親子であり社長同士。ものづくりを真ん中に、それぞれの価値を生み出す最強タッグ 武田金型 & MGNET[後編]
この工場とひと続きでオフィスを構えているのが、「ものづくりしやすい環境」をつくることを目指す子会社のMGNET(マグネット)の店舗兼事務所です。
親会社の武田金型製作所を率いる父の武田修一さんと、子会社としてのMGNETを取りまとめる息子の武田修美さん。
それぞれ違ったアプローチから「ものづくり」に情熱を傾けるパイオニア精神は、裏方であった工場の新しい未来像を浮かび上がらせます。
2人の「武田社長」の型破りな挑戦の中身とは?
工場が今のカタチになるまでのドラマを綴った【前編】に続き、【後編】では武田流の仕事の世界に迫ります。
作りたいのは「コウバ」じゃなくて「コウジョウ」。信頼されるものづくり企業であるために
取材場所のテーブルの後ろには、武田金型製作所が手がけた金型を並べたアート作品のような大きなパネル。
「これ、ライトが点くんですよ。」
修一さんが楽しそうに話しながらスイッチを入れると、背後に金型の陰影が浮かび上がります。
どうしたら自分たちの仕事の事を分かってもらえるか、どんな見せ方をしたらウケるのか。
それはプライベートを問わず、社長としていつも考えていることだと修一さんは言います。
修一さんが作りたいのは、「工場(コウバ)」ではなく「工場(コウジョウ)」なのです。
「自分で会社を創業するまでは、いわゆる昔の『コウバ』に勤めていたんで、真冬でも下駄を履いて作業していました。先輩がそうしているから、自分も同じようにしていたんです。当然、みんなもよく怪我をしていました。あちこちにいろんな物が転がっているから足の踏み場所もないんです。こんな経験から、自分が会社をやる時はそれじゃだめだと思っていました。ちゃんと『コウジョウ』にしたかったんです。」
「工場がキレイな方が、お客さんに対しても遥かに説得力があります。『ここの社長は口ではテキトーなこと言ってるけど工場はキレイだから、ひょっとしたらなんかいいことしてくれるんじゃないの』ってね。今の場所に工場を移転する前は、盆と正月と5月の連休に、みんなで床の色塗りをしていました。昔はシンナー入りの塗料を使っていたので、終わる頃にはみんなフラフラ(笑)当時は工場の2階が家だったので、夜も匂いが残っていて眠れませんでしたよ。」
そう言われてふと工場の辺りを見渡すと、現工場も地面はピカピカ!
鮮やかな緑色の塗装が丁寧に施されていました。
しかし、ものづくり事業者の多い燕三条では「マネされるかもしれない」という危惧も少なからずあったはず。
例えば、先程見せて頂いた金型の工程を示すパネルを見て、銀行の担当者の方に「技術を盗まれないんですか?」と心配されたこともありました。
「ですが、ただの工程サンプルなので、そんなに重要じゃないんです。そのリスクを懸念するよりも、『ウチはここまでできますよ』というアピールをした方が、大きなメリットがありますから。」
工場内のあちこちに置いてある興味を惹くアイテムの中でも、特に気になるあるモノについても質問をしてみました。
「あの、あそこにあるのって3Dプリンターですよね?」
普通にやってちゃつまんない。「あたらしものずき」なんです
図面と同じ数値を入力すれば、作りたいものを簡単に形にすることができる3Dプリンターは、金型製作の際にも役に立っています。
「私たちは基本的にお客さんから図面しか頂けません。だから今までは、紙を折って頭の中でイメージしながら金型を作っていたんです。ところが、3Dプリンターを使えば実際にお客さんが作りたいものを作り、手に持って確認できるし、お客さんに『ここの部分が割れそうで…』と提案がしやすくなります。これは良いなと。金型を作るのが難しいときも、3Dプリンターで作った模型を見せて『ここに特別な工程が必要なので金型の値段が高くなりますよ』と説明すれば納得してもらいやすいんです。」
「あたらしものずきなんです。はっはっは」
どこまでも明るく、あの手この手で工場の魅力を伝える修一社長です。
「さっきもパソコンを立ち上げて、昨日の分の記事を上げてきました。」
修一さんのこの行動には、息子の修美さんの影響がありました。
前編では病気を患った修美さんが語る、今の工場のカタチになったきっかけを、後編ではお父さんの修一さん目線で聴いてみましょう。
