2020.3.15 UP

廃棄物を再循環のサイクルへ。世界基準SDGsの時流にのる「総合リサイクル」の北興商事

ものづくりの町として知られる燕三条。金属を主とし、木工、繊維まで古くから様々な素材の製品を作り続けてきました。そんな一大産地で、私たちの身の回りの物から産業廃棄物まで、「不用品」とされた廃棄物を再生し、「資産」に一変させる会社があります。

総合リサイクル業を営む北興商事株式会社(以下、北興商事)です。製造過程で出る金属片や不要物を回収し、再生させるのが主な仕事です。

日本はものづくり大国ですが、製造・物流・販売のさらにその先の廃棄・リサイクルまで考えられている企業は数少ないのではないでしょうか。

産地としてしっかり製品が届いた先の廃棄・循環にまで責任を持つこと。
製品を作ることへの責任を口にする社長の言葉に、未来のものづくりの在るべき姿が見えました。

 

 
 

生産の副産物である、産業廃棄物とは

北興商事は複数の工場が集まる工業団地の一角に会社を構え、周辺工場から出た金属やプラスチック、古紙、木材などの不用品を処理しリサイクルをしています。それぞれ素材ごとに処理の方法は異なり、その中でもプラスチックは30種類以上の処理があるといいます。それら一つ一つの素材を選別し、処理技術を身につけていくことは大きな負担がかかるとされ、1社でこれだけの種別を扱える業者はごくまれです。

北興商事の回収対象は、販売に至らなかった不良品や、製造過程で不要になった端材など。これらは産業廃棄物と呼ばれる一方で、「生産副産物」とも呼ばれます。場合によってはゴミとして処理されてしまうものですが、それらに新たな役割を担わせ、もう一度新たな素材として命を吹き込むのです。

将来、地球に害のない形で処理し、次の活用可能な資材へと変換させる。それこそが、北興商事のリサイクルの功績です。

 

 
 

くず鉄を「回収」する仕事から始まった北興商事

かつて、日本が高度成長を迎えたころ、「鉄は国家なり」と言われ、鉄鋼産業が国力そのものを象徴とした時代がありました。北興商事が誕生したのは昭和49年、現社長の父親である先代は、長岡市に本社を構える北越メタル株式会社を退職し、グループ会社として北興商事を創業。当時の仕事は、工場から出た金属製品の廃棄物や、製造過程で出る廃金属を回収する、スクラップ業が中心でした。

「子どものころは、スクラップ屋さんやくず屋さんと呼ばれるのが嫌でした。高校生のころに現場を手伝ったこともありましたが、体力勝負で本当にキツイ仕事という印象が強くて。朝ごはんを食べて、2時間後にはお腹が減って動けないなんてこともざら。それくらい厳しくて辛い仕事に感じていたんです」

そう現社長の中村信一さんは当時を振り返ります。

 

現在は社長になった中村さん
高校を卒業すると、県外の大学へ。卒業後は地元にある金物関連の会社に就職。しかし、他人の作っているものを売っていても面白くないと製造業へ転職します。そこで、生産管理として現場の仕事を任されます。

「当時は企画で採用されたと思ったのですが、蓋を開けたら生産管理職でした。旅館のタオル掛けや陶器の傘立てなど、色んなものを作っている会社だったので、様々な素材に触れることができたのは良かったです」

30歳のとき、母親が他界。それをきっかけに家に戻り、父親の仕事を手伝うことに。それから働き続けて10年目。先代の引退を受け、中村さんが41歳の年に2代目として会社を引き継ぐこととなりました。

社長業を引き継いだタイミングで「総合リサイクル業」を掲げ、それまでのスクラップ以外の仕事の受注を始めます。それは、世間からの需要の高まりを感じていた中村さんの英断でした。

 

 

「昔は鉄を扱う会社から依頼された鉄だけを扱っていればよかったのですが、次第に求められる材料の処理も複雑化してきました。『お前のところは鉄だけか』と言われることも増えて。そんなに言うなら、鉄以外の素材も対応できる総合的なリサイクル業としてやっていこうと業務内容を変えることにしました」

 

施設にはあらゆる素材の産業廃棄物が工場から届く

 
 

廃棄物が、新しい資材へと変わる工程を知る

北興商事での廃棄物の処理はどのような工程で進んでいるのでしょうか。

まず、大量の廃棄物が新潟県内の各所から運ばれてきます。集められるのは、製品を作る際に出た端材から、工場やビルが解体されたときに出たスクラップ、そして不要になった機械廃材など。

 

 

