2021.7.15 UP

シャーリングから梱包まで。一貫して請け負える体制づくり

金属加工を営む会社が集まる燕三条。自動車部品やキッチン用品、アウトドア用品までありとあらゆる製品がつくられているが、どんな製品でも材料を切ると言う工程が必要だ。

今回お邪魔したのは、“鋼材を切る”事に特化してきた熊倉シャーリング有限会社(以下、熊倉シャーリング)。多くの製品のもととなる鉄鋼の素材(鋼材)を仕入れ、扱いやすい大きさに切断し、加工工場に渡すシャーリングと言う仕事を長年この地で営んできた。

しかし、取引先の各工場も機械化や内製化が進み、シャーリングだけでは経営が難しくなりつつある。そこで次に目をつけたのが、材料仕入れから製品完成までの一貫生産。シャーリングから製品化までをまるっと請け負える企業への変貌。熊倉シャーリングの挑戦は始まった。

 

 

 
 

シャーリング企業としての誇りを胸に。引き継いでも変えなかった社名

板金を適切なサイズに切断するシャーリング。鋼材を卸す材料屋で必要な大きさに切断されるとはいえ、小さな工場にとっては大きすぎることが多い。そこで、さらに扱いやすいように適切なサイズに切断するのが、シャーリング業者の仕事だ。金属加工の一大産地といわれる燕三条とは、切っても切り離せない。

 

 

そのようなシャーリングと言われる仕事を主な事業とする熊倉シャーリングは、昭和45年の創業以来、燕三条における金属加工産業の基盤を支えてきた会社のひとつだ。

現在はシャーリングだけではなく一部、最終製品まで一貫した製造を請け負う。それでも、事業がシャーリングから始まった事実は今でも大事にしている。社長職が熊倉正さん(現会長)から正人さんに代替わりしても、会社名を変えずに「シャーリング」の言葉を残した。

 

 

 
 

切るだけじゃない。熊倉シャーリングのものづくり

熊倉シャーリングには、農機具や建材、電子機器など、さまざまな製品の原材料となる鋼材が入ってくる。燕三条には、多種多様な金属加工メーカーがいるため、ただ板金を切断するだけと言っても、どんな用途に使われる鋼材かによって加工方法は異なる。

「例えば、農機具なら塗装するから表面処理加工はせず、建設関係なら外で使うから表面に亜鉛加工を施し、耐食性が良いようにします。その鋼材が最終的にどんな用途で使われるかによって、加工のやり方も変えるようにしているんです」

取引先が扱いやすいように加工方法を逐一変えているが、熊倉シャーリングは切ることだけが仕事ではない。切ってプレスをして組み立て、最終製品を作ることもできる。それを可能にしたのが、タレットパンチプレス機だ。

 

 

タレットパンチプレス機とは、丸や四角などさまざまな金型を使って板材を打ち抜く加工機のこと。通常何百万円もかける金型は必要なく、金型を組み合わせることで複雑な形状の加工を可能としている。

 

 

それでも、加工できない、より複雑な加工や小ロット多品種の場合はレーザー加工機を用いる。だが、タレットパンチプレス機やレーザー加工機は、他の金属加工屋にもある。熊倉シャーリングで加工をする意味はあるのだろうか。

「通常、金属を加工すると端材が残りますが、シャーリング屋である当社の場合、必要な分だけカットしているので、無駄な端材が出ない。そこに違いが出てくるんです」と正人さん。

確かに、必要なサイズだけカットできる知見と経験を持つことはシャーリング屋の強みだ。では、なぜ最終製品製造まで請け負えるほど幅広い加工ができるようになったのだろうか。

 

 

 
 

シャーリング屋から、完成品まで請け負える会社へ

昭和45年、鋼材の切断を生業として正人さんの祖父が会社を興した。大きな農機具メーカーが近くにあったことから、農機具の部品加工で必要な鋼材を切断するように。その農機具メーカーは全国に販路を拡大していき、熊倉シャーリングが隣接する燕市小池地区は農機具の一大産地となっていった。

それでも、農機具だけの鋼材加工で生きていくのは難しく、農機具から建設関係へ、電子機器関係へとより精密な機械をつくる企業へ鋼材を卸すようになった。金属加工の工場が多い燕三条地域で材料屋から鋼材を仕入れ、切断する企業は必要とされていたのだ。

「でも、加工業者のライン化が進んで、シャーリング屋の需要が減少してきてしまって。お客さんの立場で考えると、シャーリングから最終製品までまるっと頼めたほうがいいだろうと、他の加工技術にまで手を伸ばすようになったんです」

 

 

当時、熊倉シャーリングにはシャーリング以外の知識はほとんどない状態。現会長の正さんは知人の会社に技術を習いに出向き、仕事をやりながら覚えていこうと半年後には機械を導入。教えてもらったり、本を読んだりしながら、知識と経験をつけていった。

また、熊倉シャーリングは自社製品も開発。
肥料を素早く、均等に撒ける「肥料散布機 けん太君」だ。20kgの肥料を入れて、粉状や粒状など好みの状態や量を選択し、一輪車を押すように畑の上を走らせることで、肥料を散布できる。

開発のきっかけは正さん自身が畑に石灰をまくときに欲しいと感じたことで、以前機械メーカーにいた知人とともに開発した。

 
 

地域の経営者仲間と一緒に、燕三条の未来を描く

シャーリングだけでなく、加工の幅を広げ、最終製品まで一貫生産できるようになった熊倉シャーリング。しかし、自社や近しい加工技術だけを見ていると、どうしても視野が狭まってしまう。

そこで、正人さんはプレス屋や研磨屋、商社、印刷会社などの燕三条の若手経営者と一緒に「EkiLab帯織」を立ち上げた。

 

 

EkiLab帯織は企業間の関係性が希薄だった燕三条で新たな繋がりを生み出す役割を果たす。実際、さまざまな加工技術の企業が集まり、新製品開発にも繋がっている。中間加工業が多い燕三条で、共同で自社製品の開発に踏み切ることで、景気を自分たちでつくっていくなどの気概を持つ。

 

 

それだけではない。JR帯織駅に隣接した誰でも立ち寄れるスペースのあるEkiLab帯織は、ものづくりを体感できる場にもなっている。ものづくりの楽しさを伝える場でもあり、ものづくりの相談にのれる場でもある。シャーリングから最終製品の製造まで至った熊倉シャーリングの歴史ように、ひとつの板から立体が出来上がる楽しさ、目に見えて変わる面白さを子ども達に伝えられる場にしていきたいと考えているそうだ。

子どもだけでなく、大人も同じ。中心人物のひとりとして関わる正人さんは「工場と関わりがない人にとって、ものづくりは距離があるもの。それでも、一般の方が製品をつくりたいと言ったときにEkiLab帯織に頼めるように。そんなものづくりが身近になる場をつくっていきたい」とこれからの燕三条の可能性に目を輝かせていた。

 

 

熊倉シャーリング有限会社

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