2021.1.15 UP

3Dプリントからスケートブレードまで。需要に即し、新技術を取り入れてきた研磨屋・徳吉工業

「新しい相談が来るときが一番ワクワクします」

有限会社徳吉工業(以下、徳吉工業)の徳吉淳社長は嬉々として話す。その言葉通り“ワクワク”を軸に、新たな技術やサービスを積極的に取り入れてきた徳吉工業。樹脂製の3Dプリントの研磨に、BOXに入れた分だけの商品を研磨する「BOXオーダー」、燕市のものづくり企業と一緒にフィギュアスケートブレードの開発を行う等、今ある技術に固執することなく、挑戦を繰り返す徳吉工業のバイタリティとは。前例のない技術に挑む心意気を聞いた。

 

 

複雑な形状でも美しく。バレル研磨を得意とする徳吉工業

通常、加工品の成型が終わると金属を磨く研磨の工程になる。見た目や触り心地を美しく変化させる研磨は製品作りにとって重要な工程だ。

研磨には主に2つの方法がある。自動回転する研磨剤に部品をあてて人力で磨く「バフ研磨」と、樽の中に小さな石のような研磨剤と部品を入れ回転させて磨く「バレル研磨」だ。

自動車部品や機械部品を主に研磨する徳吉工業は、バレル研磨を得意としている。バレル研磨の特徴は、複雑な形状の加工品も研磨もできること。バフ研磨は一方向に部品を当てて磨くが、バレル研磨はメディアと呼ばれる小さな石状の研磨剤が、様々な方向から対象物にあたることで表面を削るので、手の届かない細かい箇所まで研磨できる。

 

 

バレル研磨には、水と専用の洗剤を入れて削る湿式と、入れない乾式での方法があるが、徳吉工業はどちらの機械も備える。
工場を見渡すと、さまざまな形の機械やメディアが並ぶ。プラスチックやセラミックなどの素材、三角・丸・四角などの形状、湿式・乾式どちらにするか、どのメディアを選んで研磨するかも、知識と経験がものをいう。徳吉工業は創業以来、その経験を着実に踏んできた。

 

 

業界でも珍しい技術に挑む。ニーズに応えながら、できることを増やしていった

徳吉工業は鍋やヤカンの外側を磨くバフ研磨屋として創業。当初は比較的簡単な研磨だけだったが、次第に蓋や蓋のツマミなど小さく入り組んだ部品の研磨も依頼されるようになり、バレル研磨も始めた。平成3年に家業を注ぐことを決意し入社した徳吉さんは、自動車部品などの金属加工品を磨くバレル研磨を担当。限定的な研磨しかできないバフ研磨と異なり、複雑で細かい部品も磨けるバレル研磨に活路を見出し、数年後にはバレル研磨一本に絞った。

以来、バレル研磨だけで営んできた徳吉工業。国内でも数少ない樹脂製3Dプリント品の研磨にも成功し、全国各地から問い合わせが来るのだという。他社ができず徳吉工業に磨ける要因は何なのか。徳吉さんは次のように答えてくれた。

 

 

「新しい商品を研磨するときは、素材や大きさなどの条件を検討した上で、適切なメディアや回転数を探ります。それができるかどうかは知識と経験次第。3Dプリントもさまざまなメディアを試し、過去の経験則と合わせた結果、適切な値を見つけたんです」

そんな際、燕三条地場産業振興センターの3Dプリンター活用技術研究会が「表面のざらつきを何とかできないか」と打診。話を受けた徳吉工業はメディアの選定や回転数を研究し、今までの知識と経験をもとに3Dプリント研磨の技法を確立した。当時3Dプリントの研磨は国内唯一といわれ、バレル機のメーカーから「徳吉さん、どうやっているんですか?」と聞かれるほど珍しかった。ざらざらの3Dプリント品がつるつるとした感触になった。

 

 

そしてもう一つ、徳吉工業には珍しいバレル研磨の技術がある。切削工具の先端を滑らかにする「エッジホーニング」だ。金属の切削工程で必要なのが、削るための刃だ。しかし、刃の先端は尖りすぎているのでどうしても欠けやすくなる。それを防ぐため、徳吉工業では自然な丸みの刃先処理を行うことで長く使える切削工具を作ることができる。

技術だけではなく、受注方法にも気を配る。宅配便BOXに入れた分だけ研磨する新たな注文方法「BOXオーダー」を始めた。指定の箱に研磨してほしい商品を詰めて送ると、研磨されて手元に戻ってくる仕組みだ。金額によって仕様は異なるが、税別20,000円のプランなら素材や形状はバラバラでもいい。アルミ発色の業者がやっていた手法からヒントを得て、顧客の新規獲得を目指して始めた取り組みだった。

 

 

徳吉工業は自社での研磨だけでなく、新たな取り組みにも参画している。燕市や市内の他企業と協力して開発した「フィギュアスケートブレード」だ。

 

 

「フィギュアスケート靴に使われるブレード(刃)は従来海外の老舗メーカーが作っていたが、中には個体差が出てしまうことが課題だった。そこで、燕の金属加工技術を使って、軽量化と強度のバランスの良さを兼ね備えたブレードを作れないかと開発が始まったんです」

そんな研究会の始まりを教えてくれた徳吉さんは実は研究会の会長。氷と接触するエッジの加工と製品の販売を担当した。エッジを加工する専用の機械を購入し、新しい技術にも挑戦し、「燕ブレード」の名前でWebサイトを立ち上げ。フィギュアスケートを習う学生やフィギュアスケーターからの受注が入った。「ゆくゆくは販売も強化していければ」と意欲も見せてくれた。

 

 

「ワクワクするならまずは突き進んでみる」を大切に

創業以来、今ある技術に固執することなく、技術の幅を広げてきた徳吉工業。その理由を問うと「ワクワクするからですかね」と過去を振り返りながら答えてくれた。

「3Dプリントもフィギュアスケートブレードも、新しいことに挑戦するきっかけの多くは頼まれごとからでした。特に『他でできなかったんだけど、徳吉さんならできるかなと思って』と相談されると、ワクワクしてしまいます(笑)」

技術を広げてきた背景にあるのは徳吉さん自身の楽しむ心持ちだ。今でも徳吉さんは多くの展示会に出かけるようにしている。自分の範囲外の新しい知識に出会える可能性があるからだ。いつだってワクワクを軸に行動してきた。

仕事を楽しむ。
その姿勢を貫いているからこそ、新しい技術を広げてきた徳吉工業。これからも自分自身が心踊る挑戦を重ねていくことだろう。

 

有限会社徳吉工業

〒959-1284 新潟県燕市杣木1526番地
TEL:0256-63-7102
FAX:0256-63-7104
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