2021.4.14 UP

高すぎず安すぎず、確かなものづくりを。信頼を重ねてきた換気口メーカー

「有本さんは高すぎず、安すぎずで普通の金額。でも、こういう製品を作りたいというとしっかりと返してくれる」
以前、お客さんから言われた言葉が印象的だったと語ってくれたのは、プレス絞り加工・換気口メーカー株式会社有本製作所(以下、有本製作所)の代表取締役・有本裕太さん。分かりやすい有名なブランドを持っているわけではない。だが、製造工程のボトルネックを解消し生産性を上げることで、バックオーダーをなくすなど顧客が本当に必要としていることを探し、しっかりと信頼を積み重ねてきた。顧客の要望に合わせて加工技術も変化させてきた有本製作所の創業時からの変遷を紐解き、確かなものづくりを続けてきた会社の姿勢を追う。

 

 
 

換気口とチタンマグカップを製造する、有本製作所

住宅やビルの外壁でよく見る「換気口」。そのプレス絞り加工・換気口のメーカーが三条市の下田地区にある。

換気口と一言で言えど、長型、丸型、平型などさまざまな種類があるが、有本製作所は幅広い形状の換気口を製造している。また、メンテナンス性を向上させるため、着脱可能な上に部品の単独交換ができる換気口を開発し販売までしている。さらに、改良を重ねた丸型のパイプフードは外壁との接地面を安定させることで、施工時の密着性や作業効率が向上した。

プレス絞り加工屋として歩んできた有本製作所だが、もうひとつの側面がある。それは大手アウトドアメーカーのチタンマグカップの製造だ。軽くて丈夫で、保湿・保冷性能に優れているチタンのマグカップ。それまでチタンを扱ったことはなかったものの、アウトドアメーカーから声をかけられて、約2年がかりで製法を開発。今では、有本製作所の売り上げを構築する上で欠かせない商材となっている。

 

 

 
 

顧客の要望に応えるかたちで技術の幅を広げてきた

有本製作所が創業したのは1952年。裕太さんの祖父母が小さな溶接工場としてスタートさせた。当時は土間のような場所に機械を置いて二人で作業し、主に農機具や降雪時につけるタイヤチェーンを扱っていたそうだ。小さい規模ながらも高い技術を持っていた。その技術を裏付けるエピソードを裕太さんが教えてくれた。

「祖父がタイヤチェーンを作っていたころ、ある会社の人が『うちの特許侵害しているだろ!』と怒鳴り込みに来たらしいんです。当社の溶接の仕方が、その会社の特許に触れていると。でも、特許を申請した時期を聞くと、うちがお客さんに納品した日付より後で。これっておたくの特許侵害していないですよね?というと、帰っていったみたいですけど」

 

 

溶接方法を色々と試し、当時としては先進的な溶接工場だったそうだ。その後、1970年頃にはステンレス製の滑車、1975年には自動車関連の部品製造、1980年には家庭用雑貨を製造。お客さんからの注文で網状の商品を作るようになると、大手ペット会社から網の技術を使ってペット用のゲージを作らないかと依頼が来た。そうやって、その時々で必要な仕事にしっかりと応えることで、少しずつ技術の幅を広げてきた。

そして迎えた、1997年。現在の主力商品である換気用フードの製造が始まった。当時、換気口フードが売れていたことから参入。OEMではなく、自社ブランドを立ち上げる道を選んだ。

 

 

「商社から、こういう商品を作ってくれと言われても、金型代などの初期投資を出したがらないこともある。それなら、自分で作ったものを商社さんに売ったほうが早いかなと。リスクはあるけど、その分リターンがあることはわかっていたので、自社ブランドで始めました」

換気口フードをつくるようになると、ステンレスの絞り加工の技術が必要となり、一枚の板から立体的な三次元の曲げができるようになった。

 

 

2016年からはチタンのマグカップ製造を始めた。アウトドアは、10年に一度ブームの波が訪れるといわれる。前のタイミングでは燕三条内でも多くの企業がこぞってチタンのマグカップを作っていた。当時、有本製作所もチタンのマグカップを作っていたが、マグ本体のプレス加工による成型は外注していた。

その後、アウトドアメーカーと直接つながる機会があり、そのメーカーがチタンのマグカップ製造を依頼している会社がキャパオーバーになりつつあり、「有本さんお願いできませんか?」と依頼されることに。しかし、チタンのマグカップ製造は難しいもの。製造方法を一から構築し、軌道に乗せるまで約2年かかった。ロットによって微細に変わる材料の硬度、加工しても形状が戻ってしまうスプリングバックの強さなどの材料特性による加工難易度の高さが開発が遅れた要因だった。

 

 

材料で仕入れても、配合や厚さなどが微妙に異なります。例えば、0.5mmのステンレスを仕入れても、0.493mmだったりして厚さは一定ではありません。そうすると伸び方も変わってきます。今まで鉄やステンレス、アルミなどさまざまな材質の絞りやプレスの経験やノウハウがあったからこそ、適切な値を導くことができました。また、チタンの性質も曲者で。特に苦労したのが、マグカップの持ち手部分。手にフィットしやすいように曲げてもすぐに戻ってしまい、形状を記憶させることに手を焼きました。何度も金型を手直ししてもらいましたし、もう一度やるって言ったら、金型屋さんはもう嫌だって言うと思いますよ(笑)」

投資はある程度覚悟で、実費で金型をつくったり、チタンを仕入れたり。そのおかげで、今では社の3割以上の売り上げを占めるまでになった。

 

 

 
 

ボトルネックを解消し、信頼に応えられる会社に

お客さんの要望に応えるかたちで技術の幅を広げてきた有本製作所。振り返ると、以前、お客さんから言われた言葉が心に残っているという。

「有本さんは高すぎず、安すぎずで普通の金額。でも、こういう製品を作りたいというとしっかりと返してくれる。安すぎると加工が雑だったりして怖いけど、有本さんなら安心。自分たちが何もしなくても梱包までして完成品として渡してくれますよね」

 

 

こう言われ、こんな風にお客さんが受け取ってくれる会社を目指していきたいと考えるようになった。そのためには何をすればいいか考えると、答えは過去の経験にあった。

「製造工程のボトルネックを解消できる会社になりたいですね。例えば、チタンのマグカップをつくるときに傷を隠すための表面処理の酸洗を適切に行える会社がいなくて、作業が滞っていたんです。燕三条地域で考えても大手だと数社しかいなくて、仕事が集中してしまう。そこで、うちのほうで表面処理の酸洗自体をなくしてしまったんです。

 

 

そうしたら、ボトルネックも解消され、受注数を納品できるようになった。バックオーダーを抱えなくて良いことになったので、メーカーさんに『有本さんのおかげで実際に1年間でどれくらい売られているのかがわかった』と言われて。入荷待ちをするならいらないという人もいたので、売り上げ増にもつながったはずです」

ボトルネックを解消し、しっかりとお客さんの信頼に応えられる会社に。今までやってきたことを真摯に繰り返していくだけだ。今後は航空分野や医療、他のアウトドア以外の一般の人が身近に使えるチタン商品をつくりたいといった夢もある。有本製作所はきっとこれからも、お客さんの期待に応えながら自分たちの夢も追い求めていくのだろう。

株式会社有本製作所

〒955-0151 新潟県三条市荻堀1397-74(藤平工業団地)  
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