廃棄物を再循環のサイクルへ。世界基準SDGsの時流にのる「総合リサイクル」の北興商事
総合リサイクル業を営む北興商事株式会社(以下、北興商事)です。製造過程で出る金属片や不要物を回収し、再生させるのが主な仕事です。
日本はものづくり大国ですが、製造・物流・販売のさらにその先の廃棄・リサイクルまで考えられている企業は数少ないのではないでしょうか。
産地としてしっかり製品が届いた先の廃棄・循環にまで責任を持つこと。
製品を作ることへの責任を口にする社長の言葉に、未来のものづくりの在るべき姿が見えました。
生産の副産物である、産業廃棄物とは
北興商事の回収対象は、販売に至らなかった不良品や、製造過程で不要になった端材など。これらは産業廃棄物と呼ばれる一方で、「生産副産物」とも呼ばれます。場合によってはゴミとして処理されてしまうものですが、それらに新たな役割を担わせ、もう一度新たな素材として命を吹き込むのです。
将来、地球に害のない形で処理し、次の活用可能な資材へと変換させる。それこそが、北興商事のリサイクルの功績です。
くず鉄を「回収」する仕事から始まった北興商事
「子どものころは、スクラップ屋さんやくず屋さんと呼ばれるのが嫌でした。高校生のころに現場を手伝ったこともありましたが、体力勝負で本当にキツイ仕事という印象が強くて。朝ごはんを食べて、2時間後にはお腹が減って動けないなんてこともざら。それくらい厳しくて辛い仕事に感じていたんです」
そう現社長の中村信一さんは当時を振り返ります。
「当時は企画で採用されたと思ったのですが、蓋を開けたら生産管理職でした。旅館のタオル掛けや陶器の傘立てなど、色んなものを作っている会社だったので、様々な素材に触れることができたのは良かったです」
30歳のとき、母親が他界。それをきっかけに家に戻り、父親の仕事を手伝うことに。それから働き続けて10年目。先代の引退を受け、中村さんが41歳の年に2代目として会社を引き継ぐこととなりました。
社長業を引き継いだタイミングで「総合リサイクル業」を掲げ、それまでのスクラップ以外の仕事の受注を始めます。それは、世間からの需要の高まりを感じていた中村さんの英断でした。
廃棄物が、新しい資材へと変わる工程を知る
まず、大量の廃棄物が新潟県内の各所から運ばれてきます。集められるのは、製品を作る際に出た端材から、工場やビルが解体されたときに出たスクラップ、そして不要になった機械廃材など。
鉄スクラップは、分類して圧縮・切断などの粉砕加工や機械加工をしたあとは北越メタル株式会社に原料として納入。建築用の鉄鋼製品へと再製品化されます。他の素材も同様に、ステンレス・アルミ・銅などの非鉄スクラップも処理後に原料として精錬メーカーに納入します。プラスチックは素材ごとに分別、選別、加工処理後に原料としてペレット再生業者へ納入、再生できないものは燃料向けと最終処分先へと分けて出荷します。
機械化が進み、昔よりよくなったとはいえ、危険は常に隣り合わせ。機械を動かすときは特に慎重になり、お互いに声を掛け合うなど、集中力が必要な仕事でもあります。
経済や市場を見ながら事業を展開する、現在の北興商事
「あるとき父親に『なぜ商事なのか』と社名の由来を聞いたら、『この名前なら事業として何でもできるだろ?』という答えが返ってきました。きっと親父も、制約がなければスクラップ以外の事業もやりたかったのだろうと思いました」
ひとつのことに縛られない考え方は、先代の血でしょうか。先代の答えに応じるかのように、中村さんは、現在の会社はまだ完全形ではないと続けます。
中村さんの話の流れで、部屋にたまたま見慣れぬものがあり聞いたところ、金属分析機だと教えてくれました。部屋の片隅に置かれた、黒いスーツケースのような小さな箱。この機械を使えば、ここに届けられた素材がどんな素材が使われているのかがわかるので、素材を特定し、分別できるのです。
かつて自社で処理した廃プラスチックを中国へ輸出、加工処理し、再利用できる原材料として生まれ変わったものを販売していたこともある北興商事。その当時、中国の視察はもちろん、売り先の工場にも自ら足を運び、自分の知らないことがないよう心がけていました。
