2020.1.15 UP

「この研磨に不可能なんてない」負けん気で研磨を続けてきた【船山理研工業所】

「どうせできっこないと言われると、燃えるんです」

自信に満ちた彼らの一言は、頼もしい。
彼らは、今まで多くの「不可能」とされることを覆してきた。
挑戦することを辞めず、諦めず、ただ自分たちのものづくりを追求し続ける。
そうした成果がより多くの人の心を動かし、笑顔にする。

ここ三条にはもう片手で数えるほどしかない、バレル研磨を生業とする工場。あまり知られていない技術のひとつだが、精度の高い機械製品の部品を完成させるためには不可欠な作業工程の研磨工場だ。

今回は、縁の下の力持ちたちの地道ながらも腐ることのない、前例のないことに挑み続ける心意気について話を聞いた。

 
 

金属は研磨することで美しくなる

船山理研工業所が得意とするのは、金属の研磨だ。さまざまな工程を経て加工された金属部品を研磨することで、見た目や触り心地などを美しく変化させる。研磨前と後では、ツヤや反射の様子がまったく異なることがわかる。

 

右が研磨前、左が研磨後。輝きの差は一目瞭然だ。
研磨の技術こそが、私たち消費者が手にする、最終製品を綺麗に整える、化粧のような役割を果たしている。

金属研磨には、大きく分けてふたつの種類の方法がある。

ひとつは、船山理研工業所が得意とする、自動化されたバレル研磨。この研磨方法では、大型のバレル(樽)のなかに、研磨剤と加工したい部品を入れ、回転数と回転時間を調整しながら回すことで、ツルツルに磨きあげる。

ふたつめは、バフ研磨と呼ばれる、人力で研磨する手法がある。この研磨では、自動回転する“バフ”と呼ばれる布や毛などに研磨剤を付け、加工する金属部品を手で当てて少しずつ磨いていく。素材の性質に合わせて、バフ選びや研磨剤の量を調整する必要があるため、熟練の職人だけが作業することを許される。

 

 

小さな金属部品が大量にある場合には、人の手で1点ずつ作業するバフ研磨よりも、最大600個ほどのパーツを一度に大量に研磨することができる、効率的なバレル研磨が重宝する。それだけではなく、バレル研磨は、製品の仕上がりが均等になることもまた、アナログなバフ研磨に勝る点だ。

 

 

 
 

数えるほどしかない、バレル研磨の専門工場と技術力

工場のなかに足を踏み入れると、バレルの回転音があちこちから聞こえる。

船山理研工業所は、本社工場と、精密な製品を研磨する特殊研磨部の工場の2つに分かれている。企業規模の拡大に合わせて、工場を増設したのだそうだ。

 

 

今案内してくれたのは船山理研工業所の現社長であり三代目の船山正幸さんと、常務の大岩一弘さん。

 
有限会社船山理研工業所の常務であり取材にもご対応くださった大岩一弘さまが2019年8月に逝去されました。心からお悔やみを申し上げます。(記事は2018年10月に行われました取材をもとに作成しています。)
 

足元を見てみると、ところどころに水たまりがあり、ときどき泡も一緒に流れてくる。

「工場内に水が溜まっているのは、“湿式(しっしき)”と呼ばれる方法で研磨しているからです。バレルには、ワーク(加工品)、メディア(研磨剤を固めたもの)、さらには、水とコンパウンド(洗剤)を入れて研磨していくんです。湿式に対して、水を使用しないのが“乾式(かんしき)”研磨というものがあり、こちらは水や洗剤を使用しません」

 

 

工場にはたくさんの異なる形状のバレル研磨機がある。研磨の具合や金属などを見分けて、職人たちは使いこなしているのだそうだ。

「工場内で使用しているのは、回転バレル、振動バレル、遠心バレルの3種類です。それぞれの違いは、摩擦の量、回転の早さ。回転数と摩擦が少なく、安定して研磨できるのが回転バレル。摩擦量が多いのは振動バレル、回転数が多いのは遠心バレルです」

 

 

