厨房メーカーが世界を変える?日本の飲食業界を支える板金屋・ハイサーブウエノ
厨房機器の製造に特化した板金屋、株式会社ハイサーブウエノ(以下、ハイサーブウエノ)は、数多くの店舗や施設の厨房をオーダーメイドすることで、日本の外食産業の裏側を支えてきました。
時代が変わり、板金加工の工場が全国的に淘汰されていく中、今や厨房板金加工を引き受けることができる工場は、新潟県の燕三条地域でもハイサーブウエノ1軒だけです。
会社が掲げているコンセプトが「みんなの工場」。
自社ブランドを持つのではなく、困っているメーカーや飲食店の黒子に徹するために、メインの厨房板金をはじめOEM品の製造やプライベートブランド品の設計・製造のみに舵を切ったのは、会社としての決意の表れでした。
板金の技術で製造できるものは多くの種類があるにも関わらず、あえて「飲食」をメインにする特化戦略を取ったことで、今や世界へ目を向けるほどの成長を遂げました。
今ハイサーブウエノが飲食業界では熱い!!
飲食業界ではそのような評価を確立させつつあるハイサーブウエノ。
シンクや作業台・ガス台などの厨房板金から、麺水切り器や洗浄機・フライヤーなどの調理機器まで、厨房施設に関連する製品を幅広く設計製造する板金加工屋です。
それは、「厨房として使えればいい」という安直な考え方が許されないと言うこと。厨房に立つ人の目線から見て、安心かつ安全な設計がされていることにこそ価値があると考え、ハイサーブウエノはものづくりをします。
厨房の環境を誰よりも把握し、その店舗に合わせて初期段階から設計に入り、最終工程まで一貫して担うことで、飲食業界の信頼を勝ち得ているのです。今では学校もホテルもレストランからも、ハイサーブウエノに厨房周りの相談があります。
そんな困りごとがあったら、とりあえずハイサーブさんに相談してみよう。
飲食業界からはそんな声も多く聞こえて来るそうです。
三条まで響いた、厨房への熱い思い
しかし、憲泰さんが上野製作所に勤めた期間は2年弱、一緒に帰郷した同僚は3年弱。2人ともシンクを作る全ての工程を把握していたわけではありません。必要な機械も揃っていない中、手探りで事業を起こした彼らを救ってくれたのは、上野製作所の先代の社長。上野製作所にとって、憲泰さんは製造部門の人間を引き抜いた存在にも関わらず、「自分でやっていくなら、サポートする」と機械を安価で譲ってくれました。
修行させてもらうだけでなく、独立も快く送り出してもらった上野製作所への恩を大事にしたいという思いから、社名にウエノを冠したのです。
「回転寿司の厨房設備をやってみたらどうか」
当時、回転寿司の厨房設備の製造に特化した会社は石川県に2社のみだったことから、ハイサーブウエノは可能性を信じ、新潟で回転寿司業界に参入したい会社のニーズを汲んだ事業を展開することになります。手がけたのは、お皿が流れるレーンやコンベア機をはじめ、タッチパネルのシステムから自動洗浄機まで、回転寿司に関する一連の設備のサポート。この一貫する生産体制は、ハイサーブウエノの現在のものづくりにも活きています。
回転寿司業界に好機を見出したものの、好調な波は長くは続きませんでした。あるとき、特許関連でクライアントとの間に亀裂が走り、突然取引がなくなってしまいます。売上の半分をそのクライアント頼みにしていたため、ハイサーブウエノの経営は一気に傾きます。
取材に応じてくれた現社長の小越元晴(もとはる)さんが家業に戻ってきたのは、ちょうどこの苦しい時期でした。
みんなの困りごとを解決したい。目指したのは「みんなの工場」
その柔和な笑顔からは、人を安心させる人柄も感じられます。
「実家は確かに苦しい状況でした。けれどそんな中でも懸命に社員を守ろうとする父親を見ていたことから、迷わずに家業を継ごうと決心できました」
まず、手をつけたのがキャッシュフローのあり方。BtoBの世界では、約束手形による支払い体制が根強く残っていました。会社に現金が入るのは遅く、最悪の場合、取り損ねる恐れもある。それは仕事を請ける側の会社にとって不利な契約体制でした。元晴さんが着任すると、まず新規での約束手形の取引は一切行わず、売上が早く会社に入る仕組みに切り替えます。さらに仕事を請けている一社あたりの売上比率を15%以下に抑えることで、たとえ一社の取引が突然なくなっても会社が傾かない様な体制に立て直しました。
「ハイサーブウエノは、自社ブランドを持ちません」
そう宣言したのは、今から10年ほど前のこと。
もうひとつ元晴さんが決行したのは、下請け業務を徹底的に受託することです。一度取引先が見つかれば、営業部門が稼働せずとも、その後も継続的に製造を受注することができるためです。元晴さんは、前職からの繋がりで得意先にも営業をかけ取引先の開拓に努めます。その甲斐もあり、徐々に収益があがり、黒字化に成功します。
