2020.7.10 UP

厨房メーカーが世界を変える?日本の飲食業界を支える板金屋・ハイサーブウエノ

誰もが知っているような外食産業の裏側、厨房の中にも、キラリと光る世界基準のメイドインジャパンが存在します。

厨房機器の製造に特化した板金屋、株式会社ハイサーブウエノ(以下、ハイサーブウエノ)は、数多くの店舗や施設の厨房をオーダーメイドすることで、日本の外食産業の裏側を支えてきました。

時代が変わり、板金加工の工場が全国的に淘汰されていく中、今や厨房板金加工を引き受けることができる工場は、新潟県の燕三条地域でもハイサーブウエノ1軒だけです。

会社が掲げているコンセプトが「みんなの工場」。
自社ブランドを持つのではなく、困っているメーカーや飲食店の黒子に徹するために、メインの厨房板金をはじめOEM品の製造やプライベートブランド品の設計・製造のみに舵を切ったのは、会社としての決意の表れでした。

板金の技術で製造できるものは多くの種類があるにも関わらず、あえて「飲食」をメインにする特化戦略を取ったことで、今や世界へ目を向けるほどの成長を遂げました。

 

 

 
 

今ハイサーブウエノが飲食業界では熱い!!

「とにかく、困ったらハイサーブ」

飲食業界ではそのような評価を確立させつつあるハイサーブウエノ。

シンクや作業台・ガス台などの厨房板金から、麺水切り器や洗浄機・フライヤーなどの調理機器まで、厨房施設に関連する製品を幅広く設計製造する板金加工屋です。

 

 

厨房は、私たちが想像する以上に過酷な環境と言えます。温度も湿度も高く、飛び跳ねた油でガス台や作業台は汚れ、厨房で働くスタッフが濡れた手でシンクやテーブルに触ることから、耐食性・耐久性など安全面にも気を配らなければいけません。

それは、「厨房として使えればいい」という安直な考え方が許されないと言うこと。厨房に立つ人の目線から見て、安心かつ安全な設計がされていることにこそ価値があると考え、ハイサーブウエノはものづくりをします。

厨房の環境を誰よりも把握し、その店舗に合わせて初期段階から設計に入り、最終工程まで一貫して担うことで、飲食業界の信頼を勝ち得ているのです。今では学校もホテルもレストランからも、ハイサーブウエノに厨房周りの相談があります。

 

 

こんな厨房で、こんなものを作りたいけど、誰に相談すればいいのだろう?
そんな困りごとがあったら、とりあえずハイサーブさんに相談してみよう。
飲食業界からはそんな声も多く聞こえて来るそうです。

 
 

三条まで響いた、厨房への熱い思い

ハイサーブウエノの創業は、今から50年前。先代社長であり、現会長である小越憲泰(のりやす)さんが23歳の時に起こした会社。当時は家業で戸車という、すり戸の滑車部分を製造していましたが、2代目を世襲した憲泰さんは戸車が今後淘汰されるだろうと考え、三条市でまだ誰も手を出していない事業への転換を計り、遠縁である東京の上野製作所へ修行に出ることに。

 

 

上野製作所は、厨房板金加工の工場。働くうちに、板金の可能性を確信した憲泰さんは上野製作所をのれん分けし、販売部門のみを切りだして、三条市に持ち帰ることを考えはじめます。しかし、「もっとこんな厨房を作りたい」と、将来を語り合った製造部門にいた同僚も、憲泰さんと同じ船に乗って夢を追いかけたいと、東京から三条へ一緒に帰郷することになりました。

しかし、憲泰さんが上野製作所に勤めた期間は2年弱、一緒に帰郷した同僚は3年弱。2人ともシンクを作る全ての工程を把握していたわけではありません。必要な機械も揃っていない中、手探りで事業を起こした彼らを救ってくれたのは、上野製作所の先代の社長。上野製作所にとって、憲泰さんは製造部門の人間を引き抜いた存在にも関わらず、「自分でやっていくなら、サポートする」と機械を安価で譲ってくれました。

