高すぎず安すぎず、確かなものづくりを。信頼を重ねてきた換気口メーカー
以前、お客さんから言われた言葉が印象的だったと語ってくれたのは、プレス絞り加工・換気口メーカー株式会社有本製作所(以下、有本製作所)の代表取締役・有本裕太さん。分かりやすい有名なブランドを持っているわけではない。だが、製造工程のボトルネックを解消し生産性を上げることで、バックオーダーをなくすなど顧客が本当に必要としていることを探し、しっかりと信頼を積み重ねてきた。顧客の要望に合わせて加工技術も変化させてきた有本製作所の創業時からの変遷を紐解き、確かなものづくりを続けてきた会社の姿勢を追う。
換気口とチタンマグカップを製造する、有本製作所
換気口と一言で言えど、長型、丸型、平型などさまざまな種類があるが、有本製作所は幅広い形状の換気口を製造している。また、メンテナンス性を向上させるため、着脱可能な上に部品の単独交換ができる換気口を開発し販売までしている。さらに、改良を重ねた丸型のパイプフードは外壁との接地面を安定させることで、施工時の密着性や作業効率が向上した。
プレス絞り加工屋として歩んできた有本製作所だが、もうひとつの側面がある。それは大手アウトドアメーカーのチタンマグカップの製造だ。軽くて丈夫で、保湿・保冷性能に優れているチタンのマグカップ。それまでチタンを扱ったことはなかったものの、アウトドアメーカーから声をかけられて、約2年がかりで製法を開発。今では、有本製作所の売り上げを構築する上で欠かせない商材となっている。
顧客の要望に応えるかたちで技術の幅を広げてきた
「祖父がタイヤチェーンを作っていたころ、ある会社の人が『うちの特許侵害しているだろ!』と怒鳴り込みに来たらしいんです。当社の溶接の仕方が、その会社の特許に触れていると。でも、特許を申請した時期を聞くと、うちがお客さんに納品した日付より後で。これっておたくの特許侵害していないですよね?というと、帰っていったみたいですけど」
そして迎えた、1997年。現在の主力商品である換気用フードの製造が始まった。当時、換気口フードが売れていたことから参入。OEMではなく、自社ブランドを立ち上げる道を選んだ。
換気口フードをつくるようになると、ステンレスの絞り加工の技術が必要となり、一枚の板から立体的な三次元の曲げができるようになった。
その後、アウトドアメーカーと直接つながる機会があり、そのメーカーがチタンのマグカップ製造を依頼している会社がキャパオーバーになりつつあり、「有本さんお願いできませんか?」と依頼されることに。しかし、チタンのマグカップ製造は難しいもの。製造方法を一から構築し、軌道に乗せるまで約2年かかった。ロットによって微細に変わる材料の硬度、加工しても形状が戻ってしまうスプリングバックの強さなどの材料特性による加工難易度の高さが開発が遅れた要因だった。
投資はある程度覚悟で、実費で金型をつくったり、チタンを仕入れたり。そのおかげで、今では社の3割以上の売り上げを占めるまでになった。
ボトルネックを解消し、信頼に応えられる会社に
「有本さんは高すぎず、安すぎずで普通の金額。でも、こういう製品を作りたいというとしっかりと返してくれる。安すぎると加工が雑だったりして怖いけど、有本さんなら安心。自分たちが何もしなくても梱包までして完成品として渡してくれますよね」
「製造工程のボトルネックを解消できる会社になりたいですね。例えば、チタンのマグカップをつくるときに傷を隠すための表面処理の酸洗を適切に行える会社がいなくて、作業が滞っていたんです。燕三条地域で考えても大手だと数社しかいなくて、仕事が集中してしまう。そこで、うちのほうで表面処理の酸洗自体をなくしてしまったんです。
ボトルネックを解消し、しっかりとお客さんの信頼に応えられる会社に。今までやってきたことを真摯に繰り返していくだけだ。今後は航空分野や医療、他のアウトドア以外の一般の人が身近に使えるチタン商品をつくりたいといった夢もある。有本製作所はきっとこれからも、お客さんの期待に応えながら自分たちの夢も追い求めていくのだろう。
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