2023.8.13 UP

「工具箱といえば中村精工」と言われる日を目指して
中村精工株式会社

 
 

ペンチやニッパーから、かなづち、のこぎり、専門的な道具まで、さまざまな工具を入れられる工具箱。

近年はDIYや日曜大工など家庭で使われる機会も多くなり、身近に感じる方も多いのではないだろうか。しかし、工具箱とはそもそも自動車整備や工事現場、金物工場といった現場で使われているもの。仕事に必要な道具をいつでも取り出しやすいように整理をしておくための箱だった。

工具箱作りにおいて、その道のプロからも趣味で使う人からも愛用される一品を製作しているのが、三条市にある中村精工株式会社(以下、中村精工)だ。ここでは職人が使う工具箱だけでなく、アニメや映画作品とのコラボレーションやスマートフォン用のスピーカー、医療品の洗浄ボックスなど、従来のイメージに囚われない展開が注目を集めている。

 

「工具箱といえば、中村精工と言われるようになりたい」

そう目標を口にする代表取締役の中村敏(なかむらさとし)さん。入社して50年以上、工具箱と向き合い続けてきた。「工具箱を世の中の人にもっと知ってもらうにはどうしたらいいか」「生産を安定させるにはどうしたらいいか」と。

敏さんが現時点で出した答えは何だったのか。先代から引き継いだ中村精工の軌跡と現在地を聞いた。

 

中村敏(なかむらさとし)さん。事務室にて話を伺った。

 

 
 

一般ユーザーにも広がり始めた、中村精工の工具箱

 

カラーバリエーションも多い、中村精工の工具箱

 

さまざまな用途に合わせたサイズ展開にマットな質感、落ち着いた色合いが特徴の中村精工の工具箱。工場や現場で働くプロだけでなく、一般の人でも使いやすいつくりになっている。

中村精工の工具箱は、ほとんどが手作業で行われる。複数の板材を溶接して箱を組み上げるのではなく、一枚の板材をベンダー(金属を曲げる加工機械)で折り曲げながら箱型を成形してくのだ。下側の箱と、上側の蓋をベンダーと手作業で作りあげ、持ち手などの細かなパーツを溶接し工具箱が完成する。その丁寧な仕事は建築や工場現場で働くプロから「落としても変形しにくい」と高い評価を得ている。

 

上部と下部の接合部もベンダーで曲げ加工される(カール曲げと呼ばれる)

 

ハードに使用する職人からも絶賛される工具箱。一見シンプルに見える形状だが、中村精工の工具箱には会社の歩みと技術が詰まっていた。

 
 

首都圏との取引に力を入れた創業者

創業者である中村権三郎さんは、三条市で他社の軒先を借りて溶接業を始めた。当時つくっていたのは、石油ストーブのタンク。真鍮と薬剤を材料にロウ付けする作業だったそうだ。権三郎さんは他の工場よりも少ない量の材料でロウ付けをできてしまうため親方を驚かせた。

 

 

「普通はロウ付けで真鍮の4〜5割を落とすのですが、親父はできるだけ落とさないように工夫していたそう。あまりにも真鍮が減らないものだから『お前、他所から真鍮を仕入れているんじゃないか』と親方から言われたこともあったのだとか。みんなが1ヶ月で真鍮10kgを使うところを、なんと2ヶ月間も保たせたこともあったみたいですよ」

周りも一目置くほどの技術を持っていた権三郎さん。溶接工場として独立し、近場の問屋から仕事を請け負うだけでなく、直接商社から取引ができないかと考え、首都圏の商社へと赴いた。その結果、埼玉と東京の商社と直接取引を結べて、オートバイの部品製造を請け負うことができた。

 

 

オートバイの部品製造に明け暮れる日々の中で、ある時に「工具箱を作ってくれないか」との話が舞い込んだ。工具箱は一時に大量に出回る商品ではないが、世の中からなくならない商品のひとつである。息の長い仕事ができそうだと、仕事を請け負うことを決めた。しかし、中村精工ではプレスと塗装はできず、知り合いの工場に一部加工を依頼し、中村精工が取りまとめるかたちで仕事をスタートさせた。

最初は順調に進んでいたものの、型の種類が多くなると莫大な金型代がかさみ、その負担が重くのしかかった。この先も新しい型の工具箱を受注たびに金型を増やすのは現実的ではない。そこで権三郎さんが取った方法は、工具箱を手作業メインで作ること。板材を曲げるベンダー機を用い、一箇所ずつ曲げて成形していくことにした。

 
 

協力工場がいるからこそ生み出される工具箱

 

曲げの角度を方一箇所づつ調整していく

 

現在、工具箱の製造は塗装以外すべてを内製化。タレットパンチプレス*で必要となる形状の板材を抜き出し、ベンダーで折り曲げながら成形していく。また、上部と下部を繋ぐカール部分もベンダーで折り曲げる。急な仕事にも対応できるようにベンダー機を10台ほど用意。スタッフは2〜3人だが、機械があればできる箱ものだからこその選択だ。

*タレットパンチプレス:板金の打ち抜き加工に使われる機械。板金を任意の形状に打ち抜くことができる。

 