修行させてもらうだけでなく、独立も快く送り出してもらった上野製作所への恩を大事にしたいという思いから、社名にウエノを冠したのです。

 

上野製作所から譲り受けた今も現役の機械
昔のキッチンは、今のようなステンレスのシステムキッチンではなく、シンクに木枠で鉄板を張り付けた木造の亜鉛鉄板張りでした。キッチン周りの板金加工のみで他者との差別化を図ることが難しく、悩んでいたときにお客さんからこんな声をいただきます。

「回転寿司の厨房設備をやってみたらどうか」

当時、回転寿司の厨房設備の製造に特化した会社は石川県に2社のみだったことから、ハイサーブウエノは可能性を信じ、新潟で回転寿司業界に参入したい会社のニーズを汲んだ事業を展開することになります。手がけたのは、お皿が流れるレーンやコンベア機をはじめ、タッチパネルのシステムから自動洗浄機まで、回転寿司に関する一連の設備のサポート。この一貫する生産体制は、ハイサーブウエノの現在のものづくりにも活きています。

回転寿司業界に好機を見出したものの、好調な波は長くは続きませんでした。あるとき、特許関連でクライアントとの間に亀裂が走り、突然取引がなくなってしまいます。売上の半分をそのクライアント頼みにしていたため、ハイサーブウエノの経営は一気に傾きます。

取材に応じてくれた現社長の小越元晴(もとはる)さんが家業に戻ってきたのは、ちょうどこの苦しい時期でした。

 

 

 
 

みんなの困りごとを解決したい。目指したのは「みんなの工場」

アメリカへの留学経験もある現社長の元晴さん。家業に入ることは昔から決めていた、と話します。
その柔和な笑顔からは、人を安心させる人柄も感じられます。

「実家は確かに苦しい状況でした。けれどそんな中でも懸命に社員を守ろうとする父親を見ていたことから、迷わずに家業を継ごうと決心できました」

 

 

大学卒業後、父親の紹介で東京の会社に修行に出た元晴さん。ハイサーブウエノのやりきれない現状を耳に挟み、家業に入ります。社員をリストラせず、この状況を乗り切るためにはどうすればいいのだろう?悩んだ結果、元晴さんは大きく2つの改革に乗り出し、危機を免れます。

まず、手をつけたのがキャッシュフローのあり方。BtoBの世界では、約束手形による支払い体制が根強く残っていました。会社に現金が入るのは遅く、最悪の場合、取り損ねる恐れもある。それは仕事を請ける側の会社にとって不利な契約体制でした。元晴さんが着任すると、まず新規での約束手形の取引は一切行わず、売上が早く会社に入る仕組みに切り替えます。さらに仕事を請けている一社あたりの売上比率を15%以下に抑えることで、たとえ一社の取引が突然なくなっても会社が傾かない様な体制に立て直しました。

「ハイサーブウエノは、自社ブランドを持ちません」

そう宣言したのは、今から10年ほど前のこと。

もうひとつ元晴さんが決行したのは、下請け業務を徹底的に受託することです。一度取引先が見つかれば、営業部門が稼働せずとも、その後も継続的に製造を受注することができるためです。元晴さんは、前職からの繋がりで得意先にも営業をかけ取引先の開拓に努めます。その甲斐もあり、徐々に収益があがり、黒字化に成功します。

 

綺麗に整理された工場内の様子
「はじめは苦しい時期を乗り越えるために下請けの道を選びましたが、仕事をするうちにどの会社も製造場所がなく困っていることを知ります。それならば、と僕らは徹底的に黒子に徹することを決めました」

今では工場の人手不足や老朽化した機械のメンテナンスに投資できないメーカーも多く、ファブレス経営*に移行する会社も増えています。そこでハイサーブウエノは、彼らの代わりに製造工場の役割を担うことで、発注元が安心して営業や開発・アフターフォローに専念できる仕組みを作りました。それが「みんなの工場」です。

