2019.6.15 UP

鍋特化メーカー、フジノス。私たちの生活を支える国産鍋の裏側。

キッチンには数々の調理器具が並ぶ。

そのうちのひとつである「鍋」はその姿をもう何百年も変えずに、質実剛健な炊事道具として、私たちの生活を根強く支えてくれている。

しかし、使われる環境は大きく変わった。ガス調理が主流だった時代から、IHを使う電気の時代へ。その変化の波にいち早く乗り、燕三条にある株式会社フジノス(以下、フジノス)はIH対応鍋の開発に一番乗りした。

今となっては、決して珍しい商材ではないが、IH対応製品の生産が実現するまでは、苦労の連続だったと言う。

 

 
 

フジノスの前身、鍋作りを始めた祖父の代

1995年にフジノスは再創業した。
フジノスの前身となる「富士食器株式会社」の頃から数えると、すでに61年の歴史がある。

富士食器株式会社の創業者は現代表、金子秀司さんの祖父にあたる。

金子さん自身は、東京でコンピューター関係の仕事に勤しんでいたが、親戚や家族から口説き落とされ、99年ごろに家業に戻ることとなった。

以後、代表取締役に就任、今に至る。そもそも、金子さんは友人との飲みの席でも、気付けば延々と鍋の話をしてしまうほど、切っても切り離せない存在だった。気づけば、いつでも心の片隅で鍋のことを考えていた。「この世界に戻った大きな理由のひとつかもしれませんね・・・・・・」と、当時を懐かしむように振り返る。

創業当時、工場は洋食器、いわゆるカトラリーの生産を中心としていたが、開業から37年経った1983年からは、業務用IH対応鍋の生産も並列して開始した。

きっかけとなったのは、東京電力からの打診だった。

 

 

「東京電力が、当時IH対応クッキングヒーターの開発を行なっていたタイミングで『IH対応鍋を作れないか』と燕三条の職人たちに訪ねてまわっていたんです。他の企業が手を挙げないなかで、私たちが『できます!』と立候補したことから共同開発がはじまりました」

1980年代後半から、日本の家庭ではオール電化住宅の先駆けとしてIHクッキングヒーターや電気温水器などが登場しはじめていた。光熱費の削減や、災害時の復旧のスピードなどの理由から、オール電化の波は全国にあっという間に広がる。

「鍋の生産に関しては、うちは新規参入組なんです。洋食器では前身の会社からそこそこ歴史はありましたが…。新参者ということもあって、普通であれば生産したあとは、卸問屋に持っていくのですが、私たちは家電メーカー(IHクッキングヒーターを採用しているメーカー)に直接持ち込んで製品を売っていました」

 

鍋の加工工程。一枚の板から徐々に見慣れた形に変化する
欧米の鍋メーカーであれば、ブランド力が前面に押し出され、東南アジアであれば安価な大量生産品を武器に、それぞれ日本国内のシェアを獲得していた。国産メーカー、それも名の知られていない企業がその存在を知ってもらうためには、直接売りに持ち込むほかない。まずは以前から取引のあったパナソニックの推奨品となることで、徐々に市場の信頼を得ていった。

 

1983年に「アラームアスター」が、1983年に業務用「ロイヤルシリーズ」(東京電力グループ会社東京電力リビンサービス共同開発)が、その後パナソニック(当時松下電器産業)にあっせん鍋として「エレックマスター」が採用される。

 

鍋作りでは、軽さと強度の両者を追い求めることが大事だとされる。一見すると、相反する要素を並存させながら、精度を高めるためにはどうすればいいのか。そうした課題は次から次へと見つかり、IH対応鍋の開発は一筋縄ではいかなかった。

 
 

独自の技術力を持ったフジノスの生産工程

現在、フジノスの工場で働く職人は約20名。じつに40を超える鍋の製造工程を、一人ひとりが持ち場について作業を行う。機械での加工といえども、それぞれの工程では人の眼や手による細かな配慮が欠かせない。

以下、代表的な製造工程を紹介する。

1.絞り
板状に裁断された金属をプレス機で絞り、鍋のもととなる初期形状を作る。一般的に鍋作りの工程では肝となる。

 

 

