正確無比で消えない目盛りこそ、日本のものづくりの為せる技。「はかる」を作るシンワ測定
目盛の正確さはプロのお墨付き。直尺、曲尺のシェアは全国No.1を誇ります。
もともとは同じ商品を製造する3つの小さな町工場が合併したシンワ測定。金属製スケール***が盛んに作られていた新潟県三条市で「もっと規模を拡大していかなければいけない」と危機感を持った渡辺度器製作所と羽生計器、渡誠度器製作所が合併しシンワ測定が生まれたのです。
現在では直尺、曲尺といった測定器だけではなく、温度計や秤(はかり)などさまざまな「はかるもの」に特化した総合メーカーとなり、世界でも高い評価を得ています。
このままではいけない。先人たちの思いが繋いだ目盛り技術
国内トップシェアを占める直尺、曲尺をはじめ、5/100mmまで精密に測ることのできるノギス*や水平を測るレベルなど、建築関係の測定器をメインに製造しています。さらに温度計や湿度計、秤(はかり)も扱い、計測全般に特化したものづくりをしています。取り扱う商品数はざっと2,000点以上。測定機器のリーディングカンパニーとして業界を牽引しています。
主に建築現場で用いられる直尺や曲尺は、定規とものさし**の機能を兼ね備えたもの。
シンワ測定の創業以前には、三条で曲尺の製作をする工場は、のちのシンワ測定となる渡辺度器製作所と羽生計器、渡誠度器製作所を含め、27社程度。自分の工場に足りない部分があることが分かっていたこの3社は「このままやっていてもお互いにつぶし合うだけ」と、協力し合う道を進むことになります。
こうした合併の道を選ぶことは、ここ三条では非常にまれなこと。あまり例のないことながらも、3社がお互いの技術を持ち寄ることは、結果的に良い形となって今に至るのです。
2代目が絶対に譲らなかった「正確さ」と「誠実さ」
そう教えてくれたシンワ測定の取締役製造部部長である皆木和範さん。
シンワ測定の曲尺は角の部分が厚く、断面を見ると真ん中に窪みが入った形状です。
使い手のことを考えた特徴は、それだけではありません。目盛りが消えにくい耐久性も大きなポイントです。金属を薬品処理し表面に穴あけや彫刻を施すエッチングと呼ばれる技術が耐久性を担保しているのです。廉価な商品は目盛りを単純にプリントしていることが多いので、数回の作業で目盛りが消えてしまうこともあります。
シンワ測定のものづくりを支えているもの。それは、誠実さ。
ホームセンターの一角を担う、シンワ測定ブランド
もともと地元の問屋に商品を卸していましたが、三条市にホームセンターが上陸したことで、風向きが一気に変わります。なんと、「正確さに定評のあるシンワ測定さんなら」と売り場の一画を任されることになったのです。
自社商品だけでは足りないほどのスペースを任されたシンワ測定は、自社以外の商品でも「はかるもの」であれば仕入れを行うことにしました。仕入れ品に関しても、全ての精度を自社で検査し、品質を保証する印としてシンワ測定のブランド名を入れて販売することで、質の高い他社の測定機器にさらなる付加価値を加えたのです。
金属製のスケールをメインに作っていましたが、自社でつくることができる商品を開発するうちに、商品点数は1,000を超えます。営業所を全国へ展開したり、商品開発を行う新たな部署を設立したりと、社内でも新しい動きが出始めました。
継承するのはマニュアルと感覚。シンワ測定の核
実は逆で、シンワ測定は全ての工程やスキルのマニュアル化を徹底して行ってきたのです。
昭和の時代は職人を囲い込んで、その人の技術が外に流出しないようにするのがセオリーでした。しかしそれでは、その職人が辞めてしまえばその技術を使ったものづくりができなくなってしまいます。最悪、技術そのものが失われてしまう恐れもあるのです。
2代目である勝利さんは技術を次の世代に伝えていきたいという思いで、シンワ測定にものづくりのマニュアル化を義務付けました。どうすれば作業効率が上がるのか、どうすればより良い商品ができるようになるのか。職人の世界で当たり前だった“口で伝える方法ではなくマニュアル化することで、誰でもある一定の品質を保つことができる仕組み”を作ったのです。
1 塗膜
曲尺を薬品につけます。このとき曲尺は感光*皮膜で覆われます。
2 露光
目盛りのフィルムを曲尺の上に置き、光をあてます。フィルムの黒塗りのところには、光があたりません。
現像液に浸します。このとき露光の工程で光の当たった部分だけ、感光します。
曲尺を炉にいれ焼きます。
液体を噴霧し金属を溶かします。感光被膜は溶けないため、感光被膜のない目盛り部分が溶けてくぼみます。
感光被膜を除去し、洗浄すれば完成です。
ところが、職人の技術は必ずしも全てを言葉で表すことはできません。目で盗み、耳で違いを感じ、手の感覚に委ねることで技術力を上げていく。シンワ測定でもこうした人の五感に頼る部分は残っています。例えば、曲尺の角度は一本一本目で見てチェックしています。少しでも90度からずれていた場合は叩いて角度を調節します。商品を傷つけないよう絶妙な力加減が必要なこの作業は、熟練工の勘どころが求められることから、一定以上の技術力がなければ担当させてもらえません。
市場を生き残り、これまでに培ってきた会社の形
営業部もまた、展示会などを通して取引先に使いにくさなどをヒアリングし、改善を重ねることで少しずつではありますが、売り上げに貢献してきました。
ところが、数年前から徐々に風向きが変わってきています。中国での人件費が高騰しているのです。今までは中国で製造したものを安価に買い取っていましたが、今となっては同じようにはいきません。これからの中国はものづくりをする場所ではなく、ものを売りに行く場所。そう確信したシンワ測定は、考え方を切り替えて、日本の10倍以上もの人口を誇る中国の大規模マーケットに一石を投じようとしています。
シンワ測定の考える、これからの時代のはかり
DIYが浸透している昨今、素人が建築用品を手にする機会も増えています。そのときに誰もが簡単に使える商品づくりに力を入れていきたい。そうした狙いから、新たに農業分野の製品開発にも着手しています。
高度な技術力で業界トップを疾走するより、手に入りやすい金額のはかりを供給することができたら。お客様の困りごとに応えられるメーカーでありたいと考えています。
“Work Together”
働く人が使う道具を、シンワ測定は作っています。プロでもそうではなくても、シンワ測定の商品とともにある。働く人と一緒にありたい。そんな思いが込められています。
人々のくらしがより進化していくために、時代のニーズに合った「はかるもの」を作ること。シンワ測定の商品開発は、人がなにかを「はかり」続ける限り、その歩みを止めません。
身近にある「はかる」を全ての人のために。
これからも技術と人とを結ぶ数字や基準づくりの一端を担い続けます。
参考文献
三条「曲尺」の歴史
〒955-8577 新潟県三条市興野3-18-21
TEL:0256-34-1412
FAX:0256-31-1134
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