板材を折り曲げた後は溶接により細かい部品を付けていく。効率化を図るためロボット溶接機も導入。

 

しかし、塗装の工程だけはこれまでに培ってきた技術と異なるため、現時点で内製化は厳しい。それどころか、塗装屋にお願いしても技術的な難しさから断られることも多いと敏さんはいう。

「市内に塗装屋さんは何軒もあるのですが、うちがお願いしても一つ返事で快諾が得られることはほとんどありません。いまは2軒お願いしているところがありますが、ここがもし廃業するようなことがあれば他を探すのは難しい」

それほどまでに難しい理由はなぜなのか。敏さんは「塗装をするときにどうしても必要な引っかかりがないから」と言葉を続ける。

「普通、塗装は製品に開いている穴にフックをひっかけて色を塗ります。ですが、工具箱は全て板材なので引っ掛ける場所がない。だから、工具箱の中を塗るのが難しい。実は、私が20歳くらいの時からずっと悩まされている課題なんです」

 

接合部の細かな部分までしっかりと着色されている

 

塗装に対する解決策はまだ見えないものの、中村精工が作る工具箱の評価は高い。この技術を目にした地場の企業から、アウトドア製品の製造を請け負ったこともある。

「工具箱のベンダー技術を評価されて、新しい仕事をいただきました。実は最初、ある製品の一加工だけを請け負っていたのですが、メーカーに行って組んでいない状態の部品を発見して。それなら組んでからお渡ししましょうか?と提案したんです。それからは信頼していただけて他の製品も依頼されるようになりました。工具箱もアウトドア製品も納めた状態でユーザーの手に届くもの。だからこそ、手で触っても切れないように安全面にはかなり力を入れています」

 

 

 
 

工具箱から生まれた新たな使い道

長年、工具箱や部品製造を請け負ってきた中村精工。近年は工具箱を自社製品として販売するだけでなく、工具箱を起点にした自社ブランドも立ち上げた。

 

いつかスペースシャトルで宇宙に行くことを夢見て「SHUTTLE」と名付けた

 

まず開発したのが、カラーや形のバリエーション豊富な「SHUTTLE」。こちらはどこでも好きな場所に持ち運べる電源を使わないスピーカーだ。フォルムは中村精工がずっと作り続けてきた「山型」の工具箱。側面と正面にはサウンドホールを設けて、低・中音域の音質と音量を向上。箱自体が共鳴することでスピーカーとしての役割を果たすので電源を使わずに大きな音で聴くことができる。アウトドアにぴったりの製品だ。

 

 

他に、医療現場で使われる滅菌箱「Fleyla」も開発。こちらは平成24年に参加した展示会で医療系の企業から手術用の道具を洗う箱を作ってほしいと相談を受け、共同で研究を進めた。「Fleyla」は医療現場でよく使われる滅菌方法にも対応できるようにアルミの上にアルマイト処理を施した。また、医療用具に合わせて形を変えられるように仕切りブロックも取り入れた。ブロックはシリコン製なので穴を開けたり、切り込みを入れたりして、道具を置きやすくすることもできる。

 

 

このような自社製品に取り組むようになったのは、「工具箱といえば中村精工」と言われる企業になりたいという社長自身の想いから。OEMの工具箱や部品の製造だけでは、中村精工の名前が表に出ることはなかった。今では、自社ブランドを携えて、中村精工の名前で展示会にも参加するように。さらにSNSアカウントの開設やインターネットでの販売も開始。こうした取り組みが少しずつ実を結び、今では映画やアニメなどのコラボレーションの相談が中村精工に舞い込むようになった。

 
 

工具箱が必要なときに思い出してもらえる会社に

 

 

業界以外の繋がりも増え、少しずつ認知が広まってきた一方で、今後もずっと工具箱を作り続けていけるのかという不安も残る。それは燕三条で担い手不足から廃業を選択する工場も増えているからだ。中村精工がお願いしている塗装工場もいつその選択をしてもおかしくはない。

「うちの工具箱にとって塗装は本当に大切な工程。だからこそ、いつか自分で塗装工場を建てられたらと考えています。塗装まで一貫生産できたら、オンリーワンの工具箱メーカーになれる。そしたらお客さんはうちに依頼しやすくなるし、量産も可能になるじゃないですか。大量生産の相談にも対応できるし、会社としての幅がぐんと広がるはずなんですよね」

しかし、塗装の設備だけで1億円、それに加えて技術も知識もゼロからのスタート。中村精工として塗装を始めるには課題は山積みだ。それでも、中村さんは楽しそうに夢を語る。

「塗装工場は入社したときからの私の夢。いつか全工程を担うことで、工具箱といえば中村精工と思ってもらえる会社になりたいです」

たったひとりの溶接工から始まった工場はいまや有名作品とのコラボレーションなど、新たな展開を迎えている。だが、それはまだ中村精工にとって序奏に過ぎない。

工具箱といえば中村精工と言われるその日まで、敏さんは走り続ける。

 

 

 
 

中村精工株式会社

〒955-0035 新潟県三条市中新32番26号
TEL:0256-38-1631
FAX:0256-38-1630
http://nakamuraseiko.co.jp/