ブランド戦略はいらない。技術とアイデアで勝負する純国産アウトドアメーカー ユニフレーム
しかし、ユニフレームの製造元が新潟県の燕市にある新越ワークスの一事業部であることはあまり知られておらず、社員でさえ「入社して初めてユニフレーム事業部だったと知って驚いた」という人もいるほど。
昨今もてはやされる「ブランディング」という言葉を気にもとめず、これまで主だったPRをせずに、まっすぐ「品質・価格・供給」の3つに注力するその姿は、規模があるメーカーとしては異色です。
売上を伸ばし、成功している秘密は、「ユニークな炎」を意味するブランド名に恥じないアイデア力と、それを実現する燕三条の技術力。今回は、そんな純国産アウトドアブランド、ユニフレームの実態を探りに行ってきました。
「湯切り」の製造工場で生まれた、日本のアウトドアメーカー
最も得意としているのは金網を使ったアイテムで、主力製品のラーメンやそばの「湯切り」は日本の国内で約7割ものシェアを誇っています。
しかも、ブランドのPRをせずに商品の売れ行きを伸ばすことに成功しているのはなぜ?
当時は、国内の第一次アウトドアブームが終わり、ユニフレームは売上低迷の「冬の時代」に陥っている真っ最中でした。
そんな状況をなんとかしようと、田瀬さんのアイデアで誕生した製品が「ネイチャーストーブ」です。
「これがヒットしたから今の僕がここにいるようなもんです。」
笑いながら田瀬さんは知られざるユニフレームの裏側を話してくれました。
他のメーカーの追随を許さない、ユニフレームの5つの強み。
まず1つめはアイディアです。
ユニフレームがアウトドア好きの人々から根強い人気を集める理由の一つは、「そうそうこんなのが欲しかったんだよ!」と思わせるような、かゆいところに手が届く機能性の高いアイデア製品が多いこと。
「僕は子供のころから『はつめ』なんて言われて育ちました。これは新潟の言葉で、アイデアマンという意味です。周りがそう言ってくれるので、幼いながらも『自分ってこういうのが得意なんだな』と気付き、新潟県内にあるプロダクトデザインの専門学校に進みました。」
金型の取り付けや、製品の組み立て作業も部署のみんなで行い、誰であろうと製品のアイデアを出せる環境です。企画会議もなく、思いついたら事務所のすぐ隣にある自社工場や近隣の協力工場ですぐに試作に移るといった、柔軟性とスピード感が強みです。
全員がものづくりに精通しているので、製品開発が机上の空論で終わることはありません。
「工場の片すみに、試作品がころんと置いてあることも珍しくはないですよ。」
田瀬さんは話します。
3つ目の特徴は、ユニフレームでは、商品開発の段階でいっさい失敗を恐れないスタンスを持っているということ。
失敗を恐れずに妥協しない製品を届ける。よく聞く言葉ですが、この規模の工場の損失レベルを考えると、並の意志ではできなそうです。
特徴の4つめ。
そこには、製品の品質にただならぬこだわりを持つユニフレームの姿があります。
しかしこれは、田瀬さんたちからすれば、つくり手として当たり前のことだといいます。
この、ユニフレームの品質に関してのこだわりは、後ほどご紹介する工場の様子からも見て取れます。
ユニフレームの特徴でもあり、魅力とは4つ目の話にも通ずる圧倒的なコストパフォーマンス。ユニフレームの製品は、ユニークで品質が高いわりに、他の有名アウトドアメーカーと比べて消費者が手を伸ばしやすい価格設定です。思わず「なんであんなに安いんですか?」と質問してしまいたくなるほど。
そこには会社としてのバランス感覚の良さが影響しています。
「アウトドア製品はブランド同士の競争も激しいし、安価なコピー商品が出やすい業界です。下手に価格を上乗せすると競争に負けてしまうし、かと言って質が低いと買ってもらえないんです。この微妙な価格と質のバランスを維持するために、目先の利益率に縛られないことを大事にしています。」
ユニフレーム製品の中には、赤字の状態で新商品としてリリースするものもあると田瀬さんは言います。
それでもユニフレームは自社生産なので、徐々に製造の体制を変え、改善し、黒字へと転換することが可能なのです。
また、燕三条という土地柄、ユニフレーム事業部はものづくりの一部をその専門の協力工場にお願いしながら、持ちつ持たれつの関係を築いてきた背景もあります。
燕三条の地域のネットワークを活かし、他社メーカーのOEM生産も請け負ったりすることで、事業部全体として見たときの利益を担保しています。
「品質、価格、供給」の3本柱を可能にする社内体制
ユニフレーム事業部もある本社周辺の工場では、事業部を越えて横断的なものづくりを可能にできるのが強みです。
ユニフレームを支える新越ワークスの工場内も見てみましょう!
