2020.9.4 UP

ものづくりと創造性で未知の金属のスタンダードへ。株式会社SUS(サス)

「新しい金属のかたちを創造する」

そう謳う企業が、新潟県の燕市にある。加工が難しいとされる金属・チタンを用いたプロダクト作りに取り組む、株式会社SUS(以下、SUS)だ。チタンの創造性を追求するライフスタイルブランド「SUSgallery」を展開し、東京・日本橋の直営店や全国の百貨店等で販売している。

店舗売上のおよそ半分はギフトで、こだわり抜いた質に魅了され国外から製品を求めてやってくる旅行者も多い。

他の金属製品とはひと目で違うこの製品。国内外で支持されるSUSが考える、金属の新しいかたちとは一体なんだろう。

 

二重構造のタンブラーの断面。

 
 

機能美と造形美の融合体。SUSの美しすぎる製品たち

SUSの技術力の真価。それを知るには代表作でもあるチタン製の真空タンブラーを使うのが一番だ。

このタンブラーの魅力は、機能面とデザイン面、2つの側面がある。まず機能面で驚くのが、その保温力だ。真空二重構造によって内容物の温度変化が起きにくい。冷たい飲み物を氷入りで注いだ場合でも、同様の理由で結露がしにくい。

取材が始まるやいなや、冷えた麦茶がなみなみと注がれたタンブラーを取材班に差し出してくださった。1時間半ほど話を伺った後でもタンブラーに結露は現れていない。

 

表面に注目。色の展開も豊富だ
もちろん、デザイン面にも魅力がある。タンブラー表面のテクスチャーは他の金属製品と一見で見分けられるほどインパクトが強い。チタンは金属の特性上、加工によって異なる肌触りが生まれる。それを利用して、製品ごとに異なるテクスチャーを生み出しているのだ。

 

結露が現れない氷入りの麦茶。
金属製品といえども「SUSgallery」の製品は一つひとつ表情が異なる。その中から自分好みの製品を選ぶのも楽しさの一つだ。だからこそ、自分のためのとっておきとして購入するばかりではなく、特別な贈り物としても選ばれている。

機能面とデザイン面。この2つを実現できるのは、技術の賜物だ。また、特許も取得しているため、他社ではどうやっても真似できない唯一無二の存在になっている。日本中、世界中の人々から求められるのは、他でもないSUSだからこそ持てる魅力があるからに他ならない。

さらに生産過程やこだわりなどを少しだけ覗かせもらった。

 
 

SUSのものづくりの真骨頂、スピニング

まず、真空のタンブラーが生産されている工場へお邪魔した。生産工程は、大きく分けて5つ。「成形」「溶接」「研磨」「真空化」「検査」だ。ひとつずつ見ていく。

 

 

– 成形
平べったい金属の板を、タンブラーの形に伸ばしていく工程。プレスである程度の形を作った後、モーターで回転させた素材に加工用のローラーを押し付けて成形するスピニングという加工法を用いてタンブラーの深さを出す。
SUSの技術がキラリと光るのは、成形、とくにスピニングの工程だ。もともとスピニングの技術力を武器に事業を拡大していた背景があるため、高い精度での加工が可能なのだという。

 

 

– 溶接 
また、二重の真空タンブラーを生産するために必要な「溶接」もSUSの要となる技術だ。
特に溶接は熱による金属組織の変化を最小限に抑え、後工程に悪影響を及ぼさない独自の取り組みを行っている。

二重構造を実現するためには、内側と外側で別々のパーツが必要だ。スピニングしたパーツを溶接するのか、カーリングで丸めるのか。タンブラーの形状によって、成形する手法を選択している。設計者の金属と加工技術に対する正しい知識と判断力が求められる。

– 研磨
成形したタンブラーを製品として見栄えが良くなるように研磨する。金属によって研磨方法が異なることや、闇雲に力を入れて研磨するだけでは綺麗に磨き上がらないのが難しさ。

 

 

– 真空

その後、真空炉と呼ばれる、炉の中で長い時間をかけて二重構造のタンブラーを真空にしていく。ここは企業秘密で一般の立ち入りはNGだ。この真空引きも自動稼働できる機械ではあるものの、一度に真空にできる数には限界がある。数々の試験を行いながら、現在の生産フローにまでたどり着いた。

– 検査

真空引きされたタンブラーが、機能的に効力を維持できるのかどうかを検査する。完成後すぐに出荷するのではなく、常温で一定期間保管することで、時間が経っても真空精度が下がらないことを確認している。こうした確認を怠らないことでブランドの価値を保っている。

 

 

 
 

ステンレスから始まった器物メーカーは、なぜチタンタンブラーを製造しているのか

SUSの工場の歴史を辿る。50年ほど前「織田島器物製作所」と社名を掲げていた通り、SUSは器物メーカーとして事業をスタートさせた。当時から、金属をまるで飴細工の様にギュインと伸ばす技術・スピニングを武器に、キッチン用品を生産していた。そんな歴史を話してくれたのは、代表取締役の栗田宏さんだ。

 

 

「昔作っていたのは、鍋・ボウル・おぼんなどでした。金属加工の街、とりわけステンレスの加工に長けていた燕では、スピニングを活かした加工品の生産数が伸びていましたからね」

