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2018.1.14 UP

ブランド戦略はいらない。技術とアイデアで勝負する純国産アウトドアメーカー ユニフレーム

ユニフレームは、アウトドアを楽しむ人々からの根強い人気を持ち、30年以上の歴史がある日本のアウトドアメーカーです。生粋のアウトドア好きならば、必ず何かひとつの商品を持っているといっても過言ではありません。

しかし、ユニフレームの製造元が新潟県の燕市にある新越ワークスの一事業部であることはあまり知られておらず、社員でさえ「入社して初めてユニフレーム事業部だったと知って驚いた」という人もいるほど。

昨今もてはやされる「ブランディング」という言葉を気にもとめず、これまで主だったPRをせずに、まっすぐ「品質・価格・供給」の3つに注力するその姿は、規模があるメーカーとしては異色です。

売上を伸ばし、成功している秘密は、「ユニークな炎」を意味するブランド名に恥じないアイデア力と、それを実現する燕三条の技術力。今回は、そんな純国産アウトドアブランド、ユニフレームの実態を探りに行ってきました。

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大人気商品のユニセラ。卓上バーベキューグリルです

「湯切り」の製造工場で生まれた、日本のアウトドアメーカー

ユニフレーム事業部がある株式会社新越ワークスは、創業1963年・従業員数106人のキッチン用品の製造を主力とする会社です。

最も得意としているのは金網を使ったアイテムで、主力製品のラーメンやそばの「湯切り」は日本の国内で約7割ものシェアを誇っています。

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新越ワークスの強みである金網製品
そんな新潟の企業が、なぜアウトドア用品を───?
しかも、ブランドのPRをせずに商品の売れ行きを伸ばすことに成功しているのはなぜ?

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使い込むほど美しく変色していくユニフレームのケトル
疑問がたくさん湧いてきたところで、新越ワークス・ユニフレーム事業部の部長である田瀬明彦さんに詳しくお話を聞いてみましょう。

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ユニフレーム事業部長の田瀬明彦さん
「そもそも、新越ワークスの2代目である今の社長が、学生時代からアウトドアが好きだったことを理由に1985年に社内でキャンプ事業部を立ち上げたのがユニフレームのはじまりです。ブランド名は『ユニークな炎』という意味。僕がここに入社する以前の立ち上げ初期は、ガストーチなど、火を扱うアイテムをラインナップしていたので、『炎』が製品のキーワードになっているんです。」

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ユニフレーム立ち上げ初期からの強みであるガスを使った製品
田瀬さんが新越ワークスに入社したのは1995年。
当時は、国内の第一次アウトドアブームが終わり、ユニフレームは売上低迷の「冬の時代」に陥っている真っ最中でした。
そんな状況をなんとかしようと、田瀬さんのアイデアで誕生した製品が「ネイチャーストーブ」です。

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入社当初の田瀬さんのアイデアで生まれた「ネイチャーストーブ」
コンパクトな金属の塊を組み立てると、簡単に火おこしができるストーブになる優れもの。これが大ヒットし、後にユニフレームの事業部長となる田瀬さんのキャリアの第一歩となりました。

「これがヒットしたから今の僕がここにいるようなもんです。」
笑いながら田瀬さんは知られざるユニフレームの裏側を話してくれました。

他のメーカーの追随を許さない、ユニフレームの5つの強み。

田瀬さんにユニフレームのお話を聞いていると、社内での体制に5つの特徴があることに気付きます。その特徴を順番に紹介していきましょう。

まず1つめはアイディアです。
ユニフレームがアウトドア好きの人々から根強い人気を集める理由の一つは、「そうそうこんなのが欲しかったんだよ!」と思わせるような、かゆいところに手が届く機能性の高いアイデア製品が多いこと。

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どこにいても気軽にドリップコーヒーを楽しめる「コーヒーバネット」(OEM)
ユニフレームの製品づくりに20年以上も力を注いでいる田瀬さんの発想力が、ブランド自体の強みになっているのは言うまでもありません。

「僕は子供のころから『はつめ』なんて言われて育ちました。これは新潟の言葉で、アイデアマンという意味です。周りがそう言ってくれるので、幼いながらも『自分ってこういうのが得意なんだな』と気付き、新潟県内にあるプロダクトデザインの専門学校に進みました。」

