ものづくりと創造性で未知の金属のスタンダードへ。株式会社SUS(サス)
そう謳う企業が、新潟県の燕市にある。加工が難しいとされる金属・チタンを用いたプロダクト作りに取り組む、株式会社SUS(以下、SUS)だ。チタンの創造性を追求するライフスタイルブランド「SUSgallery」を展開し、東京・日本橋の直営店や全国の百貨店等で販売している。
店舗売上のおよそ半分はギフトで、こだわり抜いた質に魅了され国外から製品を求めてやってくる旅行者も多い。
他の金属製品とはひと目で違うこの製品。国内外で支持されるSUSが考える、金属の新しいかたちとは一体なんだろう。
機能美と造形美の融合体。SUSの美しすぎる製品たち
このタンブラーの魅力は、機能面とデザイン面、2つの側面がある。まず機能面で驚くのが、その保温力だ。真空二重構造によって内容物の温度変化が起きにくい。冷たい飲み物を氷入りで注いだ場合でも、同様の理由で結露がしにくい。
取材が始まるやいなや、冷えた麦茶がなみなみと注がれたタンブラーを取材班に差し出してくださった。1時間半ほど話を伺った後でもタンブラーに結露は現れていない。
機能面とデザイン面。この2つを実現できるのは、技術の賜物だ。また、特許も取得しているため、他社ではどうやっても真似できない唯一無二の存在になっている。日本中、世界中の人々から求められるのは、他でもないSUSだからこそ持てる魅力があるからに他ならない。
さらに生産過程やこだわりなどを少しだけ覗かせもらった。
SUSのものづくりの真骨頂、スピニング
平べったい金属の板を、タンブラーの形に伸ばしていく工程。プレスである程度の形を作った後、モーターで回転させた素材に加工用のローラーを押し付けて成形するスピニングという加工法を用いてタンブラーの深さを出す。
SUSの技術がキラリと光るのは、成形、とくにスピニングの工程だ。もともとスピニングの技術力を武器に事業を拡大していた背景があるため、高い精度での加工が可能なのだという。
また、二重の真空タンブラーを生産するために必要な「溶接」もSUSの要となる技術だ。
特に溶接は熱による金属組織の変化を最小限に抑え、後工程に悪影響を及ぼさない独自の取り組みを行っている。
二重構造を実現するためには、内側と外側で別々のパーツが必要だ。スピニングしたパーツを溶接するのか、カーリングで丸めるのか。タンブラーの形状によって、成形する手法を選択している。設計者の金属と加工技術に対する正しい知識と判断力が求められる。
– 研磨
成形したタンブラーを製品として見栄えが良くなるように研磨する。金属によって研磨方法が異なることや、闇雲に力を入れて研磨するだけでは綺麗に磨き上がらないのが難しさ。
その後、真空炉と呼ばれる、炉の中で長い時間をかけて二重構造のタンブラーを真空にしていく。ここは企業秘密で一般の立ち入りはNGだ。この真空引きも自動稼働できる機械ではあるものの、一度に真空にできる数には限界がある。数々の試験を行いながら、現在の生産フローにまでたどり着いた。
– 検査
真空引きされたタンブラーが、機能的に効力を維持できるのかどうかを検査する。完成後すぐに出荷するのではなく、常温で一定期間保管することで、時間が経っても真空精度が下がらないことを確認している。こうした確認を怠らないことでブランドの価値を保っている。
ステンレスから始まった器物メーカーは、なぜチタンタンブラーを製造しているのか
スピニングは、金属の特性を正しく理解しなければ対応ができない難しい技術。とくに、創業当初はヘラ絞りと呼ばれる手作業だったため、より一層高い技術力が求められていた。
分業の街として栄えた燕の中で、スピニングに特化していったのがSUSだ。そのため、加工が難しい大きな器物の生産の相談もよくあった。
事業の方向性が変わったのは、1983年のこと。器物のみのメーカーから、同様の技術を活かして事業を拡大するべきだと考え、現在のSUSにつながる魔法瓶の製造に取り組むようになる。
私たちが現在市場でよく見かける魔法瓶は、大手のメーカーがSUSよりも先に製造を始めている製品だ。後発となるSUSは、彼ら大手と競争するため、大手メーカーらとは異なる道で独自の地位を築く必要があった。そして、その選択が新しい素材「チタン」へ挑戦することだった。
「チタンという金属の性質として、研磨工程で発生した粉が発火しないように注意しなければならなかったり、プレスやスピニングによる成形工程でもステンレスと勝手が違い、その加工条件を試行錯誤しながら探り当てなければいけません。長年の経験や探究心がないと、扱うのが難しい金属です。しかし、常に金属と向き合い続けてきた我々なら、きっと製品化までこぎつけることができると信じていたんです。金属加工の街で培われ、高い精度を求められる魔法瓶メーカーだからこそ、できることがあるはずだ、と」
そうして、試行錯誤を経て生まれたのが今回の主役「SUSgallery」の製品群なのだ。
SUSが見出す金属の新しい価値とはなにか
金属加工のスタンダードだったステンレスから、未知の金属「チタン」の加工に挑戦したSUSだからこそ抱く想い。まだまだチタンは工場にとっても一般の人にとっても未知だ。きっと誰も知らないポテンシャルを秘めている金属なのだ。
7月のリブランディングに合わせて、SUSではチタンに特化したブランド「SUSgallery」だけではなく、ステンレス魔法瓶を中心とした金属製品のメタルブランド「SEVEN SEVEN」を発表。旧社名を取り入れ、過去のイズムもそのままに推進していく方針だそうだ。
鈴木さん「ものづくりって、やっぱり楽しいんですよ。試行錯誤の連続ですし、うまくいかないことはたくさんある。辛いなと思うことだって、もちろんあるんです。それでも新しい商品が産声を上げて、世の中に届いていく瞬間の嬉しさはどんな辛いエピソードも塗り替えてくれるほど喜ばしいもの。その一瞬を目指して、私たちは夢中でものづくりと向き合っているんですよね」
SUSは、これからも金属の新しいかたちを探して奔走を続けるはずだ。未来でのスタンダードになる「かたち」は、一体どのようなものだろうか。今からその答えが楽しみで仕方がない。
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