技術継承のために選んだ「効率化」という選択。機械と人のコラボレーションで、ものづくりの心をつなぐ
株式会社阿部製作所
新潟県・燕三条。この特異な土地は、卓越した金属加工技術を持った職人が多数集まることで成り立っている。彼らが育ててきたなによりの強みは、その技術力だ。世界にも通用するほどの腕を持つ彼らは、自身の腕、眼を磨くことで、存在価値を高めてきた。日本国内でも「燕三条」はそれだけでブランド力を持ち、これまでに多くの人々を魅了してきた。
そんな唯一無二の技術を必要とされている一方で、生産地として燕三条に期待されていることがもう一つある。それは、需要に対し、製品を安定的に供給することだ。燕三条でつくられた製品を手に取りたいと願う人が増えれば増えるだけ、供給の安定化は課題視され、実現を求められる。
つまり、惹きつけられるほど高品質な製品を、安定的に供給し続けること。それが今、燕三条の技術屋には求められているのだ。
では、そのためにどうするか。これまで、職人たちはその難題に対して、あらゆる手段を取りながら解決策を講じてきた。今回取材をした株式会社阿部製作所(以下、阿部製作所)もまた、そんな課題に対する打ち手を思案している工場の一つだ。
効率化の鬼は、どこまで自社でやるのか
阿部製作所の創業は1946年。創業当時に手掛けていたのは、燕三条の金属加工業を後押しした洋食器の生産。とくに研磨業を中心として成立した。その後、小物製品の精密絞り加工業に着手。技術力を底上げするべく、「ワイヤーカット放電加工機」と呼ばれる溶融加工機を新潟県内で初めて取り入れたのも阿部製作所だ。それだけ、技術革新へのモチベーションが高かった。
阿部製作所の取引先の多くは、40年以上契約を継続しているというお得意様ばかり。それだけ、信頼感のある技術を提供している証拠だろう。長きに亘って培われた信頼は、難しいオーダーにでも「ノー」を言わずに挑戦するという志が生み出したものだった。
阿部製作所では、繊細プレス加工を「順送プレス」という手法で行っている。これは、一つの機械で加工における複数のプレス工程を進めるという方法だ。一工程ずつ加工を行う「単発プレス」とは異なり、材料を機械にセットすることで、ある程度加工を自動化できる。生産効率はもちろん大幅に向上する。
彼らは、それを経験と知識で乗り越えてきた。阿部製作所に現在置かれている順送プレス機は9台。これらを駆使することで、極力人の手を介さずして、一日に最大15万個の加工すら可能になる。
図面設計や金型製作など、生産フロー外の業務に関しても、生産性を高めるためなら果敢に挑む。たった25名の社員数だが、彼らは各人が最適に働けるような環境を社をあげてつくりあげてきた。
それでもなお、人間だからこそできること
たとえば、検品作業を行うブースではプレスされた部品を細かく目視で確認し、出荷しても問題がないクオリティなのかを判断している。場合によって、一人だけではなく、二人体制で同じ製品の検品に取り掛かっている様子さえ見える。
一見、効率とは縁遠いように見える風景だが、それこそが阿部製作所のもう一つの強みだ。「高品質であること」と「生産性を高めること」の両輪をまわすために、本当に人が介在して時間をかけなければならない作業に充てる時間を確保できるようになるのだ。
── 高品質、かつ、安定供給を実現する。
そんな難題に取り組むために必要なものとは。そのこたえは機械のみでも人間のみでもなく、その両方を華麗に取り扱う絶妙なバランス力だったのだ。
自動化されると「仕事がなくなる」というけれど
しかし、その限りではない場面もある。どれだけ効率化に成功しても、人の手、人の目が必要な場所は必ずあるからだ。むしろ、阿部製作所のように、効率を重視できる点においては上手に機械を導入し、人間が介在するべき点においては職人を総動員させるほうが、高品質な生産ラインを確保できるケースもある。
そこで、阿部製作所では以下のような取組を行っているという。
「新たな機械を導入する際に、今後その設備を一番使用するであろう若手社員と相談を行い選定するようにしています。実際に自動化が進んだ最新機械の操作習得に関しては、若手社員の方がはるかに早く、変化に対する抵抗が少ないです。ただし全てを自動化してしまうと、手を使う職人として活躍してきたベテラン社員側の反発も大きく、せっかくの技術伝承の機会を奪いかねません。その為、全自動で加工を行うことができる機械でもあえて汎用で動かすことができる手動ハンドルを選択できる機械を選ぶようにしています。設備を更新しても手を使用した従来通りの作業はそのまま行えるようにし、更新により若手しか機械を使用できないような状態を少なくする。さらに新しいものを取り入れることに対する抵抗感の少ない若手の素養やポテンシャルをかけ合わせてより深く機械操作を覚えれば、全自動化も目指せる状態にし、「技術伝承」と「自動化」の相反する2つのバランスをとるようにしています。こういった取り組みで、一見ハードルが高いものづくりの世界の門戸を広げていきたい思いです。」
高い技術と意志の継承には、それ相応の時間がかかる。ただし、その時間を少しだけでも短縮できたり、効率的な業務進行によって人間の存在がいっそう輝く機会をつくることができるのなら、そういった生存戦略はとても有意義なのではないか。
古き良き文化を守り続ける燕三条。そんな尊い意志を持つまちの一角で、阿部製作所の在り方から学んだのは、次世代に技術を残すための新しい挑戦ともいえるものだった。そんな彼らの意志が今後のものづくりの未来を明るく照らしてくれる日も、きっとそう遠くはない。
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