「息子は体調を壊して勤めていた会社を休みがちだったので、『迷惑をかけないように辞めたら?』と話したんです。かといって金型屋を継ぎたくはなさそうだし、私も無理にやらせたくないなと思っていました。そこで与えたポジションが、まずは名刺入れの担当でした。」
その後、「マルチメディア事業部」として武田金型製作所の情報発信も担うことになった修美さんから「ブログをやってくれ。」と言われたことがきっかけでした。
父と息子、社長と社長のやりとりをいくつも経て、現在の武田金型製作所とMGNETの関係性が築かれていきました。
「大企業なら当たり前かもしれないことを、ウチみたいな工場がやるから面白いっていうのもあります。柔軟性がないとダメなんですよ。『普通じゃおもしろくねぇ』って思っています。」
そんな武田社長の座右の銘は、「いきあたりばったり」。
思いついたら良い物をどんどん取り入れる柔軟性と積極性。
確かに、武田社長の生き様をありありと表現している言葉かもしれません。
ものづくりの世界で「Make good networks」を目指して
微笑む息子の修美さんが出迎え入れてくれたMGNETの一室は、武田金型製作所とはテイストの違ったオシャレなオフィス空間です。
さらにもうひとつ、大きなミッションを掲げています。
「名刺入れの販売はもちろんなんですが、起業した時に使命として掲げたのが『ものづくりをしやすい環境を支援する』こと。これがMGNETの経営理念にもなっているんです。」
父の修一さんが社長を務める武田金型製作所に入り、名刺入れの商品開発をしてきた修美さんは、ジレンマを感じていました。
燕三条は、職人から卸売業・小売店まで全てが揃っている金属に関わるものづくりに特化した地域です。それでも、修美さんの言葉を借りると「手を伸ばしたら掴めそうなのに、いざ動き出してみたら遠近感が全然違う」とのこと。
「これを作ってください」とひと言お願いすれば、最終製品がすぐに出来る訳ではないのです。
名刺入れの加工をお願いするため、さまざまな事業者さんを回った修美さん。最初のうちは「気持ちは分かるけど、まず図面持って来い!」と追い返されてしまうこともありました。
「これが図面なんですけど…とパソコンのソフトで作ったものを渡すと『違う!CAD*だ!』と言われ、『あぁ、ウチの工場にあるアレを使うのか』と。それに、僕が帰った後に『武田金型んとこのバカ息子が来た』なんて話している声が耳に入ってきて落ち込んだりもしました(笑)そんなこと言われるとリベンジでお願いしに行きたくてもできなくなってしまいますよね…。何でも作れる街ゆえの、共通言語が必要だったり、こうしたハードルを少しでも下げていけたらいいなと思ったんです。」
そんな修美さんの苦い経験から生まれた社名に込められた意味。
──Make good networks. 「よりよい環境づくり。」
燕三条の技術で何かを作ろうと思ったときに、MGNETが事業者との間に入ってがっちりとつなげてくれる、まさに磁石のような役割を担いたいとの願いが込められています。
「今は、武田金型製作所として名刺入れなどの商品開発や広報的な立場を担う他に、依頼を受けてものづくりのコーディネーターやディレクターをさせていただくことが増えてきています。ウチの強みは、代理店機能だけではなくて作りたい人と作れる人の立場に立った製作も請け負うことができるところ。これも、武田金型製作所や地域との関係性があってこそ実現できています。」
「金型屋の倅(せがれ)」として育ったことを嫌厭していたかつての青年は、今や燕三条のものづくりの環境をより豊かにすることに使命感を燃やす、立派な社長です。
修美さんにも座右の銘を聞いてみると…?
「中学生くらいのころから変わらないのですが、『思い立ったが吉日』です。」
「次の新たな何か」を生み出す金型作りのスピリット
この言葉の背景には、共通する武田家のスピリットが隠されています。
既成概念にとらわれることなく一番いいカタチは何なのかを常に考え、これだと思えば実行してきた結果が、武田金型製作所であり、MGNET。
「新しいのもありますよ!」
武田金型製造所とMGNETの最強タッグは、次にどんなものを見せてくれるのでしょうか。
前進し続ける武田親子の姿から、まだまだ目が離せません。
前編(2017年8月15日UP)はこちらから!
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