2020.12.15 UP

時代の需要に即して変化してきた金型屋が、初めて開発に挑戦した自社製品。フジハラウインテック

2020年春、新型コロナウイルス感染症により、多くの企業が経営に苦しんだ。高品質な金属加工品を世に送り出す燕三条の企業も例外ではない。県外や海外から新規受注はほぼ停止状態。既存客も生産量が減り、発注数は減少した。

そんな逆境の中、プラスチック製のマスクの生産を始めた金属加工会社がある。これまでプラスチックを成型する金型をメインに作り続けてきた株式会社フジハラウインテック(以下、フジハラウインテック)だ。金型の需要が減少する中、プラスチック金型屋として何ができるかを考え、プラスチック製の抗菌マスク「WinFit」の開発に挑戦した。

請負の仕事から、自社製品の開発へと舵を切ったフジハラウインテック。その背景には創業当初から変わらぬ精神が刻まれていた。

 

 

 
 

メインはプラスチックの金型屋。コロナ禍で初めて自社開発のマスクをつくる

金型と聞いて、それがどんなモノかわかる人はどれくらいいるだろうか。

金型とは、金属やプラスチックの部品を製造する際に使われる型のこと。フジハラウインテックでは上下で金属をプレスして成型する「鍛造金型」と、型にプラスチックを流し入れて成型する「プラスチック射出成型用金型」の製造を行っている。

 

 

フジハラウインテックは近年、この二種をメインに、検査治具や機械加工用の治具、精密部品の製作なども行ってきた。しかし、金型製作と部品の製造はすべて元請あっての請負の仕事。自らが先導して商品を作り出した経験はなかった。そんな会社が、初めての自社製品を開発した。その理由を社長の藤原政志さんが教えてくれた。

 

 

「春先は、(新型コロナウイルスの影響で)厳しい状況に見舞われました。我々の仕事は、お客さんが生産をしないことには受注も減る。さらに、お客さんが普段の生産で金型を使う機会も減ったので、壊れた金型をメンテナンスする仕事も減りました」

仕事の全体量が減る中、テレビの報道でマスクが不足していることを知る。「国内の技術力でマスクを作れないものか」と考え、思いついたのが、エラストマーと呼ばれるプラスチックの一種を素材に用いたマスクだった。エラストマーとは、一般的にはドライバーのグリップや歯ブラシの柄等に使われており、ゴムのように弾性や伸縮性のある素材である。デザインから設計へ落とし込み、金型を製作すると、今まで金型の発注を出してくれていた成型業者へエラストマーの成型を依頼。元々は金型を発注してくれていた恩人のような会社だった。ずっとお世話になっていたからこそ、今までと逆の商流で、恩返しする機会になった。

 

 

 

 

社内でのマスク開発の鍵を握ったのは2019年に入社した息子の誠也さん。専門学校で3D CADを勉強し、前職では金型の設計を担当していた。その経験を生かし、マスクのデザインや設計、パッケージのデザインなどのディレクション業務を率先して引き受けた。

 

 

マスクができるとオンラインショップを開設し、各メディアにプレスリリースを送付。Yahooニュースに掲載されたことを契機に、全国から注文が入るようになった。

 
 

「気付いたら、間口が広がっていた」。金属加工から、金型をつくる会社へ

フジハラウインテックの創業は、昭和42年。高度経済成長で日本全体が勢いのある中、先代の藤原勝利さんが丸い板を削る旋盤加工をする鉄工所を始めた。金属加工から金型製造へと変わる転機となったのは、昭和62年にそれまでのNC加工機とは異なり、素早く精密な加工ができるマシニングセンターを初めて導入したときだった。

 

 

「精密な加工ができるようになったことで、細かな加工が必要な金型製作も声をかけてもらえるようになったんです。その流れで、他の金型屋さんから部品数が多いプラスチックの金型を手伝ってほしいと言われて。そんな時に偶然知り合った成型屋さんがうちが金型の部品を作っていることを知ると、金型の製作を丸々発注してくださいました」

直接金型を扱う人と取引をすると、「ここをこうしてくれ」と相談を受けるようになるので、できる範囲が少しずつ広がっていった。ドライバーの持ち手のように金型に金属を入れてその周りにプラスチックを射出して加工したりする、より複雑な加工を要求される場面も増えていった。

 

 

次第に細かな加工が評価され、治具や精密部品の加工なども声がかかるようになり、「気づけば、間口が広がっていたんです」と政志さんは謙虚に話す。

 

 

平成19年、政志さんが社長に就任すると、少数精鋭でありながら社員全員がどんな機械でも扱える会社を目指した。全員がすべての機械を使えるようになれば、動かすことなく眠る機械がなくなる。小さい会社だからこそ、効率よく稼働できるように工夫しながらここまできた。

 

 

 
 

自分で仕事をつくることが、自分たちの喜びにも繋がる

2020年度はフジハラウインテックにとっても苦難の年度始めとなったが、初めて自社製品の開発に挑んだことで考え方が大きく変わった。

 

 

「今まではすべてお客さんに頼る形でしたが、自社製品もできるんだと考えるようになりました。エンドユーザーの気持ちに触れる機会がなかったのですが、マスクを作ってみると、ネットの書き込みで評価を知ったりして。他の仕事でもお客さんとの打ち合わせでも提案の幅が広がった気がします。何より、楽しかったので、少しずつ広げて自分たちの楽しみになればと思っています」

 

 

誠也さんは入社後、「ものができる感動を伝えたい」とHPの改善やSNSアカウントを開設し、若者が目にする機会を増やすことにも取り組んだ。

「普段は見えない金属部品がどのように作られているか一般的には分からないと思うんです。でも、そこで機械や工程を見せることで愛着を持ってもらえるんじゃないかと。『若い人にも目を向けてほしい』その一心でした」

入社以来、自社で技術を学びながら、マスク開発やインターネットを活用した認知拡大に取り組む誠也さん。時代の需要に即して変化してきたフジハラウインテックの精神は、初代から政志さん、そして誠也さんへと確実に受け継がれていた。

金属加工の幅を広げた、これからの世代の金型屋の仕事が楽しみだ。

 

 

一問一答 

1 好きなものはなんですか?
 政志さん(社長):家族
 誠也さん:スポーツ(ゴルフ・サーフィン)、やったコトがないスポーツに挑戦したい

2 好きなコトはなんですか?
 政志さん(社長):仲間とお酒を飲んでいるとき
 誠也さん:筋トレ

3 楽しい!と感じる瞬間はどんなとき?
 政志さん(社長):ゴルフのスコアが良かったとき
 誠也さん:新しい仕事を覚えたとき

 
 

株式会社 フジハラウインテック 

〒955-0832 新潟県三条市直江町3-14-28
TEL:0256-32-5688
FAX:0256-35-6065
https://www.fujihara-wintec.com/