会社の入り口前にある大きな鉄板の上で回収した金属くずや廃棄物を計量する台貫(計量器)が設置され、その重量を測定します。その後、集積場に廃棄物を集め、そこで分類。

鉄スクラップは、分類して圧縮・切断などの粉砕加工や機械加工をしたあとは北越メタル株式会社に原料として納入。建築用の鉄鋼製品へと再製品化されます。他の素材も同様に、ステンレス・アルミ・銅などの非鉄スクラップも処理後に原料として精錬メーカーに納入します。プラスチックは素材ごとに分別、選別、加工処理後に原料としてペレット再生業者へ納入、再生できないものは燃料向けと最終処分先へと分けて出荷します。

 

 

取材時に稼働していたアルミ缶を圧縮する機械。大量の缶があっという間に圧縮されるそうです。

 

 

今でこそ機械化が進んでいますが、昔はすべてこれらを手作業でやっていた時代。切り傷は当たり前、時には端材が手に刺さり、刺し傷になることも。そんな風に怪我をすると「怪我をするほうが悪い」と怒られていたといいます。

機械化が進み、昔よりよくなったとはいえ、危険は常に隣り合わせ。機械を動かすときは特に慎重になり、お互いに声を掛け合うなど、集中力が必要な仕事でもあります。

 
 

経済や市場を見ながら事業を展開する、現在の北興商事

スクラップ業から総合リサイクル業へと事業を拡大させた北興商事。同業で、ここまで手広いラインナップを扱うリサイクル業者は少ないといいます。

「あるとき父親に『なぜ商事なのか』と社名の由来を聞いたら、『この名前なら事業として何でもできるだろ?』という答えが返ってきました。きっと親父も、制約がなければスクラップ以外の事業もやりたかったのだろうと思いました」

ひとつのことに縛られない考え方は、先代の血でしょうか。先代の答えに応じるかのように、中村さんは、現在の会社はまだ完全形ではないと続けます。

 

リサイクルを拡大解釈して事業展開を目論む中村さん
「私たちのロゴマークのH(エイチ)のところ、実は片側が-ing形なんですよ。僕が社長になるときに作ったロゴですが、まだ会社が完成していないことを表現したかったので、この形をとりました」今後もひきつづき変わり続けたいと話してくれました。

中村さんの話の流れで、部屋にたまたま見慣れぬものがあり聞いたところ、金属分析機だと教えてくれました。部屋の片隅に置かれた、黒いスーツケースのような小さな箱。この機械を使えば、ここに届けられた素材がどんな素材が使われているのかがわかるので、素材を特定し、分別できるのです。


 
 

 

「モノを壊していると、モノを作る工程にも詳しくなってきます。創造と破壊は表裏一体とはいいますが、知らないことを知ることが好きなんです」と笑います。

かつて自社で処理した廃プラスチックを中国へ輸出、加工処理し、再利用できる原材料として生まれ変わったものを販売していたこともある北興商事。その当時、中国の視察はもちろん、売り先の工場にも自ら足を運び、自分の知らないことがないよう心がけていました。

「売った後のことまで責任を持つのが、私たちリサイクル業者の役目。自分たちが出したゴミがどうやって回収されているのかまで知らなければいけないと思っています」

 

 

これからの時代に必ず必要になってくるであろう環境や作った先への配慮。中村さん自ら厳しく自分の責務を全うする一方で、会社としては今後色んな人に関わってもらうこともまた、理想とするあり方だと言います。

中村さんはエコキャップやビニール傘の仕分けを福祉施設にお願いし、社内外問わずにできるだけ多くの人にこの北興商事が大切にする「モノの循環」に関わってもらうことを目指しています。

「障害があっても自分が役に立っている実感や物事に主体的に関わっている気持ちを感じて欲しい」それは、中村さん自らが扱う「循環するもの」の可能性を知っているからこそ、心から出てくる言葉なのものかもしれません。

 
 

人も、ものも、良さを引き出すのは環境次第

リサイクル業といえばその現場で働くのは、どうしても男性をイメージしてしまいます。ところが、実際に北興商事を訪れて驚くのはその女性率の高さ。男女も年齢の差もなく、この北興商事のビジョンに人が集まってきているのです。

 

女性率の高さは周囲の工場と比較しても高い
「個の可能性が光るのは、色んな人と関わることで磨かれているから。自分だけの力で光ることはありません。他の砂利と関わり合いながら、自ら光ろうとする人間だけが光り輝くのが世界だと思います」

会社とは、同じ想いを持つ人たちの集合体。意思を繋ぎとめた人たちが、経営を引き継ぎ、今後も会社を育てていくのです。たとえ血縁でなくとも、色んな血が混ざりながら想いが繋がっていく。それが中村さんの考える理想の企業の在り方でもあり、循環する想いでもあります。

「人生に無駄なことはない」

中村さんの持論にも、これまでの人生経験が垣間見えます。

「人は自己研鑽をしなければいけません。もちろん自己研鑽したからといって結果がすぐ出るわけでもないですが、自分で磨いた技術は絶対自分の人生において無駄にはならないはずです」

 

 