*ファブレス経営…メーカーが自社で工場を持たず、製品の製造を外部の会社に委託すること

 
 

ひとつひとつ職人の手が使われているのが印象的だ
「みんなの工場」を支えるのは、ハイサーブウエノの高い技術力。
板金加工では基本的に「切り抜く」「曲げる」作業は機械が担います。しかし、溶接や研磨の作業に関しては細やかな職人技が必要。ハイサーブウエノでは特に、シンクのR部分の加工技術がずば抜けて高いのです。

 

 

ステンレスは固く、このR部分は、ただ溶接するだけでは歪みや空洞ができてしまいます。それを歪みなくぴったりと溶接できるハイサーブウエノの技術力は、同じ燕三条の工場の中でも特にレベルが高いのだと、元晴さんは話してくれました。

 
 

想定するユーザー像は“17歳の女性アルバイト”。濡れた手で触れても大丈夫な設計を

ハイサーブウエノのものづくりでは、設計による安全性が徹底的に高く設定されています。その意識がこれほど高くなった背景には、ひとつのある事故が関係しています。

事故があったのは、とある厨房の製造委託先である飲食店。設計時に思いも寄らなかった箇所で、アルバイトの女性が手を怪我する事故が起きてしまったのです。この一件を受けて、「“17歳の女性アルバイト”が濡れた手で触れても安全な基準をハイサーブウエノは徹底する、もう二度と現場で怪我をさせてはならない」と強く意識を改めたと言います。

「安全性に関しては特に気を付けています。厳しい言葉かもしれませんが、現場での安全性を重要視しない会社とは、取引しなくていいとさえ思っています。実際に働く人のことを考えていないってことですからね」

 

 

飲食業界と密接な関係性のある会社として、安全設計は外すことのできない重点事項。実際に製品を使用するのは、取引先からさらに先の現場の人間です。そこに対して委託先も合意しないのであれば、自分たちの出番はない。これはハイサーブウエノの決意表明ともとれる指針です。

 

 

事故後に工場では、安全性を徹底するために非効率な作業を取り入れるほどの徹底ぶり。バリ*取りをする際には必ず人の手で触りながら行う工程を加えました。

*バリ…金属や樹脂などの素材を加工した際に発生する素材のでっぱりを「バリ」と呼ぶ

 
 

厨房機器を手作業で研磨している
また、2016年には品質管理部を独立させ、わざわざ第三者の視線で最終チェックをする形に。これによって、より品質の高い品を顧客の元に届けることができるようになりました。

より良い品質のものをつくるために、今でも工場内の体制を継続的に変えつつあります。その体制づくりに大きく関わるのが、現在33歳の工場長である櫻井さん。工場内ではまだまだ若手に数えられる彼が工場長に就いた理由は、その生産管理の力にあります。

 

工場長の櫻井さん
「たとえば、板金加工はシーズンごとの受注の変動が激しい仕事です。繁忙期と閑散期で売り上げが2倍近く異なるため、工場では繁忙期の分を閑散期に作るなどの計画生産を導入することにしました」

目下の課題であった生産体制。旧来の体制では、当日製造・当日出荷を当然とし、手直しする時間がなく、NG品も含めて納期に間に合わせて一気に作らざるを得ませんでした。しかし、櫻井さんが生産管理に赴任してからは納期前日に製造を完了させる体制に切り替え、工場の職人たちは次に何をすればいいのかが一目瞭然。こうした積み重ねによって少しずつ工場内の空気も変わり、今では各々の職人が自己チェックをする時間も確保する余裕も生まれています。

 
 

すべてはお客様の幸せのため。黒子に徹するハイサーブウエノの展望

そんなハイサーブウエノには目標にしている会社があると元晴さんは言います。

「目指すモデルのひとつに、アメリカのH&Kという会社があります。マクドナルドやバーガーキング、サブウェイなどの誰もが知っているメガチェーンのグローバル展開をサポートしている会社で、板金屋から始まった会社なんです」

 

 

