メーカーの直販が増える今だからこそ、問屋の価値を追い求める。
そんな調理機器の一大産地が、新潟県燕三条。ここには、ナイフやフォークなどのカトラリーから、鍋やフライパン、食器類など、多くの調理機器を扱うメーカーや問屋が集まっている。
近年は自社製品を作り出し、自ら販路を開拓するメーカーも多い。そんな中、調理機器の「問屋」である江部松商事は何を思うのか。キッチンツールを扱うことになった経緯から、問屋としての価値、コロナ禍以降の外食産業の動きについて江部松商事株式会社の代表取締役江部正浩さんにうかがった。
調理機器を揃えるなら江部松商事。分厚いカタログが物語る品揃えの厚さ
飲食店で必要な大型設備以外の道具は、ナイフやフォーク、鍋やフライパン、食器類など全て揃っており、全国各地に販売パートナー、その先には飲食店やエンドユーザーがいる。そのため、ほとんどの飲食関係者が存在を知っている問屋だ。
数多くのアイテムや開店時のリストを保有し、分厚い商品カタログは2500ページをも超える。江部松商事は、なぜここまでの規模の企業になったのだろうか。
外食産業の盛り上がりと共に力をつけてきた
「先代の頃は、ステンレスの調理道具を持って客先の飲食店を回っていると、『こんな商品できますか?』と相談を受けることが多かったみたいですよ。その要望をメーカーに相談して作ってもらう。そんなふうに外食産業が盛り上がるときに飲食店とメーカーと一緒にやってきたそうです」
燕三条にはキッチンツールを製造するメーカーが多い。だからこそ、こうした相談もできるし、今日注文を受けたものを即日出荷することだってできる。燕三条全体が倉庫みたいなものだ。
「自分がやっている仕事とレストランの光景がうまく繋がらなくて、嫌になってしまったんですよね。当時は毎日倉庫で鍋やおたまを箱詰めしたり、出荷したりして、淡々と作業する仕事ばかり。本当に人の役にたっているのか不安に思うようになっちゃって。だからこそ、自分が社長になってからは社員に『私たちの仕事は、美味しい!をつくる外食産業をサポートする仕事なんだ』と伝えるようにしています」
自社の倉庫とレストランが繋がっていることを実感してもらうため、社員を燕三条の食材やカトラリーを使用しているレストラン「燕三条イタリアンBit」に連れて行くこともあるのだそう。「自分の仕事とレストランの光景が繋がらない」と悩んだ社長自身の経験から編み出された方法が、社員のモチベーション維持にも繋がっているようだ。
直販が増える時代だからこそ。問屋としての役割とは
「私たちのもとには情報が集まります。例えば、最近はどのような道具が求められているか、卵焼き器なら熱伝導の良い銅を扱ったほうがいいなど、問屋にはユーザー側からもメーカー側からも情報が集まってくるんです。こうした世の中に洪水のように溢れかえる情報を整理してメーカーとユーザーに還元すること。それが、これから求められる問屋としての価値だと思っています」
「倉庫に来たほうが、直接商品をご覧いただけますし、サイズ違いなどのバリエーションも豊富。だからこそ、ここ数年は直接倉庫を訪れてくれる方が多くなりました。こうした時間は私たちにとってもユーザーの声を聞ける貴重な機会。例えば、ラーメンのタレをすくうときにおたまに8割まで入れるか、満杯入れるかで、おたまの作り方が変わってくる。そのお客さんはどちらが使いやすいのかを聞き、製造会社に提案して作ってもらったこともあります」
要望があったときに媒介となって、ユーザーと製造会社を行き来し、より使いやすい商品を提供するため、ユーザーに合わせた商品を提案。他の飲食店にもきっと価値があると製品化した商品もある。ユーザーにとっては使いやすい道具が、製造会社にとっては商機を掴む糸口にもなる。その間を取り持つことが問屋の役割だ。
「江部松の名は、飲食関係者からの認知は高くとも、一歩業界を出るとほとんど知られていません。今後、業界以外の販路を確保する上でも、手幅を広げておきたいと考えています」
というのも、2020年の新型コロナウイルス感染症拡大以降、外食産業は売上が2割落ちるといった話もある。例え感染症が落ち着いたとしても、将来的には日本の人口は減少し外食産業は縮小していく。外食産業の売り上げ見込みが厳しくなっている中で本格的な調理器具を使って料理をしたい一般人にもっとPRするのも、ひとつの手段なのかもしれない。
「外食産業の需要は減少しても、なくなることはありません。この前、販売パートナーさんからレストラン経営者でもホームセンターやインターネットで買う人もいるといった話を聞きました。そう考えると、まだマーケットはあるんだろなと。ただ鍋を売るのではなく、お店の利益に繋がる鍋の使い方を提案することが私たちの介在する価値。そこに価値を感じてもらえるように提案型の問屋として前向きに取り組んでいきたいです」
私たちの思い出に華を添えてくれるのが、外食産業であり、それを支えるのが江部松商事なのだ。
「外食が好きなので、いつかお店のオーナーになりたいんですよね。実験的な意味も込めて、自分のお店ではこう使ってますといったお店があってもいいのかなって」
先代の頃から会社経営で忙しかった江部家。平日は家族全員揃って夕食をともにすることは少なかったが、日曜日になると外食に連れて行ってくれたそうだ。
飲食店での楽しかった記憶が原体験となっている江部さんなら、それを原動力として飲食店を経営する問屋を実現してしまいそうだ。
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