平らな金属板をプレスによって、形を作っていく

2.スピニング
フジノスの強みが活きる工程。絞った型をさらに伸ばしていく作業。鍋の側面部を作るために、ろくろと同様の原理で鍋底の板厚を保持したまま側面を伸ばして薄く軽くしていく。

3.段付・側抜・R付
鍋のフチを作るための作業。鍋の強度を上げる為や、異なった種の金属を重ね合わせて作られている鍋の鉄などの金属が錆びるのを防ぐためにフチを巻き込む処理をする。

 

 

高速回転する機械に型をはめ込み、くるくるとフチを巻き込んでいく

4.磨き
鍋の内外を羽布等でステンレスの表面を磨き美しい外観にする工程。

 

キーンと工場内に鳴り響く研磨の鋭くかん高い音が印象的

5.ラセン
鍋底にらせん状のヘアライン研磨のテクスチャーを付ける作業。これは、底の擦れを目立たなくするために付けている。

 

やすりを用いて、中央から外側へ、外側から中央へとらせんのヘアライン仕上げをする

6.底押
鍋底を少しへこませる作業。IHヒーターに乗せた際にプレート状で回転してしまうことを防ぐ。

 

見た目では一見わからないほどのへこみを付ける作業。ものさしなどを当てると、へこんでいる様子がわかる

7.取手・蓋付
別工程で製造されている蓋と取っ手を組み合わせて完成。

 

取手を固定して、上からリベット*の頭部分をつぶして取手を本体と接合する。 “ガシャコン”とカシメる瞬間の音が小気味良い
*リベット・・・穴をあけた部材に差し込み、専用の工具でを用いて反対側の端部を変形させて接合させる部品を指す

 

特にフジノスがこだわりを持っているのは、スピニングとラセンの工程だ。スピニングでは、細かな調整によって軽くて薄い鍋を作る。
生産以外にも、フライパンのフッ素コーティングの修理や、研磨などの購入者のアフターフォローにも手を抜かない。

長い間大切にしてもらいたいから、徹底的に消費者目線でものづくりをする。

職人の実直な姿を感じるフジノスの工場の現場だ。

 
 

オール電化の浸透。求められた変化と、求められなかった変化

これまでガスコンロで料理をしていた人が、IHクッキングヒーターを使用するようになり、そのまま鍋も新しく買い換える。

メーカーは、料理をする人の目線に立った鍋の開発を求められた。

変えなけれければならないことと、変えてはならないことのふたつのバランスが、大きな課題だった。

 

 

「最初に求められたのは、鍋の形状や素材の再考でした。たとえば、日本の多くの鍋はアルミやステンレスでできています。アルミの特徴は、軽くて柔らかいこと。一方で、ステンレスは耐久性があって錆びにくい素材。良いところがそれぞれなので、両方の良さを活かすことは難しいんです」

中でも、軽さの追求は変えることができない要素だった。軽くて、耐久性があって、熱伝導が良い鍋。それこそが良い鍋の基準だ。

ところが、軽い素材は脆く、反対に、鉄に代表される熱伝導の良い素材は重い。素材ごとの特性を活かした鍋を実現するためには、技術力を磨くほかなかった。

「アルミの軽さとステンレスの耐久性の両方を活かすために、多重層構造でステンレス-アルミ-ステンレスの三層で鍋を作ることにしました。ただ、そうなると難しいのは絞り*の瞬間です。絞りの際は、異なる素材を同時にグンと伸ばすのですから、柔らかいアルミは途中で切れてしまうのです」

*絞り・・・金属の板に圧力を加え、凹状に加工して、器の形にすること

 

理想的な鍋を作るためには、数ミリ単位の調節が必要だった。絞り、スピニングなどの素材の厚みに変化を加える工程での研究は、長きにわたって続いた。とにかく試行錯誤の連続だったという。

さらには、コストとの戦いもあった。

「お客さんの要望を聞いていると、追加したほうが良い機能が見つかることが良くあるんです。ただ、それらを叶えるとなると、コストは上がってしまいます。そういったバランスを取るために、鍋そのものの構造を見直すこともありました。価格と機能と構造とのバランスは、いつも難しい問題ですね」

 
 