また、新越ワークスにはユニフレーム事業部の他に、ペレットストーブ*の製造販売をするエネルギー事業部もあります。2011年に出来たばかりの新しい工場です。
そのことを田瀬さんに伝えると───?
ではここで、ユニフレームのアウトドア製品が生まれる現場にいよいよ入ります!
これは、金属の板に圧力をかけて金型を包むように押し当てることで、製品を形作る製造方法です。ユニフレームのダッチオーブンは10インチのもので重さは5.8kgにもなり、これを形を歪めずに形成するのには、実は高度な技術が必要とされます。
ユニフレーム事業部から歩いてすぐの距離感に、信頼できる技術力のある協力工場がいくつもある環境が、高品質と低価格を可能にしています。
その中で、製品としての正当な価格を割り出していきます。
ユーザーにとって大事なのは「ユニフレームであること」ではない
ユニフレームでは製品開発を大事にしている反面、ほとんど予算を使っていないのが、ブランド戦略やPRの部分です。ユニフレームでは、顧客データを持たず、SNSなどでの発信も一切行っていません。
「実は、当社のFaceboookページがありますが、あれは偽物(非公式)なんです(笑)」
最近までは、ブランドの命とも言えるロゴマークが人気製品のファイアグリルや、バーベキューグリルのユニセラにすら入っていなかったのです。
「ユーザーの方からロゴがあったほうがいいという声が増えて、ここ数年になりやっとロゴを入れることにしました。」と田瀬さんは言います。
例え良い物を作っても、それが正しく消費者に伝わらなければ商品は売れません。
ユニフレームがこれほどまでにPRをすることなしに売れているのは、ブランドの信頼の歴史が持つこれまでの販路と、その他社を凌駕する圧倒的なコストパフォーマンスが理由なのでしょう。
「ユニフレームという名前自体に社内の私たちは興味が無いんです。ロゴを入れるよりも、ロゴを入れるために生産工程で機械を動かして製品に傷がついてしまったり、金型が1つ増えて値段が上がってしまったりする方がリスクが大きいという考え方です。『良いアウトドア製品を買ったら、たまたまユニフレームだった』くらいで充分です。だからウチは“見たことはあるけどユニフレームのものだとは知られていない”アイテムが結構多いのだと思います(笑)」
そんな考え方に、日本人のものづくりらしい奥ゆかしさと、ものづくりに対しての芯の強さを感じます。
ユニフレームの主なPR方法としては、定期的につくる製品カタログのみ。
そのため、新商品を発売してから安定した売上を確保するまでに、約5年もの歳月がかかるといいます。
「ところが、ありがたいことに年々ユニフレームファンが増えているのも事実です。販売店からの要望もあって最近ステッカーを作ってみたんですが、イベントのときにお客さまに配ったら『かっこいい』と言ってもらって、自分たちがびっくりしちゃいました。」
普通のことを守りながら、世界へも羽ばたいていく
若い社員さんもとても多く、社内は明るい雰囲気が漂います。
「新越ワークスの他の部署からは『あいつら遊んでばっかりだな』とか思われているかもしれないですね(笑)」そう冗談を言う田瀬さんは、日々のものづくりをとても楽しんでいる様子です。
コツコツと真っ直ぐに、愚直にものづくりを続けてきたユニフレーム。
今では海外からの引き合いも増え始め、近隣のアジア諸国やオーストラリアでの販売もはじまりました。
ブランド戦略を”あえてしない”ものづくりの在り方
高い技術力を持つ工場の多い土地柄を活かし、長い年月の中で消費者とも生産者とも信頼関係を結んできた結果が、今のユニフレームの人気につながっていることは間違いありません。
ブランディングを重要視する傾向が高いようにも思える昨今。
あえてブランド戦略を排除したものづくりの成功事例を、ここ燕三条で見ることができました。
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