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出張中の飛行機の中で思いついたアイデアをメールでメンバーに突然共有するなんてこともしばしば
「ユニフレーム事業を立ち上げた今の社長も『はつめな人』でね。社内でも予算を気にせず製品開発することが許されているんです。一般的には、新製品の開発のためにはまず金型*を作ります。それだけでも200万円くらいかかるんですが、ウチは会社に予算申請をしなくても自由に使えるんです。むしろ製品開発費が少ないと、社長直々に『ちゃんと製品開発してるのか?』と言われるくらいです(笑)」

*金型とは…プレス機などで部品をかたどる際に使う、金属製の型。

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新越ワークスの工場内にはかなりの数の金型が。これらをプレス機に付け替えて製品を作ります
そして、2つめの特徴としてあげられるのは、商品企画のスピード性です。なんと、ユニフレーム事業部には製品の企画を担当する部署がありません。

金型の取り付けや、製品の組み立て作業も部署のみんなで行い、誰であろうと製品のアイデアを出せる環境です。企画会議もなく、思いついたら事務所のすぐ隣にある自社工場や近隣の協力工場ですぐに試作に移るといった、柔軟性とスピード感が強みです。

全員がものづくりに精通しているので、製品開発が机上の空論で終わることはありません。

「工場の片すみに、試作品がころんと置いてあることも珍しくはないですよ。」
田瀬さんは話します。

3つ目の特徴は、ユニフレームでは、商品開発の段階でいっさい失敗を恐れないスタンスを持っているということ。

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「商品というのは、失敗しながら強くなっていくと思っています。だから、事業部のメンバーには『失敗しても俺がなんとかするからとにかく作ってみろ』なんてよく言います(笑)実際に量産してからすべて作り直し、なんて大失敗もありますが…。そんなことを恐れていたり、途中でもっといい方法を思いついても損失を考えてそのまま出荷してしまったりはしません。いいものを作ろうとすると、ある程度の失敗は必然だと思うんです。」

失敗を恐れずに妥協しない製品を届ける。よく聞く言葉ですが、この規模の工場の損失レベルを考えると、並の意志ではできなそうです。

特徴の4つめ。
そこには、製品の品質にただならぬこだわりを持つユニフレームの姿があります。
しかしこれは、田瀬さんたちからすれば、つくり手として当たり前のことだといいます。

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「自社の製品が特別に品質が高いとは思っていないんです。そんな風に見えるのだとすれば、正直、比較対象の他社の品質が低いんじゃないかなって思います。自分たちの品質もまだまだゴールではなくて、もっとよく出来るはずです。安価なアウトドア製品の中には、『これで販売しちゃうんだ』と思うようなものもあります。だからこそ、ユニフレームでは低価格と高品質を両立させて、ブランドの価値を保っているんです。」

この、ユニフレームの品質に関してのこだわりは、後ほどご紹介する工場の様子からも見て取れます。

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そして最後の特徴です。
ユニフレームの特徴でもあり、魅力とは4つ目の話にも通ずる圧倒的なコストパフォーマンス。ユニフレームの製品は、ユニークで品質が高いわりに、他の有名アウトドアメーカーと比べて消費者が手を伸ばしやすい価格設定です。思わず「なんであんなに安いんですか?」と質問してしまいたくなるほど。

そこには会社としてのバランス感覚の良さが影響しています。

「アウトドア製品はブランド同士の競争も激しいし、安価なコピー商品が出やすい業界です。下手に価格を上乗せすると競争に負けてしまうし、かと言って質が低いと買ってもらえないんです。この微妙な価格と質のバランスを維持するために、目先の利益率に縛られないことを大事にしています。」

ユニフレーム製品の中には、赤字の状態で新商品としてリリースするものもあると田瀬さんは言います。
それでもユニフレームは自社生産なので、徐々に製造の体制を変え、改善し、黒字へと転換することが可能なのです。

また、燕三条という土地柄、ユニフレーム事業部はものづくりの一部をその専門の協力工場にお願いしながら、持ちつ持たれつの関係を築いてきた背景もあります。
燕三条の地域のネットワークを活かし、他社メーカーのOEM生産も請け負ったりすることで、事業部全体として見たときの利益を担保しています。

「品質、価格、供給」の3本柱を可能にする社内体制

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ユニフレームの母体、新越ワークスは近隣に5つの事業部と4つの工場を持っています。
ユニフレーム事業部もある本社周辺の工場では、事業部を越えて横断的なものづくりを可能にできるのが強みです。

ユニフレームを支える新越ワークスの工場内も見てみましょう!

