい、ただ気晴らしがしたい。
人によって、休暇を取得する理由はさまざまだ。有給取得の理由を聞き出さないことで、取得することそのもののハードルを下げている。

「みんな、初めのうちは『自分にしかできない仕事があるから』『今は繁忙期だから』といって、なかなか休暇を取ろうとしなかったんです。けれど、そういったときに休暇をとってみれば、出勤しているメンバーでなんとかして仕事を回すようになる。一番頼りになる人が一番大変な時期に休んだりしています。そうすると現場は協力して仕事をすることを覚えるので、自然と生産性も上がるんです」

 

 

全てにおいて属人的になっている工場ではなく、各分野の仕事をみんなで振り分けて柔軟に対応できる環境の構築をすること。それこそが、原田さんが目指した健康的な工場のスタイルだったのだろう。

そのほか、ハセテックをより良い会社へするためにと原田さんが導入した取り組みには、積極的な社内外研修がある。

ものづくりの現場ならではの安全教育や、技術向上のための研修、新人育成のためのOJTなどがある。どれも、企業としてこれから先も輝くために必要な取り組みだ。原田さんは積極的に外部の工場を見に行き、ハセテックの経営の上部に関わる立場の人から、変わっていく必要があると考えている。

 

 

「社内の技術に関する評価は、年齢に関わらず公正に行なっています。年に一度の頻度で、実力チェックの時間を一人ひとりに設けて、フィードバックをしたり個人の技術力を正確に把握したりと、不公平にならないような“見える化”を心がけています」

年功序列の形態ではなく、技術で正当に評価する。
そうすることで、若いスタッフもやりがいを持って意欲的に働けるようになるのだそうだ。現在、スタッフの大半を占める若手スタッフたちは、新しく覚えた技術を周囲にも広めるような動きもしながら活躍する。スタッフはみな、良い製品を作ろうと必死だ。

 

 

ハセテックではこうして経営層自らが旗を振り、古いあたり前を壊し、若手の存在が工場全体を底上げしている。

 
 

ハセテックの未来。自社製品の“流れ星”に願いを込めて

「これから先、工場をどうしていきたいですか?」と、原田さんに聞いてみる。

これほどの変化を企業にもたらした女性が、これから描こうとしている未来とはどのようなものなのだろう。

 

 

「今後も、まずは今と変わらず自社の技術を高めて、より精度の高い仕事をしていきたいと考えています。最近では、JAXAから、難しい技術を必要とするような宇宙関係のお仕事をいただく機会もあったのですが、無事『素晴らしいですね!』と喜んでもらえて。そういった声がなによりの喜びと自信につながっていると感じています」

金属加工を主とする企業として、技術力の向上はなによりも重視するべき課題だという。また、その他には自社製品の開発にも挑戦していきたいと原田さんは考えていた。

「これまでにも、ガーデンホースや仏具など、いくつか自社製品を開発しようと動き出したことはあるんです。けれど、既存の業務や時間の関係でなかなか進められなくて」

とはいえ、原田さんの自社製品にかける想いは強い。

最近、ハセテックはとあるライフスタイルインテリアのプロダクトを発表した。ヒンメリと呼ばれる、フィンランドの伝統的な装飾品だ。

これは、本来であれば藁(わら)を用いて作られるものだが、ハセテック独自の技術を活かすために銅・ステンレス・真ちゅう・アルマイトメッキなどのパイプを取り入れ加工し、自社の製品へと落とし込んだ。

 

 

「自社製品って、うちのスタッフにとっても魅力的だと思うんです。通常業務の多くは、工場で働くスタッフにとって『なにに使われるのか』『どうして作るのか』を知らないままに生産されています。でも、自社製品であればゼロから完成した状態までを見れるので、他には無い経験ができるんですよね」

今回、製品化を実現したヒンメリは、三条ものづくり学校のクリエイターとのマッチングがきっかけでサンプルが生まれ、本格的に製品開発に乗り出したという。

金属製ヒンメリ。スウェーデン語で“流れ星”の意味を持つ「メテオリ」と名付け、インターネットショップ「BASE」での販売を開始している。

「これまでは、ずっとひとりでアイデアを考えてきました。だから、たくさんの方の支援やアイデアを取り入れることで、どんどんと形になっていく今がすごく楽しいです」

燕三条の金属製ヒンメリが日本中、世界中に広がる日もそう遠くはないかもしれない。

 

 
 

ものづくりで、ユーザーと繋がれる未来をつくりたい

自社製品によって、これまでよりもエンドユーザーと繋がれる筋道ができたことを原田さんはうれしそうに語ってくれた。

これまでは受注した製品をきちんとした質で届けることこそが宿命だったハセテックにとっても、新しい風が吹き始めたのだ。

原田さんが目指す、技術力の高い加工工場の姿と、これからの一般消費者への道筋。

これらふたつが合わさり折り重なることで生まれる、燕三条の優良工場のものづくりの未来は、これから先いったいどのように変わっていくのだろうか。

 
 

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株式会社ハセテック

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