2022.7.15 UP

難溶接材“マグネシウム”の溶接技術開発に挑んだ町工場の軌跡 株式会社アークリバー

実用金属のなかで最も軽く、衝撃吸収性が高いマグネシウム。その利点を活かし、ノートパソコンや携帯電話、一眼レフカメラなどに使われている素材だ。

だが、これらの製品の加工は、形状を成形されるのみで溶接まではされない。なぜなら、マグネシウムは発火性があり燃えやすいことから、溶接は極めて困難であるためだ。

三条市にある株式会社アークリバー(以下、アークリバー)は、文献などの資料は一切存在しない中、何年も試行錯誤を続けてマグネシウムを溶接する技術を身につけた。誰もやったことのない溶接にどのように立ち向かったのか。アークリバーの挑戦の軌跡と、溶接業の奥深さに迫る。

 

代表取締役会長の川越英男さん(左)と息子であり社長の健矢さん(右)

 
 

困難なマグネシウムの溶接を身につけたアークリバー

金属などを熱して溶かし、2つ以上のパーツを接合させる、“溶接”。自動車や鉄道、建築鉄骨など、私たちの身近にある製品に多く使われている技術だ。一方で、他の金属加工と比べ属人性が高く、技術を継承することが難しいといった課題も持ち合わせている。

 

 

そんな、データ化やマニュアル化に頼れない溶接業を30年以上続けてきたのがアークリバーだ。建築金具や工具の溶接を請け負いながら、新しい金属や難しい溶接方法にも果敢に取り組んできた。中でも特筆すべきは、加工が難しいマグネシウムの溶接だ。マグネシウムは花火の白色光にも使われる金属で、一定以上温度で大気に触れると発火する性質を持つ。

 

マグネシウムは特に粉塵が発火しやすいため、床に残らないように丁寧に処理をしている
マグネシウムに熱をかけて溶接する。極めて難しい技術が必要とされることは容易に想像できる。それを身につけたのがアークリバーだが、歴史を振り返ればまさに困難への挑戦の日々であった。

 
 

使い勝手はいいが、とにかく難しい。作り手泣かせのマグネシウム

アークリバーは、現会長の川越英男さんが1991年に立ち上げた会社だ。英男さんが溶接工としてのキャリアをスタートさせたのは18歳の時だった。誰が教えてくれるわけでもなく、先輩職人の姿を見て少しずつ技術を習得していった。

 

溶接工になって54年。72歳になった今でも現役で現場に出ている。
「溶接の基礎すらできなかったので、最初は工場に働きに行きました。でも、教えてくれる先生はいないから自分で見て覚えてやってみて。その繰り返しで少しずつできることが増えていき、23歳のときに兄と私の2人で独立し、会社を作りました。その後、私が40歳のときにその会社からさらに独立し、アークリバーを立ち上げました」

鉄やステンレスを中心に溶接を続けた英男さん。今までやったことがない仕事もまずは請けてやってみる。その積み重ねで技術が広がっていった。

そんな中、2000年に燕三条地域でマグネシウムを使った新製品開発に取り組むプロジェクト“県央地域マグネシウムアクションプラン”がスタートした。少しずつ溶接業の幅を広げてきた英男さんにとって、このプロジェクトに参加したことが大きな転機となった。100社以上の企業が参加し、アークリバーは同じ三条市の田辺プレス株式会社(以下、田辺プレス)と組むこととなった。しかし、お互いにマグネシウムに関する知見はない。曲げや穴あけなどの加工は田辺プレスが、溶接はアークリバーが担当し、各々で技術開発に勤しんだ。

 

 

マグネシウムの扱いの難しさは金属素材の中でも随一。それでも英男さんはこの加工に何度も挑戦した。文献も一切ない中で、トライ&エラーを繰り返しながら研究を重ねてきた。
「時間をかけてようやく溶接できる技術を身に着けましたが、それで終わりではありません。金属が接合されていたとしても、強度が伴わなかったり、金属を溶かしすぎてしまうと製品として使えるレベルには至らない。微調整を重ねて、マグネシウム溶接に適する条件を探し続けました。でも、ようやく適切な条件を見つけたと思ったら、今度は溶接の見た目が美しくない。強度と美観の両方を兼ね揃えるために何度となく調整を繰り返し行いました」

 

マグネシウムが腐食するまでの時間の研究も行っている

 

ようやくマグネシウムの溶接がものになったと思ったら、今度はマグネシウムが腐食し強度が持たなくなるという問題に当たった。最初は戸惑ったが、とある大学の先生の「酸化皮膜が出来ると腐食しない」という研究結果を見つけ、協力工場である塗装会社と研究し、酸化皮膜を作ることに成功した。

腐食の問題が解決すると、パートナー企業の田辺プレス*と、マグネシウムを使った軽量な車椅子を開発。
東京ビッグサイトで行われた国際福祉機器展に参考出品し、ブースに訪れた方々から評価を得た。

