2021.12.15 UP

提案型で得た知見を生かして。地域で連携して拡張するものづくり

創業以来、OEM*でのものづくりを続けてきた長岡市にあるササゲ工業株式会社(以下、ササゲ工業)。

*OEM:自社で製造した製品を自社商品としてではなく、他社のブランドで販売する製造業社のこと。Original Equipment Manufacturere の頭文字を取ったもの。

 

取引先が吸収合併されてしまったこと等をきっかけにして、次第にクライアントへ「こんな商品をつくりませんか?」と自ら提案するように。そうしていると、次第に「ササゲさんのところなら提案してくれるから」と、まず提案ありきでの仕事の依頼が増えてきた。

前回『日々是ものづくり』で取材した2016年からおよそ5年。提案型をさらに加速させて走り続けたササゲ工業は、この5年でどう変化したのか。2020年9月に代表取締役に就任した捧大作さんにお話しを伺った。

そこに見えてきたのは、ただ真っ直ぐに顧客と地域と向き合う、兄貴分的存在の捧さん、そしてササゲ工業の姿だった。

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提案型をさらに強化した5年間

「こんなのできるんですけど、作って来てもいいですか?」

今でこそ提案型ものづくり会社として認知されてきたササゲ工業だが、そのはじまりは小さな営業からだった。

それが今では「ササゲさんの所なら提案してくれる」と信頼する企業も多くなった。「5年前よりエスカレートじゃないけど、こちらから強めに提案することが増えましたね」と捧さん。提案型を繰り返してきた知見と経験が、自らの信頼と自信に繋がっていた。

 

 

2020年には異業種である酒蔵「吉乃川株式会社」(以下、吉乃川)とのコラボも実現。

製作したのは、高い品質のまま日本酒を保管できるステンレスボトル「カヨイ」。ボトルに日本酒を詰めて家庭まで配送し、飲み終わったら酒蔵まで返送。日本酒を詰め直して再配送し、繰り返して”おかわり”できるサービスだ。クラウドファンディングでは、達成率1069%で総額530万円以上の支援金が集まった。

 

 

企画のきっかけは、2019年に開催された日本酒のイベント「にいがた酒の陣」で吉乃川の社長から「同じ長岡市内だし、一緒に何かやろう」と話したこと。

当初は以前ササゲ工業がつくったステンレス製の酒器からアイデアを練ることを考えたが、「今までにやったことがないものを」と日本酒を入れるステンレスボトルを開発することにした。酒器を製作したときに得たノウハウを発揮できると考えたからだ。

素材に使用したステンレスは、日本酒を貯蔵しておく醸造タンクと同じ「SUS316L」。一般的なステンレスよりもさらに錆に強いとされている素材だ。

 

 

「カヨイ」は、上部・中部・下部の3パーツで構成。日本酒の品質を守るために溶接部分がお酒に触れないよう徹底した管理を行った。全部で5事業者が製作に携わった。ササゲ工業がディレクションとして入り、表面処理やスピニングなど専門に強い工場に依頼した。

こうして、ものづくり企業の技術が結集した日本酒用のステンレスボトルが完成し、酒蔵でつくられた日本酒の味を損なわず、家庭まで届けることが可能となった。

「製品が出来上がると今度は売り方をどうしようかなと。そしたら、吉乃川の社長が日本酒を詰めて飲み終わったら返送してもらうようにしてみようって。江戸時代では徳利が空になったら酒を注ぐ販売方式だったこと、ゴミが出ないこととか、吉乃川さんは時代に合ったストーリー作りが上手い。一つの商品からどんどんストーリーを肉付けしていく方法を勉強させてもらいました」

 

 

ササゲ工業と協力工場の共同製作はこれだけではない。
2020年には横浜のとあるホテルからアフタヌーンティースタンド製作の相談を受ける。ホテルから見える大観覧車をモチーフに作ってほしいとだけ伝えられたが、これはササゲ工業側からの提案を望んでのことだった。

インターネットでそのホテルの特徴を調べ上げ、イメージした形状を自分で試作。それををもとにホテル側とブラッシュアップを重ねていった。それができるのも、自社で試作までできてしまうササゲ工業だからこそだ。

「デザイナーさんだったら、絵を描いて相談できるんでしょうけど、私はどっちかというと作ったほうが早い。具体的になってくると、先方も意見を出しやすいからだんだん答え合わせができるようになるんですよね」

 

 

机上の図面やデザインだけではなく、まず実物からアプローチできるのは、ものづくり企業の強みだ。

ササゲ工業では自社で実物を作り出せるからこそ、顧客の希望を叶えることもできる。
最終段階でホテルから「断面を金メッキにしてほしい」と相談を受けた。メッキ屋に相談に行くと、金メッキ加工はできるが、かなり細かい箇所の塗装を一度剥ぐ必要があることがわかった。そこで、捧さんは一つひとつ手作業で塗装を剥がし、メッキ屋へ持っていき、なんとか金メッキを施すことができた。

こうして出来上がった製品を納品。
ホテルの方はもちろん、利用者からも好評でアフタヌーンティーを楽しむ人が増えたそうだ。

 

 

 
 

提案×小ロット生産×地域性のものづくり

 