スピニングは、金属の特性を正しく理解しなければ対応ができない難しい技術。とくに、創業当初はヘラ絞りと呼ばれる手作業だったため、より一層高い技術力が求められていた。

分業の街として栄えた燕の中で、スピニングに特化していったのがSUSだ。そのため、加工が難しい大きな器物の生産の相談もよくあった。

 

 

「製品が大きいと、それだけ金属を理解し、隅々まで均等に加工する力を求められます。当時からスピニングに特化していたことで、結果的に金属に繊細な加工を行えることが弊社の強みでした」

事業の方向性が変わったのは、1983年のこと。器物のみのメーカーから、同様の技術を活かして事業を拡大するべきだと考え、現在のSUSにつながる魔法瓶の製造に取り組むようになる。

 

 

「創業者は事業の未来や行く末を考えたとき、スピニングに特化するだけでは生き残れないと考えたようです。そこで始めたのが、ステンレス製の魔法瓶の製造でした。当時、じわじわと巷に広がりつつあった、魔法瓶の生産を行うことで、技術力を活かしながらも世の中に必要とされる企業であり続けられるのではないかと考えたのです」

私たちが現在市場でよく見かける魔法瓶は、大手のメーカーがSUSよりも先に製造を始めている製品だ。後発となるSUSは、彼ら大手と競争するため、大手メーカーらとは異なる道で独自の地位を築く必要があった。そして、その選択が新しい素材「チタン」へ挑戦することだった。

「チタンという金属の性質として、研磨工程で発生した粉が発火しないように注意しなければならなかったり、プレスやスピニングによる成形工程でもステンレスと勝手が違い、その加工条件を試行錯誤しながら探り当てなければいけません。長年の経験や探究心がないと、扱うのが難しい金属です。しかし、常に金属と向き合い続けてきた我々なら、きっと製品化までこぎつけることができると信じていたんです。金属加工の街で培われ、高い精度を求められる魔法瓶メーカーだからこそ、できることがあるはずだ、と」

そうして、試行錯誤を経て生まれたのが今回の主役「SUSgallery」の製品群なのだ。

 
 

SUSが見出す金属の新しい価値とはなにか

実は、株式会社SUSは2019年の7月にリブランディングを終えて社名を変更した。旧社名は株式会社セブン・セブン。今回のリブランディングには、強い想いを込めている。SUSで製品企画に携わる鈴木さんと白井さんは、その想いをこんな風に語ってくれた。

 

 

鈴木さん「まず、SUSの社名には、アルファベットそれぞれに意味を込めました。Sustainability (持続可能性)・Uncompromising (妥協のない、不屈の)・Sensibility (感性、感受性、感覚)です。つまり、質に妥協することなく、人々の心を震わせる製品を、いつまでも作り続けること。それがSUSに込めた想いであり、我々の覚悟なのです。

 

カタログには色とりどりのチタン製品が
また、ロゴも“閉塞感からの開放”をテーマに、既存のロゴに用いていたスクエアをリデザインしました。今までの価値観に捕われることなく、新しい考え方を許容しながら、社外の方々とも協力して製品づくりに取り組みたいと考えています」

金属加工のスタンダードだったステンレスから、未知の金属「チタン」の加工に挑戦したSUSだからこそ抱く想い。まだまだチタンは工場にとっても一般の人にとっても未知だ。きっと誰も知らないポテンシャルを秘めている金属なのだ。

 

 

鈴木さん「SUSが掲げるフレーズ『新しい金属のかたちを創造する』には、さまざまな意味があります。見た目としての“かたち”だけではなく、用途としての“かたち”だったり、市場としての“かたち”だったり。チタンは知れば知るほど面白い金属なんです」

7月のリブランディングに合わせて、SUSではチタンに特化したブランド「SUSgallery」だけではなく、ステンレス魔法瓶を中心とした金属製品のメタルブランド「SEVEN SEVEN」を発表。旧社名を取り入れ、過去のイズムもそのままに推進していく方針だそうだ。

 

 

SUSは日常に寄り添う製品から、特別な場面、感動を生み出すブランドとして、新しい一歩を踏み出した。燕三条の、ひいては、日本のものづくりの魅力をSUSの製品を通して伝えていきたいと、鈴木さんは語ってくれた。

鈴木さん「ものづくりって、やっぱり楽しいんですよ。試行錯誤の連続ですし、うまくいかないことはたくさんある。辛いなと思うことだって、もちろんあるんです。それでも新しい商品が産声を上げて、世の中に届いていく瞬間の嬉しさはどんな辛いエピソードも塗り替えてくれるほど喜ばしいもの。その一瞬を目指して、私たちは夢中でものづくりと向き合っているんですよね」

 

 

世界中の人からSUSが求められる、そんな大きな企業になっても、SUSで働く人々の原動力は、きっととてつもなくシンプルな「ものづくりが好き」と言う感情なのだろう。そんなストレートな想いだからこそ伝わる覚悟がある。届く人がいる。

SUSは、これからも金属の新しいかたちを探して奔走を続けるはずだ。未来でのスタンダードになる「かたち」は、一体どのようなものだろうか。今からその答えが楽しみで仕方がない。

 
 

株式会社SUS 

〒959-1280 新潟県燕市花見300番地
TEL:0256-62-4117
FAX:0256-62-4120
https://sus-inc.com/
 

SUSgallery 

https://www.susgallery.jp/