鋳造と向き合い続けるひたむきさ。
金属工学をベースに試行錯誤を繰り返して
株式会社三条特殊鋳工所
その軽さとデザイン性の高さから調理人や料理好きを中心に高い評価を得ている。通常、鋳造ホーロー鍋の薄さは4mm程度だが、UNILLOYは約2mmと世界最薄。溶かした鉄を砂型に流し入れる鋳造は不良品が多く出てしまい、量産化には不向きとされていた。
この難題に立ち向かったのが、昭和36(1961)年から鋳造一筋で会社を運営してきた株式会社三条特殊鋳工所(以下、三条特殊鋳工所)。機械部品のOEM※と自社ブランドであるUNILLOYの開発販売、その両方を行う。
複雑な造形でも一度で生み出せる、“鋳造”という加工
金型で金属板を押し出すプレス加工の成型と違い、自由に形を生み出せることが強みだ。金属板を押し出すための複雑な金型をつくるには初期投資がかさむが、鋳造なら砂型をつくるだけなので比較的安価な型で量産できる。また、プレス加工ではできない、複雑形状の製造が可能なため、自動車のエンジンや工作機械の部品製造などで重宝されてきた歴史的背景がある。
しかし、鉄の鋳物がアルミに代替され、海外に仕事が流れたことで、国内の仕事は激減。昭和40年代には日本全国で4000社ほどあった鉄の鋳物屋が今では950社程度にまで減ってしまった。
金物のまちと呼ばれるここ燕三条でも、鋳物屋は三条特殊鋳工所を入れても数社しか残っていないのが現状だ。
強度と伸びがある「ダクタイル鋳鉄」を活用
経営が安定すると、商売よりもものづくりに夢中だった先代は新しい材料に目を向けた。アメリカとイギリスでほぼ同時に発明された「ダクタイル鋳鉄」にいち早く飛びつき、どうにか自社で加工できないかと研究を重ねた。
社長就任と共に、経営体制を一新
「親父のころは大手メーカーの仕事が8割くらい。ただ、完成品メーカーとの直接ではなくて4次請けなので儲かるわけがないし、好、不況で仕事量が大きく変動することを経験する中で、自分の努力の範囲外で会社が潰れるかもしれないリスクに恐怖を感じたんです。ですので、自分が社長になったタイミングで直接メーカーに営業に行って新規開拓。27ヶ月連続の新規契約に繋がりました」
もうひとつ、内山さんが経営者として気になっていたのが、自然と上位顧客の占有比率が上昇してくること。通常、顧客は鋳物部品は1社にしか発注しないため、その1社しか型を持たなかった。好況期には自然と受注量が増えるが、それが納期遅れにつながり、さらに他の顧客への納品遅れにもつながってゆくという連鎖が生まれていた。
「この問題についてはリスクを認識したお客様の方からの提案があり、対策を実行して頂きました。納期遅れはお客様にとってこそ大きなリスクと捉えられ、同一部品を複数の鋳物メーカーに並行発注する事で納期遅れリスクを解消されました。お陰で弊社も顧客のシェアーが偏ってゆく事が回避されています」
業界屈指の精度。各工程での細かな工夫が低い不良率につながっている
そもそも、なぜ鋳造は不良率が高いのだろうか。それは、一般的な金属加工と異なり、加工の過程を直接見ることができないからだ。
「鋳物の技術は①砂②型の設計③溶解の3つ。そのうちひとつでも崩れたら不良が増えてしまいます。例えば、鋳物は液体から固体になるときに体積がわずかに収縮します。そうすると、内部に巣が空いたり、表面が凹んだりする。その問題を解決する方法が型の設計なんです。鋳物は端のほうから固まっていくので最後に固まるところに穴があく。それを防ぐため、製品よりボリュームの大きい塊を製品とつなげ、それが製品より後から固まるように設計する。これを押湯といいますが、押湯をつける位置・大きさの研究も続け安価で合理的な型の設計方法も作り上げました」
初めてのホーローに苦労しながら、自社ブランドUNILLOYを開発
「最初、鋳物に原因があると言われても何をしたらいいかわかりませんでした。根気強く探していくと、ようやく南部鉄器の論文を見つけたんです。硬いところがあるとピンホールができやすく、目に見えない組織レベルで変えていく必要がありました。だから、鋳込む鉄の配合を変えたり、ホーローのピンホールが出ないように、できることは全部やりました」
「とにかくなんとかしなければと懸命に研究を重ねました。すでに工場と設備に3億円をかけてしまっていたので。それだけかけたのに途中で投げ出せないし、責任感が一番強いんじゃないでしょうか」
自社製品の生産を増やして、燕三条全体の仕事量を増やす
「先日、新潟県内でホーロー鍋の認知度を図る調査をしたところ、UNILLOYの名前が上位3位に入ってこなかったんですよね。これでブランドとしていかに認知されていないかを痛感しました。商品としては劣っていないと自負しているので、あとは認知度の問題。今はPR会社と一緒にその施策を考えています」
頑丈で錆びにくい、世界一軽い鋳造ホーロー鍋。ここまで質を担保できる商品になったのは、内山さん、そして社員の執念だ。ここからどこまで認知度を高められるか。まだ未開の地が拡がっている。
「下請けの仕事だけをやっていた会社が自社商品を作るようになったりと、今の燕三条は変わりつつあると思います。そういう地場の商品がもっと出てきたら、街全体の売上があがるし、別の企業に仕事を依頼できる。より太い循環につながっていくのではないでしょうか。海外のデザインコンペに出たり、展示会に行ったりと世界に発信する企業もたくさんある。そうやって地域全体が底上げできたらなによりかなと思っています」
不良率の多い鋳造で高品質のホーロー鍋を生み出した三条特殊鋳工所。その歩みには、数え切れないほどの努力があった。適切な加工方法を模索し、数値の微調整を繰り返し、時には文献を探し、「もっとよく」を追い求める。その姿勢は先代から一貫して変わらないものだ。
三条特殊鋳工所はきっとこれからも何度も試行錯誤を繰り返しながら、鋳造とまっすぐ向き合い続けていくのだろう。
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