技術を次世代へ。地場企業から信頼される研磨屋が育成へ乗り出す
なかでも技術力において一目置かれるのが、高橋研磨工業所(以下、高橋研磨)だ。その理由は、ただ磨くだけでなく、磨きながら形状をつくり、製品ごとに異なる厳密な重量制限にも対応できるから。
例えば、ゴルフクラブはカーブと重量が正確でないとその役目を果たせない。そのため、形状や重量の規格が厳しく、クラブの研磨を経験したことのない職人が手掛けても求められるクオリティを出すことは難しいといわれている。
それでは、なぜ高橋研磨はそれほど技術力が優れているのだろうか。
今回はその技術力と所以に迫る。
磨くことで形状を生み出し、重量制限にも対応する、高橋研磨
高橋研磨は、その技術力において、周りの企業や工場からも絶大の信頼を得ている。その強みは、磨くことで形状を作り、厳しく制限される工程に対応できる点にある。
また、鋳造はある程度肉厚にしないと強度が保たれないので鍛造に比べ重量は重くなる。こうした加工方法を意識した上で、鋳造なら鋳造の重量制限内、鍛造なら鍛造の制限内の重量に落とし込んでいくのだ。
きれいに磨き上げることができる研磨屋は、この燕三条にはたくさんいる。ところが、磨きながら形状をつくり、さらに重量も範囲内に収める研磨屋となると、一気に少なくなる。
高橋研磨は、形状や重量はもちろん、手触りさえも一度に叶えてしまうのだ。
周りの企業や工場から絶大な信頼を得る、高橋研磨。
技術力の根源を紐解くと、それは日本がバブルに沸いたゴルフ全盛期の時代に培ったものだった。
技術の底上げをしてくれた、ゴルフクラブの研磨
しかし、いかにゴルフクラブの原価を安くするかと、メーカーが海外でクラブをつくるようになってから、結果的に国内の研磨の仕事はどんどんなくなっていった。新潟県内でも、多くの企業が携わっていたので、各社焦りが見えた。そうは言っても、自分の食い扶持は稼がなければならない。形状や素材、どんな研磨でも請けるようになった。
「俺がどっかの会社に営業に行くとさ、今までどんな研磨やってたんだ?って聞かれるんだよね。それで、ゴルフクラブの研磨やってたっていうと、じゃあ、なんでもできるだろと仕事をくれて。二つ返事でしたね」
「燕三条地域でマグネシウム製品をつくろうという話になってさ。いろんな加工屋が15社くらい集まったんだけど、研磨屋がいなくて。俺はマグネシウムなんて危ないし、難しいしで嫌だったんだけど、みんなに言われて仕方なくやることになったんだ」
マグネシウムは、空気中の水蒸気と結合して発火しやすい。そのため、マグネシウムの研磨は無理だと言われていたが、高橋さんは水素の量を調整することで発火を防ぐ方法を見つけた。その時点での注文数は、1万個超え。慎重に慎重に研磨を続け、なんと一人で全ての製品を納品した。
燕三条地域の企業からの仕事を請け負い、燕三条地域の企業とともにプロジェクトを進めていると、職業訓練校から「磨きを指導してくれないか」と相談を受けた。自分にできることならと依頼を快諾。ただ教えるのでは面白くないと、錆びにくいステンレスSUS304を使ってペン立てを制作することにした。三条市・燕市および周辺地域の工場を一斉に開放する『燕三条 工場の祭典』でも磨き体験とセットでお土産にして配布をするようになった。
ものづくりの価値観を変えるために、これからの燕三条ができること
「男性なんですけど、独り立ちできるように教えてくれとのことで。そんなことをしていたら、別の会社がうちの社員にも教えてくれと言ってきまして。もう74歳なので、教えられることは教えたいと思ってます」
研磨職人は担い手が少ない。燕三条でも以前から課題となっている問題だ。この課題に高橋さんは、今の職人自体に問題があるという。
「うちは綺麗なんですけど、研磨の工場に行くとね、研磨クズがあったりして汚い。あとは研磨職人って、あまり技術のすべてを教えたがらない人が多いんです。だから、若手が入らないし、育たない。そんな業界になっています」
「黙ってても黙ってらんない性格でさ。慣れるまでに1〜2年はかかるけど、基本は教えてあげたいなって」
職人に教えない、育てないなら楽だ。でも、それでは研磨業界自体が先細りしてしまう。だからこそ、高橋さんは教えられるうちに技術を残そう。そう考えながら、他社の社員にも教えているのかもしれない。
この燕三条はいわば、ものづくりの集積地。ここで新しい物がどんどん生まれてきている。そんな燕三条に高橋さんは苦言を呈す。
「どこかが成功すると、他も真似しろ真似しろってどんどん似たような製品ができあがっている。それがさ、俺はちと違うんじゃないかって。そんな若い人たちのものづくりに対する価値観を変えなきゃいけないと思うんですよね。自分たちでチャレンジして付加価値のあるものをつくっていかなきゃじゃないかなと」
すでに世の中には多くの商品がある。
そこにどう新しい価値をつけるべきか、どのように考えていけばいいのだろうか。