今では工場の人手不足や老朽化した機械のメンテナンスに投資できないメーカーも多く、ファブレス経営*に移行する会社も増えています。そこでハイサーブウエノは、彼らの代わりに製造工場の役割を担うことで、発注元が安心して営業や開発・アフターフォローに専念できる仕組みを作りました。それが「みんなの工場」です。
板金加工では基本的に「切り抜く」「曲げる」作業は機械が担います。しかし、溶接や研磨の作業に関しては細やかな職人技が必要。ハイサーブウエノでは特に、シンクのR部分の加工技術がずば抜けて高いのです。
想定するユーザー像は“17歳の女性アルバイト”。濡れた手で触れても大丈夫な設計を
事故があったのは、とある厨房の製造委託先である飲食店。設計時に思いも寄らなかった箇所で、アルバイトの女性が手を怪我する事故が起きてしまったのです。この一件を受けて、「“17歳の女性アルバイト”が濡れた手で触れても安全な基準をハイサーブウエノは徹底する、もう二度と現場で怪我をさせてはならない」と強く意識を改めたと言います。
「安全性に関しては特に気を付けています。厳しい言葉かもしれませんが、現場での安全性を重要視しない会社とは、取引しなくていいとさえ思っています。実際に働く人のことを考えていないってことですからね」
より良い品質のものをつくるために、今でも工場内の体制を継続的に変えつつあります。その体制づくりに大きく関わるのが、現在33歳の工場長である櫻井さん。工場内ではまだまだ若手に数えられる彼が工場長に就いた理由は、その生産管理の力にあります。
目下の課題であった生産体制。旧来の体制では、当日製造・当日出荷を当然とし、手直しする時間がなく、NG品も含めて納期に間に合わせて一気に作らざるを得ませんでした。しかし、櫻井さんが生産管理に赴任してからは納期前日に製造を完了させる体制に切り替え、工場の職人たちは次に何をすればいいのかが一目瞭然。こうした積み重ねによって少しずつ工場内の空気も変わり、今では各々の職人が自己チェックをする時間も確保する余裕も生まれています。
すべてはお客様の幸せのため。黒子に徹するハイサーブウエノの展望
「目指すモデルのひとつに、アメリカのH&Kという会社があります。マクドナルドやバーガーキング、サブウェイなどの誰もが知っているメガチェーンのグローバル展開をサポートしている会社で、板金屋から始まった会社なんです」
しかし一方で、人に頼った厨房の仕組みやそれによる現場スタッフの負荷、厨房環境の劣悪さなど日本の外食産業の課題は山積みです。
それでは、日本の外食産業がグローバル展開するために必要なことは何でしょうか。
ハイサーブウエノが考える答えは、厨房の仕組み作りにあります。
洗い場や店内清掃をロボットに代用させることや、洗いやすい厨房設計をするなど、厨房の生産性が向上する仕組みをしっかりと作ること。それこそがグローバル展開に向けた、次のステップへの鍵だと踏んでいます。
ハイサーブウエノは「みんなの工場」でありながら、大手飲食チェーン店の厨房設計も手がけてきました。厨房設計のシーンでは、飲食店から設計を委託された各メーカーが自社製品を売りたいがために、一台余分に冷蔵庫を追加した提案をするなんてこともしばしば。
店の形はそもそもチェーンや立地などでも異なります。厨房をそれぞれに最適化して作りたい飲食店にとって、そうしたメーカーに設計をお願いしては、なかなか良い厨房にはなりにくい。そこでハイサーブウエノが間に入り、厨房の設計全体のまとめ役を「フラット」に買って出ているのです。
自社ブランドを持たないハイサーブウエノならば、各厨房機器メーカーも情報を快く差し出してくれるため、双方がいい関係性を築ける。メーカーにとっては、ハイサーブウエノが機器の特徴をわかりやすく正しく伝えることにより、価格競争になりにくくなります。それに板金屋こそ、こうした各メーカーと各メーカーの厨房機器を文字通り「繋ぐ」役割でもあるのです。
僕らのような下請けだって勝負できる
それでも元晴さんは、「下請けだからこそ描ける未来もある」と力強く語ります。
元晴さんが入社したときは、倒産の危機を迎えていたハイサーブウエノ。そこから立ち直り、丁寧に育ててきたビジネスの種が今ようやく大きく花開こうとしています。
BtoBの、いわゆる下請け企業の存在は、最終消費者である私たちにはあまり馴染みがないかもしれません。しかし、厨房機器メーカーや飲食店を支える彼らがいるからこそ、私たちは安全で美味しい食事をいただくことがきます。そういった意味でハイサーブウエノは、私たちの外食生活を支えてくれる存在だと言っても過言ではありません。
社会的な意義を掲げること。顧客の「困った」を解決すること。そして、現場の社員に報いること。
明確に事業を飲食業界に絞ったハイサーブウエノの快進撃はまだまだ続きそうです。
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