2022.8.16 UP

滑らかで美しく、狂いの少ない木材加工。同業からも一目置かれる高い品質 有限会社倉茂木工所

「倉茂さんのところには敵わない」

同業の木工会社がそう口を揃える企業が、新潟県三条市にある。椅子やテーブル、ソファなどの脚物*と言われる家具、その「脚」パーツ製造を主力とする有限会社倉茂木工所(以下、倉茂木工所)だ。

*脚物…家具の分類で、椅子やテーブルのように脚が付いたもののこと。「脚物(あしもの)」に対し、箪笥のような脚のない箱型のものは「箱物(はこもの)」と呼ばれる。

滑らかな肌触りや美しい塗装、長く使っても狂いの少ない加工。どれも品質が高く、同業からも一目置かれる存在だ。納期管理も徹底しており、取引先からの信頼も厚い。

しかし、以前はスケジュール管理ができておらず納期は遅れ、取引先からのクレームの電話が鳴ることも日常茶飯事だった。現社長である倉茂大輔さんが工程表を作り、社員一人ひとりにスケジュール管理の重要性を説いた。

社員数9名、熟練の職人が多い町工場で社員の意識をどのように変えていったのか。同業からも一目置かれる品質の高さはどこから来ているのか。その理由を探るべく、倉茂木工所を訪ねた。

 
 

価格競争からの逸脱。鍛冶関連製品から、脚物家具の道へ

鍛冶のまちとして知られる三条市には、かつて鍬(くわ)や鎌などの農工具をつくる町工場が数多く存在した。そんな農工具に欠かせないパーツが、木製の柄。倉茂木工所は、農工具の柄を製造するところから始まった。

 

インタビューに応じてくれた、代表取締役社長の倉茂大輔さん

 

「倉茂木工所は私の祖父が昭和13年に立ち上げた会社です。祖父は創業以前、金物問屋の番頭として仕入れを担当していたのですが、子どもが生まれるタイミングで『家族で過ごせる時間を増やしたい』と創業の道を選んだと聞いています」

番頭から職人へと舵を切った先々代。職人としての経験はなかったが、工場で1〜2年働き、機械1台と鑿1本で会社を興した。

 

農工具の柄は、旋盤加工機で角材を丸い棒状へと削り出す

 

創業してしばらくは、鍬や鎌などの農工具の柄を中心に製造。しかし、燕三条には木工業者が多いため、価格競争で負けてしまうことも多かった。そんなときに目をつけたのが、三条市の隣・加茂市で生産が盛んだったタンスやキャビネットなどの箱物家具だった。

「当時は洋物家具がよく売れている時代で、加茂市も例外ではありませんでした。ですが、箱物家具には丸棒をつくる必要はないため、旋盤加工機は持っていなかった。反面、うちはずっと農工具の柄をつくっていたので、棒状の木工製品をつくることが得意。その技術を椅子やテーブル、ソファなどの脚物家具に活かせるのではないかと考えたんです」

付き合いのある材木屋などから脚物を必要とするメーカーを紹介してもらい、販路を開拓。当時は新興住宅ブームに伴って家具の売上も伸びている頃で、メーカーからも「どんどん作ってくれ」と促される時代だった。倉茂木工所は時代に後押しされ、旋盤を必要とする脚物家具に注力していったのだ。

 
 

納期管理を改善し、顧客からの信頼に繋げる

 

 

倉茂さんが家業に入ったのは、23歳のころ。倉茂家の五男だったこともあり、小さい頃は会社を継ぐことは考えていなかった。高校卒業後はバイク好きが高じてバイクと自転車のショップへ就職。レースに出場する選手としても活躍していた。しかし、土日はレースやイベントがあるため、練習時間が足りない。そこで、平日の昼間にも練習ができることから、当時まだ後継ぎの決まっていなかった家業に入ることを決めた。

「母が毎日夜8時まで仕事をしているような忙しい時期で、人手が足りないから手伝ってくれないかと誘われたんです。当時、私もバイクの練習時間を確保したかったタイミングでした。夜や土日に働くことで、仕事もバイクも両方できるんじゃないかと思い入社を決めました」

工場での勤務は初めての経験。だが、子どもの頃から自動加工機の操作を手伝ったり、出来上がったものをコンテナに集めたりと工場にはよく出入りしていたため、抵抗はなかった。

 

 

経験を積みながら徐々に仕事を覚えていき、経営面での仕事も担当し始めると、非効率な会社の仕組みに目が向くようになった。その一つが、スケジュール管理の杜撰さ。作業担当を口頭で指示していて、作業工程表もない。それでは納期は遅れるのが当たり前で、取引先からクレームの電話が来るのも珍しくなかったという。

 

 

「私が電話対応するようになって取引先とのやり取りをしていると、『FAXを送ったのに納期通りに上がってこない』とお叱りの電話が来たんです。それまでこんな電話が来ていることすら知らなかったので驚きました。きっと納期に遅れそうになる度に父が遅くまで仕事をして何とかしていたんでしょうね。それでも対応しきれなかった発注分の電話だったと思います」

納期通りに納品するにはどうすればいいかを考え、作業工程表を作成し、誰でも見える場所に掲示。いつどんな仕事が来るかを掲示板に書いて、毎日確認してもらうことを徹底した。しかし、職人は倉茂さんよりも年上の熟練工ばかりで、当初は受け入れてもらえなかった。だが倉茂さんは諦めず、5〜6年も声をかけ続けることで少しずつ納期に改善が見られるようになっていった。

 

 

納期通りに仕事を納められるようになると、取引先からの信頼も回復していった。そこで、取引先に「お客さんを紹介してくれませんか」と聞くと、「じゃあ、ここに電話してみたら?」と具体的な企業名をあげてくれるようになった。長い時間をかけた信頼の積み重ねが「倉茂木工所は納期をしっかり守ってくれる」という、いまの評判につながっていったのだ。