「売った後のことまで責任を持つのが、私たちリサイクル業者の役目。自分たちが出したゴミがどうやって回収されているのかまで知らなければいけないと思っています」
中村さんはエコキャップやビニール傘の仕分けを福祉施設にお願いし、社内外問わずにできるだけ多くの人にこの北興商事が大切にする「モノの循環」に関わってもらうことを目指しています。
「障害があっても自分が役に立っている実感や物事に主体的に関わっている気持ちを感じて欲しい」それは、中村さん自らが扱う「循環するもの」の可能性を知っているからこそ、心から出てくる言葉なのものかもしれません。
人も、ものも、良さを引き出すのは環境次第
会社とは、同じ想いを持つ人たちの集合体。意思を繋ぎとめた人たちが、経営を引き継ぎ、今後も会社を育てていくのです。たとえ血縁でなくとも、色んな血が混ざりながら想いが繋がっていく。それが中村さんの考える理想の企業の在り方でもあり、循環する想いでもあります。
「人生に無駄なことはない」
中村さんの持論にも、これまでの人生経験が垣間見えます。
「人は自己研鑽をしなければいけません。もちろん自己研鑽したからといって結果がすぐ出るわけでもないですが、自分で磨いた技術は絶対自分の人生において無駄にはならないはずです」
「最初は、社員発信で部署的に作ってもらえば良いかなと。起業するのであれば、身内だからこそ一番キツイことを言うとは思います。ですが、そういう時って、周りの人間はなかなか本当のことを言わないので。『そこまで言われてそれでもやる!』と言うのなら全面的に支援してあげたいと思っています。そこまで自らの意思で動く人が出てきたら、あとの責任は会社にかかってくるので。そういう形で今後北興商事のグループが出来ていったら嬉しいです」
これからのものづくりには、循環が必要
一般的に民間の企業は一定の利益を追い続けなければいけません。しかし、不要品や使用済み品を処理することは、コストがかかるため利益とは全く反対の方向でもあるのでこの分野に注力する企業はそう多くはありません。しかし、時代は変わりました。
「前職でものを作る仕事に携わり、その過程で端材や梱包などの産業廃棄物がたくさん出てくることを知りました。その衝撃は忘れられません。こんなにも廃棄物が出るのか、と。そこから一転、廃棄物を扱うようになりました。だからこそモノを作るはじめの段階から環境を意識できればと思うんです」
一方、「KAGO long-ju-anqi」は、ベトナムのプラバックと呼ばれるカゴバックをメインに主にインターネットで販売する取り組みです。一度粉砕したプラスチックをベトナムへ出荷し、再生プラスチックとしてPP(ポリプロピレン)バンドとして製造。ベトナムスタッフにバックを制作・検品してもらい、日本国内で販売しています。
「これからの総合リサイクル業にはコンサル的な動きも必要になってくる」といいます。
「ようやく、大手企業が再生可能なペットボトルや環境に優しい車といったように“再生”や“環境”という言葉が広く一般的に使われるようになりました。製造側に対しても資源をきちんと活用し終え、それでも余剰となったものを回収、リサイクルできる仕組み作りまで整えることが本来の責任でもあります。今後、こうした企業が出てくることが考えられるので、総合リサイクル業として何ができるかを考えていきたいです」
燕三条という一大産地で、モノの循環を目指す
「燕三条、ひいては新潟県はものづくりに適した地域。鉄鋼だけでなく、木工製品や繊維、紙までなんでも揃っています。かつては下請けとしてのイメージが強かったのですが、最近は中間加工業者が発信力を持つようになりました。その中でうちが出来るのは、製品を循環させるシステムを作ること。それで燕三条で作ったものを燕三条に持って来てもらえれば、廃棄・リサイクルできる体制を整えたいです」
燕三条から新潟、そして日本全土へと広げ、やがては世界に「本当のものづくりとはこういうことだ」と言えるように。北興商事の挑戦はまだ始まったばかりです。
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