そもそも、日本の外食産業は世界で戦えるほどクオリティが高い。取扱メニューやバラエティが豊富な上、一品あたりの提供時間が非常に早い。日本の外食産業がグローバル展開すれば、もっと世界の食が豊かになると元晴さんは考えています。

しかし一方で、人に頼った厨房の仕組みやそれによる現場スタッフの負荷、厨房環境の劣悪さなど日本の外食産業の課題は山積みです。

それでは、日本の外食産業がグローバル展開するために必要なことは何でしょうか。
ハイサーブウエノが考える答えは、厨房の仕組み作りにあります。

洗い場や店内清掃をロボットに代用させることや、洗いやすい厨房設計をするなど、厨房の生産性が向上する仕組みをしっかりと作ること。それこそがグローバル展開に向けた、次のステップへの鍵だと踏んでいます。

 

 

「板金屋って、厨房のつなぎ役として格好の役回りなんです」

ハイサーブウエノは「みんなの工場」でありながら、大手飲食チェーン店の厨房設計も手がけてきました。厨房設計のシーンでは、飲食店から設計を委託された各メーカーが自社製品を売りたいがために、一台余分に冷蔵庫を追加した提案をするなんてこともしばしば。

店の形はそもそもチェーンや立地などでも異なります。厨房をそれぞれに最適化して作りたい飲食店にとって、そうしたメーカーに設計をお願いしては、なかなか良い厨房にはなりにくい。そこでハイサーブウエノが間に入り、厨房の設計全体のまとめ役を「フラット」に買って出ているのです。

自社ブランドを持たないハイサーブウエノならば、各厨房機器メーカーも情報を快く差し出してくれるため、双方がいい関係性を築ける。メーカーにとっては、ハイサーブウエノが機器の特徴をわかりやすく正しく伝えることにより、価格競争になりにくくなります。それに板金屋こそ、こうした各メーカーと各メーカーの厨房機器を文字通り「繋ぐ」役割でもあるのです。

 

最新の加工機も揃う

 
 

僕らのような下請けだって勝負できる

燕三条にはスノーピークや玉川堂、藤次郎など自社ブランドをもつ会社が数多くあります。実際、ハイサーブウエノの様な下請け企業では、表立って自分の会社をアピールしにくいところもあります。

それでも元晴さんは、「下請けだからこそ描ける未来もある」と力強く語ります。

元晴さんが入社したときは、倒産の危機を迎えていたハイサーブウエノ。そこから立ち直り、丁寧に育ててきたビジネスの種が今ようやく大きく花開こうとしています。

 

 

ハイサーブウエノの企業理念は、「我々は額に汗して一所懸命働く人間が幸せになる手本となり、世の中に幸せを分け与え続ける」。お客様の幸せのために汗を流し、社員の幸せのために汗を流す。世界中の人を日本の外食を通して幸せにするお手伝いをする。そうした働きかけを通じて、ここ燕三条から世界への一助になれることをハイサーブウエノは目標にしています。

BtoBの、いわゆる下請け企業の存在は、最終消費者である私たちにはあまり馴染みがないかもしれません。しかし、厨房機器メーカーや飲食店を支える彼らがいるからこそ、私たちは安全で美味しい食事をいただくことがきます。そういった意味でハイサーブウエノは、私たちの外食生活を支えてくれる存在だと言っても過言ではありません。

 

 

「僕らは世の中を変えることはできないかもしれません。けれど、僕らがやっていることをどんどん見てもらって、いいところは真似してほしいと思っています。そうして日本の中小企業が盛り上がるお手本のような会社になれれば嬉しいです」

社会的な意義を掲げること。顧客の「困った」を解決すること。そして、現場の社員に報いること。

明確に事業を飲食業界に絞ったハイサーブウエノの快進撃はまだまだ続きそうです。

 
 

株式会社ハイサーブウエノ

〒959-1145 新潟県三条市福島新田丙2406番
TEL:0256-45-5678
FAX:0256-45-5677
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