 
 

高品質を保つ、倉茂木工所のものづくり

倉茂木工所は、納期だけではなく技術力でも高い信頼を得ている。その滑らかな肌触りや美しい塗装、狂いの少ない品質の高さはどこから来ているのだろう。その答えは工場にあった。

 

 

倉茂木工所の木材置き場には、ブナやウォールナット、ホワイトアッシュなどの広葉樹を中心にサイズ違いの木材が数えきれないほど並ぶ。急な依頼にもすぐに対応できるように、1万種以上ある広葉樹の中からよく使う木材を絞って、大小さまざまなサイズで揃えている。

こうした木材は、角材へと加工する「木取(きどり)」、丸く削り出す「旋盤」、表面を仕上げる「研磨」、見た目の美しさを整え表面を保護する「塗装」の工程を経て製品となる。どの工程も製品の良し悪しを左右することには変わりないが、その中で最も重要なのは「木取」だと倉茂さんはいう。

「我々の業界では木を読むというのですが、木目に沿ってスッと切断していくんです。その分、端材はたくさん出ますが、ここで木目に沿って切らないと製品になったときに狂いが出てしまう。ロスを恐れてやらない会社もありますが、長く使ってもらうために木取は絶対に必要だと考えています」

 

木目に沿って白くマーキングされた箇所を切り出す、木取の工程

 

 

専用の機械で角材を作り、旋盤加工機で丸棒に加工する

 

その後は、製品によって穴を開けたり、溝をつけたり、ネジをはめたりしながら、塗装へと進む。
だが、倉茂木工所は、塗装だけでも最低4つの工程を踏む。
まずは、木目が生きるよう木地に着色し、次に、上塗材の密着を良くするため、下塗と呼ばれる塗装をする。その後、表面研磨の工程を経て、ようやく上塗と呼ばれる最終的な塗装に入る。

 

左の木材に塗装を重ねる。右は下から順に、着色→下塗→上塗と、変化が分かるように作製した見本。

 

下塗後に表面研磨の工程を挟む理由は、肌触りを良くし、美しい見た目を保つため。また、そうすることによって、滑らかな肌触りと塗装の美しさ、狂いの少ない設計を両立させることができるのだ。

 

木地の塗面は紙やすりを使って研磨をする

 

 
 

どんな製品でも同じ品質で。倉茂木工所の当たり前

倉茂木工所は、どこか一つの工程が秀でているわけではない。すべての工程を丁寧に加工しているからこそ、最終的に倉茂木工所の高い品質に繋がっているのだ。その背景には「ここまで綺麗にしなくていいのだけど、使う側の立場になると、ついやっちゃうんですよね」と話す、倉茂さんの職人としての矜持が垣間見える。

 

 

「今でも農工具の柄をつくる仕事もあるのですが、脚物家具と同じ品質で納めると『ここまで綺麗にしなくていいですよ』と言われることがあるんです。でも、柄を納めるときだけ品質を下げると会社全体の品質低下に繋がりかねない。だから、どんな製品でも同じ品質で納めるようにしています」

 

 

品質の高さを求める倉茂さんにとって、他の脚物家具は勉強の材料。家具を見ると、つい椅子やテーブルの脚を触ってしまうのだという。

「食事に行くにしても、どこへ行くにしても、テーブルの脚を触ってしまうんですよね。同業者で研修旅行に行ったときには周りから『よくテーブルの下を覗いているよね』と言われたこともありました。表面処理の技術が表れるのが、肌触り。ずっと触っていたくなる脚はよい脚だと思います。特に岐阜県飛騨高山市の木工屋は本当にすごい。脚を組み立てたときの継ぎ目がわからないし、技術も設備も群を抜いていると思いますよ」

 
 

工場に吹く、新たな風。業界の波に左右されないために

 

 

工場を見学させてもらうと、若手の職人が多いように思える。全社員9名のうち、1/3である3名が20代の若手だそうだ。

「最近は、新卒や20〜30代の採用に力を入れています。ものづくり業界に関わりのない人からすると、何をやっているか分かりにくい仕事。だからこそ、募集要項の欄には仕事内容を具体的に書くように心がけています。最初は未経験で問題ないのですが、私たちが求めているのは単能工ではなく、多能工。今はできなくとも、将来的には複数工程を担当することに意欲のある人を採用しています」

 

 

高齢化が進む工場に新たに入ってきた若手職人。その中には、美術系の大学、デザイン系の専門学校出身者もいる。倉茂さん自身が以前から構想を練っていた自社製品の開発を視野に入れての採用だった。

「今やっているのはメーカーから依頼された仕事なので、そのメーカーの業界が繁忙期でない時期は手が空くんです。だから、そんな時間を使って、木材でインテリアを作れたらと考えています。燕三条にはプロダクトデザインに長けたデザイナーもいるし、デザイナーの卵もたくさんいる。まだ具体的な商品までは考えられていませんが、地域内の横の繋がりを活かしながら、自己満足ではない、ちゃんと売れる商品を作りたいと考えています」

 

 

品質に納期に、同業からも一目置かれている倉茂木工所。今まではOEMとしてその技術を活かしてきた。だが、次は自社発信のブランドにも挑戦したいと意気込む。

下請け工場から、メーカーへ。倉茂木工所はいま若手社員と共に新たな一歩を踏み出そうとしている。すべての工程を丁寧に加工している工場だからこそ、長く愛される製品が生み出されるのだろう。
そんな未来に思いを馳せた。

有限会社倉茂木工所

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FAX:0256-45-5240
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