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工場内には湯切りになる前の金網が整然と積み重なっています
本社工場では、主力商品の「湯切り」の製造がメインで行われています。

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プレス機で部品の型を抜いているところ
新越ワークスの製造する業務用の湯切りは、飲食店や学校給食の現場で圧倒的シェアを誇っているからこそ、部品の異物混入などは許されません。製造工程から検品まで、徹底的な品質管理が行われています。

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新越ワークス全体として、この品質管理の体制が整っている点が、ユニフレーム製品の品質向上にも役立っています。

また、新越ワークスにはユニフレーム事業部の他に、ペレットストーブ*の製造販売をするエネルギー事業部もあります。2011年に出来たばかりの新しい工場です。

*ペレットストーブ…間伐材を固めて作った燃料「ペレット」を使用する環境に優しいストーブ

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エネルギー事業部で燃焼実験中をしている最中のペレットストーブ

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この長ーいベルトコンベアは、ペレットストーブの製造の際に使われます
どの分野の工場も、照明が明るくてゴミがほとんど落ちていないのが印象的です。
そのことを田瀬さんに伝えると───?

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「工場が整理整頓されていることは、質の高いものづくりをするための重要なポイントです。協力工場さんにものづくりをお願いするときにも、工場内の環境はチェックしています。」

ではここで、ユニフレームのアウトドア製品が生まれる現場にいよいよ入ります!

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これは部品をリベットして組み立てている様子

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ユニフレームが新しく導入した検査用の機械。燕三条にある他のものづくり企業の方が視察に来ることもある

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人の手で一つひとつ梱包作業が行われます

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ユニフレーム製品を語る上でも欠かせないのが、先ほどもでてきたこの地域ならではの生態系、燕三条の高い技術力を誇る協力工場の存在です。

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取材中にも歩いていける距離感に協力工場が点在
新越ワークスの本社のすぐ後ろには、ユニフレームの人気商品であるダッチオーブンを製造する協力工場があります。

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ユニフレームのダッチオーブンは、上の写真のような「ヘラ絞り」で作られています。
これは、金属の板に圧力をかけて金型を包むように押し当てることで、製品を形作る製造方法です。ユニフレームのダッチオーブンは10インチのもので重さは5.8kgにもなり、これを形を歪めずに形成するのには、実は高度な技術が必要とされます。

ユニフレーム事業部から歩いてすぐの距離感に、信頼できる技術力のある協力工場がいくつもある環境が、高品質と低価格を可能にしています。

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ユニフレームが協力工場と生産するダッチオーブン
しかし、価格を安くするために協力工場に無茶な依頼をすることは品質価値を下げることにもつながります。協力工場の負担が大きくなったり、相場を調べたら価格が安すぎる事がわかったりしたら、すぐに工賃を改定。

その中で、製品としての正当な価格を割り出していきます。

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「私たちユニフレームがこうして品質と価格を守っていられるのは、ここ燕三条というものづくりに特化した土地柄のおかげなんです。協力工場さんがいなければユニフレーム製品は完成しないからこそ、そんな方々との連携を大切にしています。」

ユーザーにとって大事なのは「ユニフレームであること」ではない

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製造の現場を中心に見てきましたが、製品は作っただけでは売れません。大々的にPRをしないユニフレームの製品はどのように販売されているのでしょうか。

ユニフレームでは製品開発を大事にしている反面、ほとんど予算を使っていないのが、ブランド戦略やPRの部分です。ユニフレームでは、顧客データを持たず、SNSなどでの発信も一切行っていません。

「実は、当社のFaceboookページがありますが、あれは偽物(非公式)なんです(笑)」

最近までは、ブランドの命とも言えるロゴマークが人気製品のファイアグリルや、バーベキューグリルのユニセラにすら入っていなかったのです。

「ユーザーの方からロゴがあったほうがいいという声が増えて、ここ数年になりやっとロゴを入れることにしました。」と田瀬さんは言います。

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アウトドア好きの人々に根強い人気を誇るユニフレームの「ファイアグリル」
この事実には取材を通して、とても驚かされました。

