2021.6.15 UP

覚悟と企業努力で生き残りをかけてきた。若き経営者の挑戦

製造業に設備投資はつきもの。機械がなければそもそも加工はできず、まずは先立つ物として機械が必要な業界だ。

とはいえ、機械は安いものではない。数百万円、数千万円する機械も多いため、多額の投資も必要となる。
「コストをかけてでも、お客様のためになるなら」と800トンもの大型プレス機や1億円以上するファイバーレーザー機を導入し、他社と差別化を図りながら活路を見出してきた企業がある。特殊深絞りを得意とする燕市の協立工業株式会社(以下、協立工業)だ。

「協立工業に関わってくれた人が幸せになるには」を基準に経営判断を行ってきた若き経営者である、代表取締役の森下一さんにお話を伺った。

 

 
 

プレス屋が多い燕三条で、他社と異なる路線を貫く協立工業

金型に圧力をかけることで金属を成形するプレス加工。燕三条には、中小規模のプレス屋が多く、主に30〜200トンのプレス機を扱うのが一般的だが、協立工業のプレス機は最大800トン。

さらに協立工業は、深絞りのプレスを得意としている。800トンクラスの大型プレスを持っていれば、トラックのマフラーや燃料タンクに関連する部品加工、ステンレスシンクなどの業務用厨房品などの深さが必要な絞りも可能となる。鉄道車両のドアのようなサイズの深絞りができるプレス屋の数は圧倒的に少ない。

 

 

ただ、一括りに深絞りと呼ばれるものも、深さや大きさはまちまちで、明確な定義はないらしい。

「金属でできた灰皿を深絞りという人もいます。でも、人によってはあれは浅いでしょという人もいる。私も明確な定義は分からないんですよね」

業界で共通の認識はないが、会社ごとに独自の解釈があって、それぞれが仕事として成り立っているようだ。

 

 

そして、協立工業の強みは、深絞りだけではない。金型製作の内製化によるプレスまでの一貫加工や、ファイバーレーザーを使った複雑形状の加工にも対応できる。

なぜプレス屋でありながら他社の金型製造も請け負えるのか、1億円以上もするファイバーレーザー導入に踏み切れた理由とは。その歴史を振り返ると、先代と現社長の大きな決断が隠されていた。

 

 

 
 

小さなプレス屋から他社とバッティングしない分野に移行

昭和37年、森下さんの祖父が納屋のような建物でプレス機を1,2台購入して始めた協立工業。当時は地場産業に関連する製品の部品など、依頼された製品を細々と作っていた。

そんな小さなプレス屋だった協立工業の転機となったのが、先代のころ。30〜200トンのプレス機から、800トンクラスのプレス機を入れるなど、大型機械に設備投資を仕掛けていくのに伴って、販路が地場から全国に移行していったそうだ。

「30〜200トンの小型プレスというのは、全国どこにでもあるんですよね。まして燕三条は小さなプレス屋がひしめき合っている地域。同じような会社がたくさんある中で、地元の業者とバッティングしない設備を導入したと、父から聞きました」

 

 

大型プレスを導入し、他社と差別化を図った協立工業。
平成29年12月に後継者不在の星野金型を買収したことで、「金型屋を持つプレス屋」といった強みも持つようになった。

プレス屋が金型工場を経営するケースは稀だ。自社の金型を修理している工場はあっても、他社の金型をつくっている企業は少ない。それは技術が他社に流出してしまうリスクに加え、受注の波が大きい金型メーカーの経営が難しいことも関係している。そんな危険を理解した上で、協立工業は金型を内製化し、受注を開始したのだ。

 

 

「金型はプレスのメインの技術。金型がないとプレス屋は仕事ができません。しかも、800トンクラスの深絞りができる金型屋は、燕三条内でも10社あるかどうか。技術の高い金型屋は、見積書が出るまで順番待ちになることもあるんですよ。それなら自社内で金型から製作することができれば、と考えました。

普通はプレス屋が金型工場を取り込むことを敬遠するのでしょうけど、必要とされるのであれば何でもやりたいなと思って。技術が流出してしまうとかはあまり考えていないんです。それは、自社の技術を絶対流出させないというのは無理だと思っているからですね。もっと広く自分たちや技術のことを知ってもらうことを意識しないと、ビジネスとしてどんどん小さくなってしまうので」

 

 