 

* 過去に田辺プレスを取材した記事はこちら

 

 

車椅子製作で培った技術で、軽量化の利点を活かせる製品として歩行補助の杖を開発。その杖を携えて出展した展示会で大きな注目を集めた。県央マグネシウムアクションプランに名乗りをあげてから既に10年が経っていた。

気づけば、プロジェクト発足から開発を続けてきたチームは田辺プレスとアークリバー以外に数組のみに。周りからは「まだやってんか。よそはみんな辞めたねっかや」と呆れられた。

それでも、田辺プレスもアークリバーも、やめようと思ったことは一度もなかった。

 
 

属人化しやすい溶接工でいち早くロボット化に着手

溶接は他の加工技術以上に、職人の勘と経験が物を言う世界。機械を使ったからといって綺麗に溶接されるとは限らず、最後はノウハウによる修正が必要となる。

 

 

「他の機械加工の場合、数値を入力すれば機械が自動でやってくれますが、溶接は自分の手で加工をやらなければいけなく、どれくらいの修正が必要なのか、数値化できないことが多いため、経験を積みながら自分で感覚を掴んでいくしかありません」

こう話すのは、英男さんの息子でアークリバーの2代目となる、未経験から職人を始めた健矢さんだ。

そして、溶接は製品を作る上で最後のほうの工程のため、寸法が違ったり、研磨が甘いなどと言った時に溶接屋がカバーする必要がある。それだけではない。電圧は朝、昼、晩と常に同じ数値を保っているわけではない。周りの家などで電気を使っているかどうかで微妙に電圧が変化するため、その差異を頭に入れながら調整を行う必要がある。
さらに、同じ素材だったとしても、ロットによって溶接箇所が薄いものがあれば、厚いものもある。
そんな、毎回違う条件下で溶接をするため、職人はその場その場での細かな判断が必要になってくる。

 

人の手では溶接できない角度もロボットなら難なく入る
一方で、アークリバーは効率化にも力をいれる。燕三条でまだロボット化が進んでいない時期から、溶接ロボットを導入。今は数百、万単位で製作する品物はロボットに、数十単位の製品であったり、細かな確認や条件の違いが発生する製品は人の手で溶接をしている。ロボットに任せられる仕事と人の手を介在させたほうがいい仕事を分担することで効率化を図っている。

 
 

若手にはもっと勢いが必要。今までと異なる新しい取り組みを

2021年11月にアークリバーは英男さんから健矢さんに代替わりし、会社として新しいスタートを切った。健矢さんは次男で子どもの頃は家業を継ぐことについて何も考えていなかった。しかし、長い年月をかけてマグネシウムの溶接を研究していた英男さんの姿を見て気持ちが芽生えたという。

 

 

「会社がマグネシウムの溶接を始めたのが、ちょうど親父が50歳くらいのとき。ようやく芽が出始めたのが60歳くらいでした。親父が作ってきたものを無くすのではなく、後に繋げていきたい想いもあって家業に入ることを決めました」

そんな健矢さんも気づけば12年目。まだまだ現役で元気な英男さんだが、後継ぎを育てたいという思いから社長職を退くことを決めた。

 

 

「まだやろうと思えば頑張れる。けれど、継いでくれる人がいるなら元気なうちに身を引いて一緒に仕事をしていったほうがいいと思いました。次の人が後で困らないようにどこかで黒子に徹しないと。4〜5年前から息子を表に立たせてお客さんとのやりとりも任せて、徐々に役割を移行してきました」

こうして次の世代にバトンを渡したアークリバー。
一方で、健矢さんは同世代の経営者や後継者の将来を憂う。

「燕三条というブランドは全国に浸透しつつあると思います。だからこそ、次はその土台の上で何をするかが重要です。でも、今は現役バリバリの70〜80代におんぶにだっこの企業も多い。移り変わりが激しく、応用力がないと生き残れない時代だからこそ、周りの30〜40代の経営者や後継者と協力しながら、別のベクトルに挑戦していくことも必要なのかなと思っています」

 

 

燕三条という金属加工の技術が集積される地で、危険を伴うと敬遠されてきたマグネシウムの溶接を身につけたアークリバー。社長になったばかりの健矢さんは今後会社をどうしていきたいのだろうか。

「代替わりしたばかりなので、まずはいろいろなことに挑戦していきたいですね。今までは建築金具や工具、福祉器具の溶接が中心でしたが、それ以外にどんな溶接ができるのか。大手が手を出さないニッチな分野を探していきます。見つけた枝がどんどん太くなって柱になるようなそんな領域に辿り着けたらいいなと思っています」

「いつか親父を超えることが目標」と話す健矢さん。マグネシウムの溶接を確立させた英男さんのように、健矢さんが次なる溶接業の在り方を作る日も近いのかもしれない。

株式会社アークリバー

〒955-0033 三条市西大崎1-28-17-4
TEL:0256-38-0260
FAX:0256-46-8876