例え良い物を作っても、それが正しく消費者に伝わらなければ商品は売れません。
ユニフレームがこれほどまでにPRをすることなしに売れているのは、ブランドの信頼の歴史が持つこれまでの販路と、その他社を凌駕する圧倒的なコストパフォーマンスが理由なのでしょう。

「ユニフレームという名前自体に社内の私たちは興味が無いんです。ロゴを入れるよりも、ロゴを入れるために生産工程で機械を動かして製品に傷がついてしまったり、金型が1つ増えて値段が上がってしまったりする方がリスクが大きいという考え方です。『良いアウトドア製品を買ったら、たまたまユニフレームだった』くらいで充分です。だからウチは“見たことはあるけどユニフレームのものだとは知られていない”アイテムが結構多いのだと思います(笑)」

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ロングセラーのクッカーセットにも、ユニフレームのロゴが見当たりません
────アウトドアの主役はあくまでもそれを楽しむ人たちであって、ユニフレームはその場を引き立てる最高の裏方でありたい。

そんな考え方に、日本人のものづくりらしい奥ゆかしさと、ものづくりに対しての芯の強さを感じます。

ユニフレームの主なPR方法としては、定期的につくる製品カタログのみ。
そのため、新商品を発売してから安定した売上を確保するまでに、約5年もの歳月がかかるといいます。

「ところが、ありがたいことに年々ユニフレームファンが増えているのも事実です。販売店からの要望もあって最近ステッカーを作ってみたんですが、イベントのときにお客さまに配ったら『かっこいい』と言ってもらって、自分たちがびっくりしちゃいました。」

普通のことを守りながら、世界へも羽ばたいていく

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「僕らが長い間大事にしてきたのは、ブランドとしてのかっこよさよりも、シンプルな『品質、価格、供給』の3本柱だけです。PRを大々的に行わないのは、ものづくりに100%の完成品なんてないと思っているのも、ひとつの理由かもしれません。発売から10年以上経ったロングセラー商品も、いまだに改良を重ねています。私たちユニフレームはあくまで製造業なので、『品質、価格、供給』の3本柱さえ追いかけ続けていれば、成功できることを証明したいとも思っています。」

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現在、ユニフレーム事業部に所属するスタッフは燕市の本社に24名、東京支社に4名。田瀬さんが入社したころの2倍になりました。

若い社員さんもとても多く、社内は明るい雰囲気が漂います。

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若い社員さんがいきいきと働くユニフレーム事業部
休日には、みんなで自社製品を使ってバーベキューを楽しむこともあります。
「新越ワークスの他の部署からは『あいつら遊んでばっかりだな』とか思われているかもしれないですね(笑)」そう冗談を言う田瀬さんは、日々のものづくりをとても楽しんでいる様子です。

コツコツと真っ直ぐに、愚直にものづくりを続けてきたユニフレーム。
今では海外からの引き合いも増え始め、近隣のアジア諸国やオーストラリアでの販売もはじまりました。

ブランド戦略を”あえてしない”ものづくりの在り方

メーカーとして最優先にするのは「モノの良さ」なのか、それとも「ブランドとしての世界観」なのか。

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台湾限定カラーの、赤く塗られた「ツインバーナー」
ユニフレームがブレずに前者を選択して進んでこられた背景は、現場のたゆまぬ努力と、近隣の協力工場と強固に結びつくこの燕三条の土地で、母体である新越ワークスの存在を強みにしたものづくりが欠かせません。

高い技術力を持つ工場の多い土地柄を活かし、長い年月の中で消費者とも生産者とも信頼関係を結んできた結果が、今のユニフレームの人気につながっていることは間違いありません。

ブランディングを重要視する傾向が高いようにも思える昨今。
あえてブランド戦略を排除したものづくりの成功事例を、ここ燕三条で見ることができました。

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株式会社新越ワークス ユニフレーム事業部
事務所・工場
住所:新潟県燕市田中新1011
東京営業所
住所:東京都千代田区九段南4-3-13
電話番号:03-3264-8311
http://www. uniflame.co.jp