この素材はこの方法で磨かなくてはならない」などといった決まりは無い。金属の種類、パーツの大きさ、研磨の具合など、さまざまな要素を考慮して、どういった研磨をするのか都度考える。最終的には、職人の経験則頼みと言える。

「バレルだけではなく、メディア(研磨剤)の選定も、職人の腕の見せどころです。現在、40種類を超えるメディアを扱っているので、形状や素材に合わせて少しずつ配合などを変えます」

メディアは色も、かたちも、触り心地も、みんなバラバラだ。主原料が、粘土、プラスチック、アルミナなどよく見知ったものもあれば、クルミやトウモロコシの芯などの変わり種もある。

 

 

本社工場の隣へと足を運ぶと、特殊研磨部の統括を行う大岩さんの姿が。特殊研磨部には、より細かく繊細な作業が必要な金属部品が集まる。

「特殊加工部では、ほんの少しのズレや傷さえ許されないような医療機器や、作りの複雑な金属加工品を扱っています。弊社では、医療用のメス、トランペットなど、これまで人の手で研磨してきた製品を、機械で研磨することに成功しました」

技術を磨き続けた結果、筒状の製品の「内側だけ」を研磨する技術も身につけたのだそうだ。日々研磨と向き合い続けることで、人の期待を超える技術を手にしている。船山理研工業所で働くのは、そんなプロフェッショナルたちだ。

 

 

 
 

馬具からはじまった、船山理研工業所の歴史

工場を見せてもらったところで、船山理研工業所の歴史を伺った。船山さんの父である先代は、馬具職人だったと言う。

「先代は昔、装蹄師として馬のひづめに打ちつける蹄鉄(ていてつ)を扱う職人でした。ところが、時代が過ぎるにつれて、馬具だけではご飯を食べていけないようになってしまったんです。生きていくためにと思って選んだのが、研磨技術を取り入れた事業の展開でした」

馬具職人だった先代がはじめた、船山理研工業所。当時、燕三条で盛んだった洋食器の生産に伴い、研磨技術が広まり始めるタイミングだったことも重なり、徐々に事業を拡大していった。

 

 

「もともと、燕三条にはバレル研磨を行う工場がたくさんあったんです。海外からやってきた技術で、洋食器の研磨には需要がありそうだなと。はじめの頃は、スプーンの側面を磨く“コバスリ”という工程を行なっていました。その後、だんだんと洋食器や金属部品などの磨きへと扱うものを変えていきました」

 

 

かつては、松の木で作られたバレルが主流だったが、今では鉄のバレルが代替されつつある。松の木がよく使われた背景は諸説あるが、松の木から分泌される天然樹脂である松ヤニが研磨の潤滑油となるためとされている。

「水の勢いが強すぎてどんどん削れてしまうデメリットはあるんですけれど、やはり松のバレルのほうが調子が良くて。本社工場でも、いまだに現役の松製バレルが活躍していますよ」

一方、鉄は木材に比べて劣化しにくく、長い時間をかけて利用することに適している。しかし、導入コストを考えると、やはり木製のものよりも鉄製のバレルは高くつく。それぞれを使い分けながら、最適な研磨する作業環境を整えている。

かつて燕三条に多くあったバレル研磨の工場は、今となってはもう3ヶ所しかないと言う。しかし、深刻なことに、昨年のうちに4つの工場が閉鎖した。

 

 

金属加工の街 燕三条のなかで、バレル研磨に特化して経営を続けるためには、そうした悲しい流れに引きずられてはいられない。自分たちの目指すべき未来を見据えていかなくてはならない。

現在、船山理研工業所では、数え切れないほどのパーツの加工を請け負っている。さまざまな形状、素材の加工品を研磨する手広いバレル研磨工場として45年以上やってきたプライドがある。
「必要とされるために、さまざまな無理難題に挑戦してきましたよ(笑)。絶対に研磨できないだろうといわれる素材や、初めて触る素材まで。とくに、チタンを初めて研磨したときの苦労は、今でも忘れません」

 

 

大岩さんが続ける。

「お客さんから『(研磨)できますか?』と相談されると、どうにかして『できますよ』と答えたくなる。だから、あらゆる方法を試して、挑戦して、失敗してもまた試行錯誤して、成功するまで続けるんです。そうして成功したのなら喜んでもらえるし、うまくいかなくても仕方ない、と思えます。挑戦することに、リスクなんてありません。だから、絶対に諦めません」