金型を内製化したことで設計から一貫した金型製造ができるようになった。他社に金型から一貫して加工までお願いされるケースもあれば、金型だけ製造、この金型で加工してほしいといった依頼まである。

森下さんは会社を背負う者としてあくまで当たり前の判断をしたまで。中小企業のプレス工場がひしめく燕三条で、協立工業の持つ広い視野は少し異なる方向を見ている。

 

 

それを証明するものとして、森下さんに代替わりしてから導入したファイバーレーザーも挙げられる。ファイバーレーザーとは、プレスなどで成形する前の材料をさまざまな形にきれいに切り出す機械。ファイバーレーザーを使えば、中小規模のプレス機ではできない最大30mm厚のステンレス板の切断も、ミクロン単位の精密なプレス加工も可能となる。

しかし、ファイバーレーザーは加工機のサイズや金額がケタ違い。300坪の敷地に置けるのは2台だけ、価格は1台1億円以上もする。なぜ、これほどの苦労をしてでも導入に踏み切れたのだろうか。それは収益性の向上を見越しての若き社長の判断だった。

 

 

「最初レーザーを知ったときは、プレスより速いことはないと思っていました。しかも、レーザーはガスで切るので、ランニングコストも心配。1台1億も2億もする機械を償却できる自信もなく、二の足を踏んでいたんです。でも、メーカーでテスト加工を行ったとき『え、今穴開いたの?』という速度で穴を開けていく。「プレスだと人が機械に材料を入れて加工し、取り出す間に終わるくらいの速さでした」

ファイバーレーザーの衝撃的な速さを目の前にした森下さん。メリットは速さだけではなかった。

 

 

金型はお客さんの資産。プレス屋はお客さんから金型をお預かりして加工をするため、膨大な数の金型を保管する必要がある。協立工業の場合、常時2000〜2500型くらいを保管しているため、金型や在庫保管の倉庫約1000坪を本社とは別に持っているそうだ。「レーザーを導入すれば、データで色んな形に切り出せるので、金型が必要なくなる」と森下さんは考えた。また、年々加工するロット数が減っている中で金型の脱着に要する時間が長くかかる課題もあり、ファイバーレーザーの導入に踏み切った。

「こんなに高い機械を導入したので、たまに『大丈夫か?』と言われることもありますよ(笑) でも、我々が踏み切れたのは、完成品メーカー様と近いところで仕事ができているからじゃないでしょうか。完成品メーカー様に近ければ、単価など有利な条件で仕事ができる。大型の製品の加工は単価が高いので、それも影響しているのかもしれませんね」

 

 

 
 

父から託された会社をしっかりと守っていくために

20歳で父親を亡くし、当時から経営に関わっていたが、代表権を持ってから約5年。にも関わらず、経営の仕方や哲学に軸がある。一体どこでそれを身に付けたのだろうか。

 

 

「経営者としては本当にまだまだですが、父の言葉はずっと大切にしています。もう14年以上前になりますが、生前、父に何を目標に生きているかを聞いたことがあったんです。そしたら、『俺は関わってくれた人みんなが幸せになる会社になってくれればいい』と言っていて。私が引き継いだ頃は経営理念を文言にしていない状態でしたので、この言葉を思い出して、今の理念『全社員の幸福を追求するとともに、人類、社会の発展に貢献する』を作りました」

 

 

関わってくれる人の最たるものは、働いているスタッフ。彼らが幸せになるために、会社としてできることは業績をあげて給与や働きやすい環境の提供というかたちでお返しすること。今はコロナ禍で全体の受注が落ち込んでいるため行っていませんが、以前は2交代制のシフトで工場を稼働していました。いずれは24時間の稼働を目標にしています。24時間稼働にすればフレックスのように働きたいときに働いて、休みたいときに休む体制も作りやすくなる。

 

 

「やっぱり、父から託された会社という意識が強いんですよね。今は安全センサーの精度も上がり、両手で機械スイッチを押さないと動かないようになっているので事故は起きませんが、昔は指を潰してしまうような危ない業界でした。それでも、続けてきた先輩たちがいるからこそ今がある。先人の意志をきちんと汲んで、会社を伸ばしていくことが役目だと思っています」

転機となったのは、大きな投資。それには経営者として想像できないほどの覚悟がいる。そんな協立工業の変遷を伺い、背筋が伸びた時間だった。

協立工業株式会社

〒959-1286 新潟県燕市大字小関1550番地
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