事業を引き継ぎ、総合リサイクル業への転換や海外展開など、先代とは違う形で会社を牽引してきた中村さん。そうした挑戦ができるよう、社内ベンチャーを立ち上げ、支援体制を作っていきたいともいいます。

「最初は、社員発信で部署的に作ってもらえば良いかなと。起業するのであれば、身内だからこそ一番キツイことを言うとは思います。ですが、そういう時って、周りの人間はなかなか本当のことを言わないので。『そこまで言われてそれでもやる!』と言うのなら全面的に支援してあげたいと思っています。そこまで自らの意思で動く人が出てきたら、あとの責任は会社にかかってくるので。そういう形で今後北興商事のグループが出来ていったら嬉しいです」

 
 

これからのものづくりには、循環が必要

「持続可能な自然と調和することが万物の摂理でもあり、企業はモノを作ったら、廃棄の段階まで責任を持つべき」と中村さんは言います。

一般的に民間の企業は一定の利益を追い続けなければいけません。しかし、不要品や使用済み品を処理することは、コストがかかるため利益とは全く反対の方向でもあるのでこの分野に注力する企業はそう多くはありません。しかし、時代は変わりました。

 

 

多くの人が環境に対して危機感を持ち、スーパーの店先には回収ボックスが立ち並び、週末には各所で自分の要らなくなった衣類や所持品を安く販売するフリーマーケットも多く開かれるようになった今、産業面でも資源の再活用は市民権を獲得しつつあります。

「前職でものを作る仕事に携わり、その過程で端材や梱包などの産業廃棄物がたくさん出てくることを知りました。その衝撃は忘れられません。こんなにも廃棄物が出るのか、と。そこから一転、廃棄物を扱うようになりました。だからこそモノを作るはじめの段階から環境を意識できればと思うんです」

 

 

環境への意識、企業としての在り方…これまでの中村さんの言葉通り、北興商事では新しい自社プロジェクトを立ち上げることになります。それが “健康”で“楽しく”、“続けられる”モノ・コトを集め、提案・発信するマーケット「LOHAS MARKET」と、ベトナムのプラバックを輸入し販売する「KAGO long-ju-anqi」です。

 

 

「LOHAS MARKET」では、安心と安全が保証された再利用された自然素材の資源または再利用できる素材を使用した、油汚れに効果的な洗剤や洗濯用酵素などを販売しています。

一方、「KAGO long-ju-anqi」は、ベトナムのプラバックと呼ばれるカゴバックをメインに主にインターネットで販売する取り組みです。一度粉砕したプラスチックをベトナムへ出荷し、再生プラスチックとしてPP(ポリプロピレン)バンドとして製造。ベトナムスタッフにバックを制作・検品してもらい、日本国内で販売しています。

 

 

この二つの事業は、メーカーとして原材料の手配から流通、販売まで自社で担うことを目的にしながら、さらには、活用される資源の循環を作り出す、中村さんの理想とするものづくりの在り方を体現した事業です。

 

 

中村さんのリサイクルへの情熱はさらにとどまることを知りません。
「これからの総合リサイクル業にはコンサル的な動きも必要になってくる」といいます。

「ようやく、大手企業が再生可能なペットボトルや環境に優しい車といったように“再生”や“環境”という言葉が広く一般的に使われるようになりました。製造側に対しても資源をきちんと活用し終え、それでも余剰となったものを回収、リサイクルできる仕組み作りまで整えることが本来の責任でもあります。今後、こうした企業が出てくることが考えられるので、総合リサイクル業として何ができるかを考えていきたいです」

 
 

燕三条という一大産地で、モノの循環を目指す

「ものづくりの町、燕三条で作った製品は燕三条の自然に返す。そんな仕組みが作れたら良い」と中村さんは語り続けます。

「燕三条、ひいては新潟県はものづくりに適した地域。鉄鋼だけでなく、木工製品や繊維、紙までなんでも揃っています。かつては下請けとしてのイメージが強かったのですが、最近は中間加工業者が発信力を持つようになりました。その中でうちが出来るのは、製品を循環させるシステムを作ること。それで燕三条で作ったものを燕三条に持って来てもらえれば、廃棄・リサイクルできる体制を整えたいです」

 

 

昨今、「自社の製品を直します」と自社商品の修理回収を行う企業も増えています。しかし、中村さんが目指すのは、その先。直しても使えない製品を産地で処理し、その資材をまた原材料として産地で循環させていく。それこそが自らの使命を全うしていることなのだといいます。更に言えば、この循環の仕組みは燕三条だけでなく、どこの産地でも出来ることだ、と。

燕三条から新潟、そして日本全土へと広げ、やがては世界に「本当のものづくりとはこういうことだ」と言えるように。北興商事の挑戦はまだ始まったばかりです。

 

北興商事 株式会社

〒955-0814 新潟県三条市金子新田丙316-1
TEL:0256-34-5865
FAX:0256-34-5853
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