 

大量生産・大量消費の常識が崩れつつある昨今。小ロットでの需要は着実に伸びてきた。

提案を始めた頃は100〜300個納品の仕事をしていると「そんなもん仕事じゃねえだろ」と先代である父親に怒られた。しかし、5年以上積み上げてきたからこそ、需要があることを実感。顧客の要望に応え、時にはササゲ工業から強く提案し、ビジネスとして成り立たせてきた。

長く提案を繰り返していると、より短いスパンでの開発と商品イメージの汲み取り力がついてくるそうだ。

「みんな結局はスピードを求めているので、できるだけ早く試作品を作ってあげたいなと。普通新商品を作るとなるとデザイナーさんに頼んで、加工屋さんにこんな加工はできますか?と聞くところから始めるんだけど、うちは全部飛ばしてすぐに作れるから。1年かけて開発するところを、うちなら2〜3ヶ月で作っちゃうので(笑)」

 

 

スピード開発のメリットはそれだけではない。開発の現場に近ければ近いほど、熱量高く顧客に話すことができるのだ。開発の背景やこだわった点、どう活用してほしいかなど、企画したときの熱い想いがまだ色褪せていないからこそ、トークに熱が出てくる。

顧客が求めることを理解し、汲み取り、表現する力。これらは経験を重ねるごとに少しずつ身につけていった。今では要望を少し聞いたら「あとは任せてください」とすぐに試作品の製作に移ることが多い。

「ご提案の的が外れることもそりゃありますよ。でも、違ったらそうじゃないんだとなったり、違うけどこっちがいいからこの路線で行こうともなる。そのやり取りも刺激的で面白いんです」

 

 

試作も、商品を小ロットで生産していくことも、捧さん一人では決してできない。ササゲ工業のスタッフ、ササゲ工業の周りにいる協力工場の助けがあってこそ成り立つビジネスだ。

最近は難しい加工を相談されるほど、「どうにかしてやってやるぞ」と熱くなる。自分にできないことは他のスタッフへ、自社でできない加工は仲間の工場へ。協力してくれる人・企業が身近にいることこそが、捧さんの最大の強みなのだ。

 
 

提案型で培った知見をもとに自社製品を開発

 

 

提案型のものづくり企業として、企業の新商品開発に取り組んできたササゲ工業。今まで培った知見をもとに今後は自社製品の開発に取り組みたいという。

「ある程度商品開発に関するノウハウが溜まってきたので、自社商品の開発に取り組んでいきたいですね。今考えているのは、新型コロナウイルス関連の商品。飛沫感染スタンドや消毒液スタンドとか、まだ機能だけを追求した商品が多いけど、もっとデザイン面にも力を入れて空間に馴染む商品を作っていきたい。例えば、この前自社で開発したのが金属を格子状にあしらった飛沫感染のスタンド。おしゃれだから、インテリアのひとつとして導入してもらえたら」と情勢と自社でできることを交差させる。

 

 

他にも家具やインテリア商品の開発にも興味があるのだという。

「燕三条には調理道具やアウトドア商品の自社ブランドはあるけど、家具やインテリア分野は少ない。数が出ないから誰もやらないんじゃないですかね?でも、うちの強みは小ロット。だからこそ、小ロットでデザイン性の高い製品を作り出せると思います」

 
 

地域内の連携を強め、多様性のある街に

燕三条は他社と協力しあえる地域であるはず。でも、積極的に繋げようと動く人がいない。捧さんが声をかけると「今からでも来いさ」と受け入れる人は多いが、自ら動いて繋げようとする人がいないのだという。

それに加え、身の回りにいる若手に仕事を頼むと「そんなに技術がないから」と断ってしまう人も多いとも。「もっと積極的に動かないと」と捧さんは地域の未来像に課題を感じている。

 

 

「最初から失敗のない奴なんていない。失敗を重ねてできるようになっていくものだから、最初は断らずまずはやってみることが大事だよね。失敗したって謝って改善すればいい話で、難しいことができると達成感があるじゃないですか。みんなのモチベーションもあがるんですよ」

ディレクションという立場だからかもしれないが、捧さんは人を見て、人と仕事をしたいように見える。他社の若手もそんな捧さんを慕って集まってくる。

「最近の若い子って怒られないから、怒ると『なんでそんなに怒ってくれるんですか!』と余計に慕ってくるんだよね。怒られることが新鮮なんだと思うんです」

 

 

燕三条には、板金加工や表面処理、研磨屋など、多様な技術を持つ職人がいる。こうした人たちが連携していけば、もっと多様性のある街になる。自社内だけ、業界内だけで固まらず、枠を飛び越えて繋がることで新たなアイデアが生まれるかもしれない。

誰もが「燕三条は多様性のある街なんだ」と誇りを持てるように。捧さんは今日も地域を繋ぎながら、動き回っている。

ササゲ工業株式会社

〒959-0161 新潟県長岡市寺泊竹森1337-1
TEL:0256-97-3215
https://www.sasage-industry.co.jp/

▽2016年11月15日公開記事
これが日本の燕の底力!「結集型」ものづくりの秘訣 ササゲ工業
https://sanjo-school.net/spblog/?p=127