 
 

金属を「味」で覚える意地と根性が、技術を牽引している

船山さんがバレル研磨の技術に関して信頼を寄せる存在。それが、常務の大岩さんだ。今では若手の育成にも携わる。日々探求を続ける、バレル研磨のエキスパートだ。前職は運送業や大工だったが、ひょんなことから船山さんの誘いを受けて船山理研工業所に入社した。

そんないきさつから、研磨の技術はもちろん、金属の知識はほぼ無いに等しかった。当然のことながら、入社当時は苦労が絶えなかったという。

「なにからなにまで、本当にわからなかったんです。社長は『金属の香りが違うでしょう?』と教えてくれるのですが、まったくわからねえや、と。口に含んで味で覚えようとしたこともありました(笑)。こればかりは自分なりに工夫しながら、金属の特徴、研磨の具合なんかを身につけていきました」

 

 

「チタンを初めて研磨したとき、周りには『研磨できないだろう』と散々言われました。でも、なんとか綺麗に磨けるようになった。今でも研磨できない素材もありますが、決して不可能なことなんてないと思うんです。だから、難しい依頼にもきちんと答える。素材と素材とが引き起こす反応を知って研磨に生かすためも、僕たちは“理研”の名に恥じないよう研究を続けているんです」

研磨の具合は、化学の知識を利用して解き明かすことが多い。素材と研磨材との化学反応によって研磨されるからだ。だからこそ、社名に「理研」の名を掲げて、とことんまで追求する意思を表明している。

 

 

「どんな依頼がきても、絶対に諦めません」
胆力のあるこの一言に救われた顧客も少なく無いだろう。
大岩さんの言葉は力強い。

 
 

「研磨なんてできっこない」を乗り越えるために

 

 

研磨と正面から向き合うひたむきな大人の姿は、若者の心まで焚きつける。「最近の若者は……」なんて後ろ向きな声は、ここ船山理研工業所では聞かれない。むしろ、若者たちが積極的に技術を吸収しようと切磋琢磨している。船山さんは、これからの時代をつくる若者の姿を誇らしげに、こう語る。

「うちでは、誰かに『ああしろ』『こうしろ』と言うことがないんです。むしろ、自由に考えてやってみたらいいじゃない、と伝えています。だからなのか、自分から考えて行動する若者が多いですね」

最年少は20歳。船山さんや大岩さんを凌ぐ勢いで、めきめきと成長を遂げている。頼もしい若者の存在があるからこそ、船山理研工業所の技術力は、今のままに止まらず成長を続ける。

 

 

船山さんに最後に聞いてみた。
「これから先、さらに挑戦したい夢はなんですか?」

「できっこないと言われたチタンのように、今はまだ研磨が難しいと言われていている素材を磨けるようになりたいと思っています。これまでは金属の研磨が中心でしたが、これからは布や炭などの素材も研磨したいですね」

「チタンなんて磨けっこない」と言われていたにも関わらず、彼らは不可能を可能にしてみせてきた。彼らの手にかかれば、馴染みのない素材だろうが実は不可能などないのではないか。

「どうせできっこないのだからと言われると、燃えるんです」。

「周りの工場の誰かが、できないと言われていた研磨を成功させることができたら、僕はたまらなく悔しい。逆に、できないと思っていたことができたとき、僕だけじゃなく社員やお客さんみんながとてもうれしそうな顔をするんです。その一体感もまたたまらないですよね。だから私たちは、常に挑戦を続けます」

 

 

不可能を可能にしたとき、人はそれを奇跡と呼ぶ。
奇跡は努力の積み重ねで生まれ、その裏側には地道だが着実な積み重ねがある。ここ船山理研工業所は、「奇跡の生み出し方」を知っているのだ。

「布の研磨ですか。おまかせください」

彼らは遠く無い未来、現在の不可能もまた可能に変えて見せるのだろうか。

果敢に挑戦していく姿は、この地域のバレル研磨技術の生き残りを確かなものにしてくれる。

 

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