長い間現場にいて気が付いた、鍋作りのおもしろさ

メーカーとして鍋作りに携わると、消費者の声はなかなか届きづらい。さらに、鍋に強いこだわりを抱く人も決して多くない。それでもなお、金子さんが情熱を持って鍋作りを続ける意義はどこにあるのだろうか。

「うれしいのは、展示会に出展したときに、製品のつくりの良さを見つけて購入してくれること。『昨年の展示会で購入して気に入ったから、また買いに来たよ』と言葉をかけてもらえることもありました。メーカーが消費者の声を聞く機会は、あまりありませんからね」

たしかに、思い返してみると、日頃生活するなかでメーカーの直販店でもない限り、直接私たち使い手が作り手に声を届けることはほとんどない。金子さん自身も、時折「◯◯の鍋が良かった」と連絡をもらうこともあるものの、そういった消費者のリアルな声はなかなか耳にできないのだそうだ。

「最近はやっとSNSをはじめて、消費者の声に耳を傾けようとはしていますが、なかなか難しいですね」

ところが、フジノスにはそうした消費者の目線を考えたスタッフから提案されたサービスがある。それが、製品の20年保証と、フッ素樹脂コーティングの張り替えだ。

「もともと、フジノスの鍋は一度購入したらよほどのことがない限りは買い替えの必要がないほど耐久性は高く作られています。もしも製品に不具合が生じたり、気になるようなことがあれば、いつでも修理するし、フッ素樹脂がはがれたらコーティングも直そうとは思っていたんです。

ただ、思っていただけで口外していなかったので、スタッフから『せっかくならしっかりと伝えたほうが良いのでは』と助言をもらって。フジノスは“20年保証”と、現在はしっかりと社外に打ち出しています」

 

 

きちんとものづくりを続けていたら、お客様からそうした要望が上がるかもしれない。しかし、現場の目線で強く声を発することで作り出せる働きかけもある。

 
 

これから先は、市場の開拓と認知度の向上が課題

鍋があるキッチンは、至極当たり前の風景である。オール電化の文化も、もはや目新しい風景ではなくなった。この先、IH非対応の鍋は、肩身が狭くなっていくのだろうか。

そんな今、多くの人に鍋を届けるために、フジノスでは鍋やその使い方に関する情報の発信内容や、企業の認知度そのものを高めようと試行錯誤している。

 

 

「鍋の機能や性能が良いだけでは、もう誰かにとっての魅力にはなりません。今は、鍋があることが日常生活にどんな効果をもたらすかや、鍋を持つことから広がる価値を最大限に引き出すための打ち出しが必要なんです」

旬の食材を用いたレシピ開発や、鍋のお手入れ講座を開催しているのも、その打ち出し施策の一部。取材時は夏だったため、ズッキーニを用いたレシピ3つを紹介する料理講座の開催を控えていた。

 

 

「日頃、鍋をよく使用する主婦の方は、鍋の良さはもちろん『どんな料理を作ると良いのか』『どんなレシピに合うのか』などを考えているんですよね。男性の私からの目線とはまったく違うのだなあと思いました…(笑)」

今後は、消費者からの意見を取り入れる意味も含めて、ECサイトでの直販も検討している。購入者とダイレクトな接点を持つために、どのようなかたちであれ必要な取り組みだからだ。

「遅ればせながらではありますが、これからの時代はインターネットを用いて広める体制を作っていかなければならないと感じています。WebサイトだったりECサイトなどをベースにした、ノウハウの構築も必須課題です」

先述したSNSでの発信も一例だ。

燕三条の多くの工場で目にするように、真摯にものづくりを極める姿は、とても美しい。

それが、「多くの人の目に触れる」必要が出てきたとき、そんな時代の風潮に移り変わったとき、SNSやインターネットはこの上ない力を発揮してくれるだろう。

 

 

良いものを、職人が、心を込めて作っている。
何かが足りないとすれば、その行為や想いが正しく広まることだけなのだ。

フジノスや金子さんが鍋作りにかける想いを聞いた今、私たちはそう簡単に「たかだか鍋」などと思えない。

だってそこには、長い時間をかけて培われた職人の技術と、想いと、自信とが、これ以上ないくらいに詰め込まれているのだから。

 
 

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株式会社 フジノス

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